第十六話 家主・いんどまぐろ子(前編)
いつも『レストラン・ゲロマズ』をご愛読いただき、ありがとうございます。
前回までの第十五話では、東郷玄十郎と原島修一郎の過去が少しだけ明かされ、店内に緊張感が漂いました。
そして今回は、空気を変える新キャラクターが登場します。
家主・いんどまぐろ子。
華やかで上品な大人の女性。
そんな彼女が、いつものゲロマズにやって来た時、ブル子が感じたものとは――。
第十六話「家主・いんどまぐろ子(前編)」
どうぞお楽しみください。
昼の十二時。
レストラン・ゲロマズ。
カラン。
「いらっしゃいませダー!!」
店長・ピヨ田ゲロ彦の声が店内に響く。
昼時の店内は、多くの客で賑わっていた。
ブル子は料理を運び。
シャー子は空いた食器を片付ける。
原島修一郎は、いつもの窓際の席で静かにコーヒーを飲んでいた。
その時だった。
カラン。
ベルが鳴る。
一人の女性が店へ入ってくる。
淡いクリーム色のブラウス。
上品なロングスカート。
華やかなメイク。
嫌味のない香水の香りがふわりと漂った。
その姿に、店内の何人かが思わず目を向ける。
店長はすぐに気付いた。
「家主さんダー!!」
女性は優しく微笑んだ。
「こんにちは。今日も繁盛しているみたいね。」
「おかげさまダー。」
「今日は建物を見に来ただけだから。」
「いつでもどうぞダー。」
女性は静かに店内を歩き始めた。
壁に目を向ける。
窓枠を確かめる。
床を見渡す。
天井を見上げる。
一つひとつ丁寧に確認していく。
ブル子は、その姿を見つめていた。
歩き方まで美しい。
自然に背筋が伸びている。
落ち着いた笑顔。
柔らかな物腰。
自分にはない、大人の品格だった。
女性はブル子に気付き、足を止める。
「あなたがブル子ちゃん?」
「はい。」
「店長から話は聞いているわ。」
「笑顔が素敵な看板娘なんですって。」
ブル子は照れながら頭を下げた。
「ありがとうございます。」
店長が近付いてくる。
「紹介するダー。」
「この店の家主の、いんどまぐろ子さんダー。」
「よろしく。」
「よろしくお願いします。」
まぐろ子は軽く会釈した。
その仕草まで上品だった。
ブル子は思わず見惚れる。
(素敵……。)
(私も、いつかあんな大人の女性になれるのかな……。)
まぐろ子は再び歩き出した。
ゆっくりと店内を見回す。
その時だった。
窓際の席。
静かにコーヒーを飲む修一郎が目に入る。
まぐろ子の足が止まる。
ただコーヒーを飲んでいるだけ。
それだけなのに、自然と目を引かれる。
言葉では表せない存在感。
思わず見入ってしまう。
(……素敵。)
まぐろ子は修一郎へ向かって歩き出した。
【前編 続く】
第十六話「家主・いんどまぐろ子(前編)」をお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、家主である「いんどまぐろ子」が初登場しました。
ブル子とは違う“大人の魅力”を持つ女性として描いています。
そして最後、まぐろ子の視線が止まった先にいたのは、もちろん原島修一郎。
次回の後編では、いよいよ二人の会話が始まります。
まぐろ子の大人の余裕は、果たして修一郎に通用するのか。
それとも――。
次回の「家主・いんどまぐろ子(後編)」もぜひお楽しみに。




