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星霜エルフの追想録  作者: 古賀月 蜜柑


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第19話 信じてる

 丘を下り、林を抜けて道なりにしばらく歩くと、だんだんと周囲の景色が開けてくる。


「開けてきたな…もうすぐアマカゼ平原だぜ」


「あいつらのせいで、余計な時間食っちゃったからね。もうクタクタだよ……」


「とはいえ、もうすぐで今日の目的地、俺たちの故郷、フィンベルだよ」



 次第に周囲の景色にのどかな田畑が増えてくる。しかし、どこも作物が育っている感じはなく、どこか寂しさも感じられる小さな町に到着した。


「この辺は、前に話した通り、一年前の噴火でしばらく使い物にならなくなっちまってるんだ。当時に比べたら復興した方だけど、まだちょっと寂しいよな……」


 カイレンとアシュレイは懐かしげに、しかしどこか少し悲しげな表情であたりを見回す。


「でも、今はこの立地のおかげで賑わってるみたいだよ」


 セリが少し遠くを指差す。小さな村の中央に、明るく大きな建物が見えてくる。


「アマカゼ平原は星祭り以外にも、何かとイベントで使われる場所でね。そんな平原に一番近いこの村は農業のほかに、宿街としての側面もあるんだよ」


 到着したリュミナたちが見たものは、明日の星祭りを楽しみにしているたくさんの人の賑やかな光景だった。



「あ、にいちゃんだ!おかえりー!」


 広場で遊んでいた小さな子供たちがカイレンの元に駆け寄ってくる。


「おー、ただいまみんな。いい子にしてたか?」


 カイレンに頭を撫でられた子供たちは大きく頷く。そんな彼らの後ろから、大柄で少し歳をとった男性が歩いてくる。


「カイレン、帰ってきたのか」


「ああ、父さん。明日の星祭りに遅れないようにね。紹介するよ、今、俺と旅をしてくれてるのはアシュレイと、前に紹介したセリと―この子、リュミナ!」


 そう言ってカイレンは父親や兄妹たちに今までの冒険譚を話し始める。そして後ろからはアシュレイを呼ぶ声も聞こえてきた。


「アシュレイ、久しぶりだな」


「パ、パパ!?パパも星祭りに?」


「うむ、ママと一緒にな。アシュレイは、今は地図を作る旅をしていると聞いていたが、元気そうで何よりだ。学業との両立はできているんだろうな?」


「うん。ほらこれを見てよ!」


 アシュレイは自分の書いた地図やレポートをカバンから取り出すと、父親の前で広げる。楽しそうに話すカイレンとアシュレイの姿を見たセリは、リュミナに小さな声で耳打ちする。


「……なんだか、私たちはお邪魔になっちゃうかもね…」


 リュミナも静かにカイレンとアシュレイの方を見る。二人とも、すごく楽しそうにこれまでの思い出話をしている。確かに、カイレンとアシュレイの久し振りであろう家族水入らずの時間を邪魔するのは申し訳ない。


「そうだね…今日は、私たち二人は宿に泊まろうか?」


 そう話して宿に向かおうとする二人をアシュレイの父親が引き留める。


「ああ、待ちなさい。君たち、アシュレイの旅仲間だろう?アシュレイから聞いているよ。今晩はよければ家に泊まっていくといい。何、アシュレイの友達からお金を取るようなことはしない。自分の家だと思ってゆっくりしていくといい」


 「でも...」


 そう言いかけたセリだったが、アシュレイも父の後ろで嬉しそうに頷く姿を見て、その言葉を飲み込む。


 「ありがとうございます!お言葉に甘えさせていただきます!」



 アシュレイの家は、本や魔導具が並ぶ、いかにも学者家系らしい落ち着いた佇まいだった。

 夕食の席で、父親は厳格ながらも、アシュレイが描いた地図の正確さに驚き、母親はアシュレイの旅での冒険譚に嬉しそうな表情で耳を傾けていた。


「それでね、僕の魔法にリュミナがタイミングを合わせて矢を打ってくれて、倒し切ることはできなかったんだけど、あのトライホーンに大ダメージを与えることができたんだ!」


「まあ!トライホーンって大きくて強い魔物でしょう?そんな強敵とも戦えるようになっただなんて、アシュレイも皆さんもとっても強いんですね」


 その言葉に、アシュレイもセリもリュミナも、照れくさそうに、しかし誇らしげに笑う。そしてさらに、リュミナは、自分もいつか、エルフの森の家族に胸を張って再会できる日が来るだろうかと、少しだけ故郷へ想いを馳せた。


「それじゃあ、また明日。おやすみなさい」


 夜、アシュレイの家の屋根裏部屋で、リュミナとセリは、明日への期待を胸に静かに布団に入った。しばらくして、セリが静かに話しかける。


「……ねぇ、リュミナ。まだ起きてる?」


「うん……どうしたの?」


 リュミナが返事をすると、少しの沈黙の後、セリは静かに続ける。


「少しだけ……昔話をしたくって……付き合ってくれる?」


「うん、いいよ」


「ありがとう」


 そう言ってセリはぽつりぽつりと話し始めた。


「私の家はね…魔物退治を生業にしていて、お父さんもお母さんもすごく強くて、街の人を困らせていた強力な魔物をいくつも倒してきたんだって……」


「でも、ある日突然、帰ってこなくなっちゃって、それから私は兄さんと、二人で暮らしてきたの……。時々、騎士団のローグさんが面倒を見てくれたから、ちゃんとした生活はできたんだけどね……」


「だから、さっきのアシュレイやカイレンを見てて、小さい頃の…お父さんやお母さんのこと、旅に出てから連絡がつかなくなっちゃった兄さんのこと……思い出しちゃったんだ……」


「ジストさんは大丈夫って言ってくれたけど、兄さんにまでもしものことがあったら……」


 セリはそこまでで話すのをやめる。静かな部屋に微かに震える吐息だけが響く。リュミナは布団の中でそっと寝返りを打ち、隣で横たわるセリの、シーツを強く握りしめた手に、何も言わずに自分の手を重ねる。セリの手の震えがだんだんと収まってくるのを感じる。小さな窓からは星の明かりが優しく差し込んでいる。リュミナは静かに口を開く。


「きっと…明日の流星群をお兄さんもどこかで見ているよ……。そう信じてる」


 布団を被ったセリの頭が頷いたのが分かった。そのまま、二人は静かに寝息を立て始めた。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 第19話「信じてる」いかがでしたか?


 ついに星祭りの会場であるアマカゼ平原の近くの町、フィンベルへと到着した一行。そこはカイレンとアシュレイの故郷の町でもありました。

 夜、セリがリュミナに吐露した彼女の不安な心境...。彼女にもこれから幸せなことが起こることを祈るばかりです...。


 さて、次回はいよいよ星祭り。30年に一度のセイリン流星群の下、彼ら彼女らは何を思うのでしょうか?


 次回「誓いの流星」金曜日投稿予定です。お楽しみに!


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