第26話:満流の後悔とロワールの思惑
ここはとある場所の洞窟の中。
敵の大将である陛下ことロワールの力による幻影で出来た居城。
まだ元の力が戻らずにぐったりしている輝夜はロワールに抱きかけられたまま身動きが取れずにいた。そのままロワール直属の眷属、ラビットによって用意された輝夜のための部屋に連れて来られた。
その部屋には窓らしきものはあるが、洞窟の中だ。開かないだろう。入口の扉は一つだけ。部屋の中は豪華な装飾品、調度品で満たされていた。一応女性を意識したのだろう。壁紙は淡いピンクの色だった。
〝……………。牢屋とかを想像していたからびっくりした。何なの、これ……………。まるで貴族の邸とかお城なみじゃない?〟
輝夜はその豪華さに驚いていた。確かにロワールは〝伴侶〟とも言っていたが……………。
〝伴侶なんかになるわけないでしょ。私には満流っていう相手がいるんだし。サッサと逃げ出さないと!〟
輝夜は自分の痣について情報を得たのでこれ以上ここにいる意味はないと判断して逃げるための情報を得ようと辺りを視線で部屋の中を見回した。
「パドリス、ケドリス。」
ロワールが二人を呼んだ。
「はい。陛下。」
「お前たち二人で輝夜を護衛しろ。おもちゃ扱いは取り消しだ。我の伴侶にする。いいか。」
「はい。承知致しました。誠心誠意護衛を致します。」
それを見て納得したロワールは輝夜を静かにベッドに横たわらせてから首元に手をかざすと滲み出ていた血が止まった。その瞬間にジンジンとしていた痛みが引いた。だが、まだ輝夜自身の体力等は元には戻らない。このまま動けない状態で何かをされるのかと思うと輝夜は表情を曇らせた。
だがロワールはそんな輝夜から離れてフッツと息を吐いてから
「しばらく静かに眠っていろ。」
そう言葉を吐き捨てて彼は静かに部屋を出た。安心した輝夜はフッと眠りに落ちていった…。
しばらくして目が覚めた時、部屋の隅っこで待機していた護衛を任されていたあの双子の一人が輝夜に気付いて近付いてきて声をかけた。それに合わせてもう片方も近付いてくる。
「なあ、お前。逃げようって考えたって無駄だぜ?」
「そうそう。ここはあの扉からしか出られないんだ。陛下が出た瞬間にこの部屋は鍵がかけられてるんだからな。」
何も聞いていないのにペラペラと喋ってくれて輝夜は助かった。こちらかの情報は出さないように気を付けなくちゃ……………。彼女はそう思って黙っていることにした。
「はん、まだ話する力すら戻ってないのか。人間ってのは弱っちいな。」
……………。なんか悔しい……………。輝夜はグッと耐えた。
その頃、満流と悠一はというと
ようやく悠一のあばら骨が繋がり傷が治ったところだった。
「満流、輝夜さんのこと……………。」
「ああ、大丈夫だ。俺と輝夜はちゃんと繋がっている。」
そう言って満流は胸元にポンと軽く手をあてた。
伊達に長年〝幼馴染〟をしてこなかった、それだけ絆を紡いで来たってことか。───ふっ、悠一は笑った。
「だが、奴らが行った場所がわからねぇ……………。どうやら一時的に輝夜に何かあったのか、力が弱っていた。徐々に回復はしてるようだが完全に体調が戻らないと性格な輝夜の場所は特定出来ない…。」
そう言ってから満流は俯いて黙ってしまった。
〝そもそも今日、強行突破しようとしたのは俺だ。少しでも被害を押さえたいと思っていたからだが、それで輝夜を奪われるだなんて本末転倒だな。〟
輝夜が自分から戻ってくるのを待つしかないのか……………。
満流と悠一は傷が感知しても暫くはその場から離れることが出来なかった。長く続く二人の沈黙…。既に雨も上がり星空が雲間から見えることもあった。
悠一は満流との付き合いはあまり長くはないものの、いつもおちゃらけた彼がここまで肩を落として沈んでいる姿は初めて見た。それほど彼女を心配しているのだろう。悠一自身も彼女を心配してはいるが彼女の強さを理解しているからこそそれを信じようとする気持ちが大きいのだろう。
悠一は顔をパッと上げて、満流の方をジッと見て静かに言う。
「輝夜さんならきっと力が身体に満ちると余程の強い結界の中でもない限り、時空結界を展開してそれを利用して戻って来れるでしょう。だからあまり心配しないで……………。」
そう言ってそっと満流の肩に手を置いた。
「ああ、輝夜のことだ。勝算がなければあんな行動はきっと取らない。だが…そう思っていても不安になる……………。」
輝夜がアイツらに何をされているかわからない……………。今は生きていることはわかるが、他はどんな状況なのかも全くわからないのだ。
「こんな不安なこたねえよ。輝夜……………。」
満流が不安を覚えている時
輝夜はまだ体力ともに回復途中だった。
〝情けないなぁ……………。腕を動かすだけでも息が切れるだなんて…。自己治癒が速くなってるってのにやっぱり「血」を造るのって難しいのかな……………。〟
輝夜は用意された部屋のベッドに横たわったまま、まだ動けずにいた。回復次第、ここから逃げようと思っているのに肝心の回復が中々進まないのだ。
ロワールに初めて吸血かれてから8時間が過ぎた頃だろうか…
輝夜の部屋にロワールがやって来た!
バ─────ン!
大きく扉が開かれた。
「お前の血を寄越せっつ!8時間しか持たなかったじゃないか!」
輝夜がそっと視線をやるとロワールは元の子供の姿に戻っていた。
「知らないわよ……………。」
輝夜はポツリと呟やいた。
「私、まだ回復していないから無理っ!そうじゃなくても痛いし無理っ!」
「はっ!話出来るだけ回復してるではないか!」
「そういう問題じゃない!起き上がれないし無理っ!」
「………………ああ、起き上がれないのか。それは好都合。お前はどうせ逃げようと考えるだろうからな。」
ロワールは輝夜の寝ているベッドに近付いてそのままベッドの上に乗ってきた。
─────ギシ…。
軋むベッドの音に輝夜は恐怖を覚えたが悟られないように強気で言葉を返す。
「何言ってんの?ドアはそこしかないし、無理でしょ!?」
ロワールは輝夜の上にかぶさるように馬乗りになり、輝夜の両腕を捕まえる
「………………お前からは特別な力が感じられる。だからきっと何か方法はあるのだろう。」
─────ドキッツ
「は?何のことだか……………。」
〝やけに鋭いな……………。〟輝夜は焦った。そして押さえつけられた両手を離そうと踏ん張るがまだ体力共に戻っていない輝夜には何の効果もなかった。
「まあいい。それよりもお前の血を早く!」
「嫌だって言ってるじゃない!」
それでも今の持てる力で全力で拒否する輝夜。しかし万全であっても叶うかどうかわからない相手にまだほとんど戻っていない体力で敵うはずもなく、
「はっ、そんなに抵抗するお前も悪くないのだがな。」
そう言い放ちニヤリと笑ったロワール。またもや彼は容赦なく輝夜の首筋にガブリと噛みついた!
「────ったい!痛いってば!」
輝夜の言葉なんてお構いなしにロワールは輝夜の血を吸い続ける。
〝ダメだ…。意識が朦朧としてくる。どうしよう……………。満流…。〟
輝夜は血を吸われている途中から意識が無くなった。抵抗していた腕が力なくパタリとベッドに落ちていった。その様子を見てロワールはニヤリと笑った。
そう彼は知っている。繰り返し吸血する事で相手の意識を奪えるということを────
ご覧下さりありがとうございます。目の前で輝夜を連れ去られた満流はずっと後悔しています。




