第三話 誤解 ―勇者VS炎の双拳―
異形を撃退し、休憩をした後。
私は勇者を探す為、あてもなく森を彷徨っていた。
地図も無い状況で、見知らぬフィールドへと転移させられた私だが、それでも全然不安ではなかった。
何せ、もし現実に戻りたい時はログアウトすればいいのだ。
しかも普通のVRネトゲなら、空のアバターが数分間放置されてしまう危険性もあるが、この世界ならその心配も無い。
安心して勇者探しが出来る。
勿論、この世界の人間達は私のような存在と違い、きちんと生きているのだから、この世界で問題が起きているというのなら早急に対処する必要があるが。
と、呑気に歩いていたその時だ。
いつもの癖で、私は耳を澄ませながら歩いていた。
足音が聞こえる。
ザザッ、ザザッ、という足音。
足音の後、金属と金属がぶつかり合う音が響く。
――近くで戦闘をしている?
私は丁度音が聞こえた場所の近くにあった茂みに隠れ、その様子を確認した。
私の予想通り、戦闘をしている音だった。
一人は黒髪に一部金髪が入った黒い衣服を纏う、片手剣使いの男。
もう一人は――――。
「わ、私・・・・・・?」
紫の短髪、青い瞳の顔、そして紫のシャツとスカートの少女。
紛れもなく私自身。
だが、それは紫のオーラを纏っていた。
最初に攻撃を繰り出したのは、私の偽物からだ。
両拳の炎を体中に循環させ、相打ち覚悟の体当たりを放つ技《炎装乱舞》。地を這うような突進が、男を遠くへと吹き飛ばす。
男は顔をブンブンと振ってから再び立ち上がり、剣を持つ右手を高く掲げた。
金色の雷が剣の刃へと降り注ぎ、刃へと吸収される。
そのまま男は高く飛び上がり、偽物の私に向かって剣を振り下ろした。
雷が偽物の私を焼き尽くし、偽物の私が黒い光へと変じ、爆発する。
男は何もない空間で剣を切り払った後、腰の鞘に収める。
茂みから出た後、私は歩いて立ち去ろうとする男の前に出た。
「ちょっと待って、君が勇者・・・・・・だよね?」
「お前、さっきの奴らの仲間か?」
「え?」
男の質問に対し、何も答えられずにいると、男は剣を抜いて言う。
「もしそうなら、俺がやるべき事は一つだ。
勇者として、お前を討伐するッ!」
勇者は剣を高く掲げる。
先と同じ雷が、刃に吸収された後、勇者は飛び上がる。
そのまま私に向かって、剣が振り下ろされた。
私はそれを先読みし、右手の籠手で防御した。
「君、本当に勇者なの?
この問答無用っぷり、まるで殺人プレイヤーだね。
残念だけど、一度目を覚ましてもらうよッ!」
私は眼を細めながら、勇者に言い放つ。
右拳で剣を弾き、左の手刀で勇者の腹を切り払う。
勇者の腹に傷は付かなかったものの、勇者は右手に握られた剣と共に遠くの木へと吹き飛んだ。
「ここに出現する異形にしては強いな・・・・・・。
お前、何者なんだ?」
「アンタ、何か勘違いしてない?
私は異世界から来た転移者だよ。君の敵じゃないよッ!」
私は構えなおしながらも、未だ自分を敵と判断する勇者に反論する。
「喰らえッ! 勇者の一撃ッ!」
再び勇者の得意技だ。
刃に吸収された雷を、敵に振り下ろす技。
雷は私の頭上に向かって、ズドンと落ちてくるが、私はそれを左の籠手でガードする。
「こうなったら、解放技で行くしかないみたいね。
神炎之拳ッ!」
私の叫びと同時に、炎が金色に変化する。
炎の双拳の技を強化する、最強の解放技。
それが《神炎之拳》。
金色の炎を纏う両腕を交差させ、更に激しくなる両腕の炎と共に、私は地を蹴った。
まず、右腕が剣技の右薙ぎの如く、腹を斬った。
次に、左拳が勇者の胸に激突し、勇者を後退させる。
炎の輝きにも、星の爆発にも見える光が更に輝きを増した後の攻撃は、最早発動者の私にすら、目で追うことは不可能。
ラストアタック――――十六撃目は、胸を貫く威力を秘めた右ストレートだ。
しかし、私は殺さない程度に威力を弱めておいた。
鋭く引き絞られた右拳が、勇者の胸に激突し、貫かずに遠くへと吹き飛ばす。
勇者は竹とんぼの如く回転しながら宙を舞い、そのまま近くの木へと激突した。
これが、炎の双拳の上位技《炎星爆裂》。
「さて、これで大人しくなったかな?
手加減はしておいたから、すぐに起きられる筈・・・・・・」
予想通り、勇者は少し経った後立ち上がった。
「ん・・・・・・、俺は負けたのか」
私は起きた勇者に、話しかけてみた。
「目が覚めた?」
「お前・・・・・・、ここら辺の敵の割には強いな。
何者だ?」
「えっと勇者さん。私を敵と思っているところ悪いけど、私は君が戦っている組織の一員じゃないよ?」
キョトンとした顔で私を見る勇者。
「私は北条朝美。この世界の神に頼まれて、勇者を助けるように言われたの。
だから、私は君の味方。敵じゃない」
「つまり、カケルみたいな奴か?」
「うーん、説明するのは難しいけど、私は元の世界から転移しただけだから、転生とは違うかな。その人も転移者なら別だけど」
勇者は腕を組んでから答えた。
「だとすると、カケルとは違う感じだな。
それにしても、俺達の手伝いを頼まれたのか。
てことは、お前は俺の仲間になる感じなのか?」
「うん」
「マジか。さっきは悪かったな。
一応自己紹介しておくわ。俺はリョーヘイ。
勇者をやっている」
カッコつけながら言うリョーヘイ。
「よろしくね、リョーヘイ君」