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第十六話 家主・いんどまぐろ子(後編)

今回は、レストラン・ゲロマズの家主、いんどまぐろ子が登場します。


大人の品格を漂わせる彼女が出会ったのは、いつもの席でコーヒーを飲む原島修一郎。


そして、まぐろ子の記憶に浮かんだのは、東郷会長から聞いた「ある男」の話でした。


果たして、原島修一郎とは何者なのか。


それでは、第十六話をどうぞ。

まぐろ子は修一郎の席の前に立った。


「失礼。」


修一郎は静かに顔を上げる。


「お名前を伺っても?」


「原島修一郎。」


その名前を聞いた瞬間だった。


東郷会長の言葉が頭をよぎる。


『昔、エクアドルである方に命を救われたことがあってね。』


『その方は世界最強と呼ばれた傭兵だった。』


『あの方がいなければ、私は今ここにはいない。』


(原島修一郎……。)


(東郷会長が話していた、最強の傭兵って……。)


(そんな名前じゃなかったかしら。)


(……まさかね。)


まぐろ子はすぐに微笑みに戻った。


「素敵なお名前ね。」


修一郎は何も言わない。


静かにコーヒーを一口飲む。


まぐろ子はそのまま椅子の横に立つ。


「今夜、お食事でもどう?」


修一郎はカップをソーサーに戻した。


「明日、胃カメラだから絶食だ。」


まぐろ子は少し驚く。


「そう……。」


すぐに微笑む。


「じゃあ明日の夜は?」


「大腸検査で絶食だ。」


ブル子が思わず動きを止める。


シャー子も耳をそばだてる。


まぐろ子は少しだけ考える。


それでも表情は崩れない。


「そう……。じゃあ、その次は?」


修一郎は静かに答える。


「医者に外食を禁止される。」


一瞬、店内が止まる。


シャー子が吹き出す。


「勝てないシャー!」


ブル子も笑ってしまう。


まぐろ子は肩をすくめた。


「完敗ね。」


そう言って、小さく笑う。


「こんなに断られたのは初めて。」


修一郎は何も言わない。


ただ静かにコーヒーを飲み続ける。


「ありがとうございましたダー。」


まぐろ子は店を出る前に振り返る。


「また会いましょう、原島さん。」


修一郎は無言のまま右手を軽く挙げた。


それだけだった。


まぐろ子は嬉しそうに微笑む。


「ふふっ。」


カラン。


ベルが鳴る。


ブル子は窓の外へ目を向けた。


歩いて行く後ろ姿は、どこまでも美しかった。


そして、もう一度修一郎を見る。


変わらず静かにコーヒーを飲んでいた。


(原島さん……。)


(やっぱり不思議な人。)


午後の陽射しが店内へ差し込む。


レストラン・ゲロマズは、今日もいつも通りの時間が流れていた。


【第十六話 完】

いんどまぐろ子、初登場でした。


大人の女性らしい余裕を持ちながら、原島にはまったく歯が立たない。


胃カメラ、大腸検査、そして医者に外食禁止。


原島の返しは、今回も見事でした。


しかし、まぐろ子が原島の名前を聞いて思い出した東郷会長の話。


この出会いが、これから少しずつ過去へつながっていきます。


次回は、いよいよ東郷会長と原島修一郎の過去に迫ります。

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