第21話:雷雨の悲劇!
今回、真ん中あたりから残虐なシーンがあります。気を付けて読み進めて下さい。
せっかく犠牲をこれ以上出さない為にも自分が囮になると決意した朝、梅雨が近いせいか雨が降り出した。西の空を見ても厚い雨雲がずっと先まで続いている。天気予報を見ても同じで今夜も雨のようだ。更に不運なことにここ数日雨が続く予報となっていた。
輝夜は躊躇している。頭では今夜から決行すべきだと理解している!だが、心の奥底であの日の光景が焼き付いて恐怖で動けないでいる…。
そんな輝夜を見かねて満流が近付いてきて輝夜の肩に手をポンと置いた。
「そんな焦んなって。雨が降ったらあいつらも嫌かも知んねぇし…。な。」
そう言って満流ははにかんだ。
輝夜は冷や汗をかいていた。何も知らない悠一は黙って二人のやり取りを見ていた。
「ほら、学校。そろそろ出ないとやばくないか?」
満流にそう言われて輝夜も悠一も慌てた。
雨が降って歩き辛いけど、駆け足で学校へと向かったので遅刻はせずに済んだ。
三人で登校するとみんながこっちを一斉に見ていたが、輝夜の心境はそれどころではなかった。今夜から決行するか気持ちが落ち着いてから決行するか…。
暫く悩んだ。
〝数日はこの天気だと予報でも言っていたということは、それだけ被害が拡大する可能性もある。満流は私のためにああ言ってくれたけど本当は今夜から決行すべきだと私自身だって思ってる…。〟
────そう。輝夜のトラウマは実の母が亡くなった時の記憶だ。
ずっと封印されていたので忘れていたが、あの日初めて覚醒した時に一部だけ思い出したのだ。母は病気で亡くなったと聞かされていたが実は悪鬼との戦いが関わっているということを……………。その後、あの〝無〟の空間に行ったあとで徐々に思い出していったのだ。だが、誰にも心配をかけまいとそれを隠してきた。それでも流石に満流にはバレてしまった。それは満流が白のキングとして目覚めた時、つまりあの〝無〟の空間で満流自身、輝夜から話を聞いていたことを思い出していたのだ。だが輝夜の気持ちを尊重して黙っている。
輝夜は振り返る────
あの日のことを……………。
あの日、
梅雨に入って暫くした雨の夜。私はまだ5歳だった頃、夜中に目が覚めて母を探して境内の奥へとふらふらと歩いて行った。屋根がついていたからだろう。いつも母がよく行く本殿へと続く道……………。
元々雷は得意ではなかった。だけどあの時は母の姿がないことに恐怖を覚えて必死で探していた。
「ママ…。どこ…。」
今から思えば、あれは最後の悪鬼を倒すための戦いの最中だったはずだ。だが、母はキングと出会えていなかった為にその力を存分に発揮出来ず、封印をするしか選択肢がなかったのだ。
つまり、力不足の母が封印をする。それは母の命をかけた儀式だったはずだ。
あの日、私が母を探して出て行かなければ…。もしかしたら母はまだ…。
あの日の母は黒の装束を着ていていつもよりも黒々とした長い髪がゆらゆらと空に揺らめいていて、周囲は炎が舞っていた。
そんな中、悪鬼に立ち向かう母は今までに見て来た母の中で一番綺麗だったことはとてもよく覚えていた。
「悪鬼!そなたを封印する!覚悟っ!」
そうして母が空を指で切った時、私は母に向かって「ママー」と手を伸ばして駆け寄ったのだ。
「──────────!?輝夜っ!」
その瞬間のことはゆっくりと、ひとコマずつ時間が流れるかのように今でも忘れる事が出来ない。
「来ちゃ駄目!────危ないっ!」
──────────ザシュッツ……………!!
母は儀式の途中だったのに悪鬼が私に鋭い爪を立てて狙って来たので咄嗟に私を抱き寄せて自分の身で私を庇った。その瞬間、悪鬼のその鋭い爪は母に向かってその美しく細い背中を引っ掻いた!
ピシッ────ッ!ゴロゴロゴロ…!!背後には雷の轟き……………!
「──────────グハッツ……………!!」
攻撃を背に受けた母は悲痛な顔で呻き声をあげた。私はその瞬間を目の当たりにし、何度も何度も「ママ、ママ!」と繰り返していた。
母の背中からポタポタと血が地面に落ちていく…。
「かぐや、ここにいたんだ……………。」
そう言ってその日に泊まりに来ていた満流がやって来て共にこの現場を目撃してしまった。
「────これは……………!!」
「満流くん……………輝夜をお願い。」
覚悟を決めた顔で母が満流に私を預けてから悪鬼の方へと戻って行った。私は傷ついた母の背を見ながら何度も
「ママ!ママ!やだ、行っちゃ駄目!ママっ!」
そう叫んでいたが母は振り向く事なく悪鬼に立ち向かって行った。
すぐに母は封印の儀式を再開するが中断したことと、傷を負った分、更に力が必要となった。そのために母は自分の全ての力を出すために命を懸けることにしたのだ。
目の前で母が血を吐きながら悪鬼を封印する姿…。雨がザーザーと激しく降っていて雷もずっと鳴っていた。ただでさえ怖い夜。それなのに母が傷付き死にゆく姿を見てしまった5歳の少女。目の前には悪鬼が物凄い形相で苦痛の悲鳴をあげながら封印されていくその姿…。たった5歳の少女には衝撃が大きすぎる夜だった。
それ故、そのおぞましい記憶を最後の力を振り絞って母は封印したのだ。
それが全てだった。
母の死の真相。そしてそれに自分が関わっていたこと、そしてそれでも自分のために記憶を封印した母の愛…。輝夜は全てを思い出したあの日。とても泣いた。一人でこっそりと…。
もう流石にあまり泣かなくはなったが、雨の降った雷の日は今も苦手だ。
囮作戦の最初の日。そんな状態で決行すれば失敗する確率が出てくる。それを恐れて満流も輝夜の気持ちが落ち着くのを待っていてくれてる。
「私は自分に向き合うべき時なのかもしれない…。」
輝夜は今日は授業どころではなかった。各教科担当もいつもと違う輝夜の様子に困惑しながらも普段はキチンと授業を受けているので黙認していた。
放課後、夜月神社へと帰宅した三人はダイニングに集まり
「今夜はやめよう!あと数日、待ってからでも全然遅くない!だから中止だ。」
満流がそう言った。
事情を知らない悠一は一瞬たじろぐが、満流の行動には必ず輝夜の気持ち優先だということを知っているので何も言わずに満流の意見に同調した。
「そうですね。こんなに雨が降ってると視界も悪くなりますし……………。」
「ああ。だから4日後に雨が止むのを待って作戦を決行しよう!」
満流の言葉に悠一が頷く。そして二人は輝夜の方を見た。
「………………あ…。」
輝夜はまだ自分の気持ちの整理が出来ていないことで二人が気を遣ったんだとすぐに理解した。
「ごめん……………。ふたりとも。朝はあんなに張り切って言ったのに……………。」
輝夜は顔を上げることが出来なかった。
「あ?何言ってんだ。そんな事、気にすんな!それに俺、雨ってなんつーか、うっとおしくてさ、やる気出ねぇんだよなぁー。」
満流があっけらかんとそう言った。
「あはは!僕も濡れるの、あんまり好きじゃないんですよね。だからよかった!」
満流の言葉に悠一ものってきた。
「………………!ありがとう、ふたりとも!」
輝夜が二人にお礼を言うと二人は満面の笑みで輝夜を見た。
ご覧下さりありがとうございます。今回、輝夜の母が亡くなった時を中心にお届けしました。輝夜にとって雷雨はトラウマなんですよね。




