第16話 誘拐事件後日談
「王都エアロムントにて発生した、エルフの少女誘拐事件は、その日のうちに、エアロムント騎士団団長、豪剣のローグによって迅速に解決された」
朝食の席で朝刊の一面を見たタルローは心配そうな表情で何度もリュミナの方をチラチラと見ていた。
「……タ、タルローさん。私ならもう大丈夫だから心配しないで?」
「しかし…本当に大丈夫かい?顔の腫れは随分良くなったようだが、何かあったら遠慮なく言うんだよ」
「うん、ありがとう。あと、朝ごはん、ごちそうさま!」
そう言ってリュミナは食べ終わったお皿をタルローに手渡す。タルローはそれでも心配そうな表情を浮かべながら厨房へ歩いて行った。
「それにしても驚いたな…まさか騎士団長がリュミナを助け出すなんて」
カイレンはテーブルに雑に置かれた新聞をたたみ直しながら言う。
「私も驚いたよ。昨夜リュミナに再会した時は団長の姿も無かったから…それに、リュミナも突然私の元に現れて、抱きついてくるなり泣き出しちゃうから本当にびっくりしちゃった。」
「うん…心配かけちゃって、ごめんなさい」
「リュミナが謝ることは何もないよ。悪いのは人攫いの連中だし、それに、リュミナを一人にさせちゃった私たちの責任でもあるから。本当にリュミナが無事でよかった」
昨晩、ジストたちに逃がされたリュミナは、彼女を探していたセリを見つけた瞬間に抱きついた。一晩中リュミナを探していたであろうセリの声は、少し掠れていて目には涙も浮かんでいたが、飛びついてきたリュミナを見て、何も言わずにギュッと抱きしめた。その瞬間、リュミナも今までの恐怖や、安心などの感情が一気に溢れ出してしまい泣き疲れて眠ってしまったのだ。
その時、カランカランと宿のベルが鳴り、厨房から出てきたタルローが扉を開ける。宿にやってきたのはジストのキャラバンの御者をしていた少年、セリネオだった。
「おはようリュミナさん。大変だったね。それで、騎士団長のローグさんが昨夜の事件について話を聞きたいみたいだから一緒に来てくれない?」
「待って、それなら私も一緒に行くよ」
「あぁ、俺も一緒に行こう」
セリとカイレンも立ち上がる。
「それじゃあ、準備ができたら教えてよ。そこまで案内するから」
セリネオに案内された場所は、ラウルの小道具店だった。店の扉を開けると、カウンターにいたラウル、ジスト、ローグが一斉に振り向く。
「おお、来たか。御者くん、お疲れ様。カイレンとセリもついてきてくれたんだね。ありがとう。リュミナちゃん、こちらがこの国の騎士団団長のローグだ」
ジストに紹介されたローグは、真っ直ぐリュミナに歩み寄り、深く頭を下げる。
「すまなかった、リュミナさん。私がセリを誘い貴女を一人にしてしまったせいで…本当にすまなかった」
いきなりの謝罪にリュミナは困惑する。
「い、いや、そもそも私がもっと周りに気をつけていれば良かったわけですし、それにみんなのおかげでこうして無事にいるので、気にしていないし、むしろ助けてくれたことに感謝していますよ」
それを聞いたローグは少し安心した様子で向き直る。
「そう言ってもらえるとありがたい。それで、昨夜の事件について詳しく聞きたいのだが…」
そう言ってローグはセリの方をチラリと見る。その視線に気づいたセリは小さく頷いてカイレンの腕をとる。
「わかりました。私たちは席を外しますね。リュミナ、お店の外で待ってるから終わったら声をかけてね。ほら行くよ、カイレン」
扉が閉まった後、リュミナは自分が誘拐された流れをローグに話す。
「…そうか、やはり大体ジストたちから聞いた通りの内容だな。話してくれてありがとう」
「あの、ジストさんとラウルさんはなんであそこにいたんですか?それに中の構造も知っていたみたいだし…」
リュミナは気になっていたことを尋ねる。3人は顔を見合わせ、仕方ないと言った表情でこちらに向き直る。
「いいかい、リュミナちゃん。今から話すことは極秘事項だ。決して誰にも言っちゃいけないよ」
ジストはそう前置きして話し出した。
「ギルドに、幻の義賊の確保って依頼があったのは見たか?」
リュミナは頷く。以前、カイレンが話していたものだ。
「そいつの正体は、なんとここにいるラウルなんだ」
ラウルは静かに頷く。ローグは続ける。
「騎士団の中でも私しか、その事実を知る者はいない。ラウルには申し訳ないが、騎士団が手を出せないような、秘密の仕事を頼んでいるんだ」
「あのアジトはラウルが昔使っていたものでな、今は空き家になっていたんだが、そこをあの人攫い共が使っていたみたいなんだ」
「その人攫いの集団はまとめて投獄しておいたぞ」
ローグの言葉に、ジストは頷いて続ける。
「俺たちは、昨夜、カイレンやアシュレイがリュミナちゃんを探しているっていうのをセリネオに聞いてな、宿の周りを探していたらなんとびっくり、セリがアジトの入り口の一つの辺りを注意深く探していた。それでもしかしたらと思って中に入ったらびっくり、使っていないはずのアジトに人の形跡があり、奥に進んだところ、君を見つけられたってわけ」
「セリネオも言っていたようだが、人間の中には奴らのように酷い行いをするものがいる。ただ、全ての者があのように邪悪ではない。どうか人間全てを嫌いにはならないで欲しい」
ラウルも真剣な面持ちでリュミナに言葉をかけた。一瞬の沈黙を挟み、リュミナは頷く。
「確かに…攫われた時、すごく怖かった。けど、みんなが助けてくれて、守ってくれて、すごくあったかい気持ちになった。だから、嫌いになんかならないよ」
そう話した後、リュミナはふと、足元の棚を見て何かを思いついたような表情を浮かべる。
「そうだ、ラウルさんに一つ、お願いがあるんだけど…」
お願いを聞いたラウルはニヤリと笑い、ジストとローグも賛成するように頷く。リュミナの顔がぱぁっと明るくなった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
第16話「誘拐事件後日談」いかがでしたか?
なんと!以前カイレンがチラッと話していた、幻の義賊の正体はラウルということが明かされました!騎士団長という身分でありながら、リュミナを心配し、頭まで下げてくれるローグも然り、優しく信頼できる人に恵まれてよかったですね♩
最後にリュミナがしたお願いとは?
次回「出発」金曜日投稿予定です。お楽しみに!
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