第13話 失踪
日が沈み、あたりもすっかり暗くなった。外を歩く人もめっきりと減り、フクロウの鳴く声が暗い夜の街に響いている。
「じゃあ今日はこれで失礼します。仲間が宿で待っているので。しばらくはこの街にいるのでまた立ち寄りますよ」
セリはそう言って引き留めようとする騎士の仲間たちを振り切って帰路に着く。少し話をしたら帰るつもりだったのに、すっかり話し込んでしまった。
「ただいま!ごめんねリュミナ、ついつい話し込んで、時間かかっちゃって」
謝罪の言葉を述べながら宿の女部屋の扉を開ける。しかし、いつもなら返ってくるはずの出迎えの返事がないことに違和感を覚える。
「……あれ?リュミナ?」
部屋を見回す。散らばった荷物に脱ぎ散らかした寝巻きや下着。明らかに荷造りをした形跡がないどころか、朝、二人で部屋を後にしてから人が帰ってきた形跡すらない。
「タルローさん、リュミナ帰ってきてない?」
「うん?まだ帰ってきとらんぞ。あの子は帰ってきたら必ずただいまと声をかけてくれるが、今日はまだ聞いていないなぁ。何だ?一緒じゃないのか?」
タルローが宿の厨房から心配そうな表情で出てくる。
「うん……日が沈む少し前に宿の近くで別れたんだ……リュミナ自身も宿までの道は分かってるみたいだったから……とにかく私、探してくる!」
飛び出そうとするセリをタルローが引き止め、ランタンを手渡す。
「待ちなさい、これを持って行きなさい。外はもう暗い。私も厨房を片付けたら探すのを手伝おう」
街に飛び出したセリは、ちょうど学校から帰ってきたアシュレイとすれ違う。
「ちょっ……セリ?そんなに慌ててどうしたのさ」
「アシュレイ、リュミナがいなくなっちゃったの。急いで探さなきゃ」
セリの慌てようを見てアシュレイも驚く。
「分かった、荷物を置いたら僕も探す!」
「リュミナと別れた道から、宿までの道で間違うとしたら……この曲がり角!」
宿の手前にある曲がり角の先で、交渉を終えたカイレンにぶつかる。
「ご、ごめんカイレン、リュミナを見かけなかった?」
「いや、別れてからは見てないが……何があった?」
尋ねた後、セリの様子を見たカイレンは返事を聞く前に答える。
「いや、俺も探そう。向こうはまかせろ!」
走っている間、セリの脳内には嫌な感覚が浮かんでくる。ギルドで感じた自分達への視線、街を巡る中で度々リュミナは振り返り、人気のない場所を気にする様子、街の人々の『エルフの子供なんて珍しい』という言葉。嫌な想像を振り払うように首を振る。その時視界に入ったものに既視感を覚えて足を止める。
「……これ」
地面に落ちていたのはランタンの明かりに反射する、甘い香りの蜜にいくつかの小さな歯形のついたスイーツ、別れる直前までリュミナが食べていたもの。セリはそれを拾い上げると、震える指先で強く握りしめた。
(……抵抗する間もなかったの? それとも……)
かつて騎士団で教わった、誘拐や拉致の際の手口が嫌なほど脳裏を駆け巡る。リュミナは森で育った。いくら注意を受けていたとしても、人間が、同じ人間を『商品』などとして扱うことなど想像もしていないはずだ。セリは辺りを見渡す。
「……この辺りで人気の少なそうな場所は……こっちの路地裏!」
セリは持っていた剣の柄を強く握りしめると、暗い路地へと迷わず飛び込んだ。誰もいなくなった小道に二つの人影が伸びてくる。その影は路地裏への入り口で立ち止まると、じっとセリの飛び込んだ方向を見つめている。風と共に雲の隙間から月明かりが覗きだす。その明かりに照らし出されたのは、犬と狐の不気味な面をした男達の姿だった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
第13話「失踪」いかがでしたか?
12話の最後、セリと別れて一人きりになったリュミナは突如姿を消してしまいました。落ちていた食べかけのスイーツから想像できるのは、彼女が何者かに誘拐された可能性...。さらに、リュミナを探すセリの背後にも、怪しい影が...。この先一体どうなってしまうのでしょうか?
次回「ここはどこ?」金曜日投稿予定です。お楽しみに!
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