第八話 桜木ゴンザレス
めちゃくちゃ筆が乗ったおかげで、今までで一番長くなりました。
その分時間もギリギリになっちゃいました。
「二人ともいるな?」
放課後、俺と碧は林堂先生に言われた通り、教室で暇を潰していたところ、林堂先生がやってきた。
「そういえば、どこにあるんだ?その友人のカフェって」
「車でそんなにかからないところだ。場所さえ覚えれば歩いても行けるぞ」
「へぇ・・・」
いいカフェだったら通わせてもらうかな。
内心少しウキウキしていると、碧が挙手した。
「どうした伏見?」
「甘いものはありますか」
あー、お前女子みたいに甘いもの好きだもんな。
「行けばわかるんじゃないか?」
「・・・僕コーヒー飲めないんですけど」
え、そうなの?
「意外だな」
「苦いの苦手なのさ。飲むとしたらスティックシュガー四本は入れるよ」
入れすぎだろ。糖尿病になるぞ。
「甘そうだなそのコーヒー」
「苦いの飲めないから仕方ないの」
「二人とも、そろそろ行くぞ」
「あ、はい」
「おー」
どんなとこなんだろうな。
きっととても落ち着いた雰囲気で、店内はコーヒーの香りで満たされているんだろうな。
そしてメニューには色んなコーヒーがあって、ランチメニューも充実してるんだろうな。
・・・とか、思っていた俺が間違いだったのだろうか。
林堂先生の車に乗って、着いた場所は学校から歩いて十五分程の場所で、近くには駅がある。
外から見る店の雰囲気はごく普通のカフェという感じで、近くにある駅のおかげで客足が途絶えることは無さそうな感じ。
ただ・・・
「心の準備はいいか?」
林堂先生の言う心の準備が必要なカフェってなんなの・・・?
「中から化け物でも出てくるのか?」
「そういう訳じゃないけど、多分驚くだろうから」
どういうことなの・・・
「実は八坂さんが働いてますみたいなオチだったら笑えるね」
随分とファンキーな発想だな。
「はっは。そんなわけないだろ」
ないよね?
「それは入ればわかる話だ。いいか?」
「僕は大丈夫です」
「俺もいいぞ」
「よし、じゃいくぞ」
一体どんな店内なんだろうか。
扉を開けてまず目に飛び込んできたのは、レジカウンターのすぐ側の壁に飾られた大きな絵。
その絵は、絵画と言った方がしっくりくるほど繊細に、それでいて大胆に描かれている。
その次に目に入ったのは、恐ろしくガタイのいいケバケバな化粧をした女物の服をパツパツになりながらも着こなしている男の人。
個性がすごい客なんだろうな。多分。
そして、店内を見回すと、モダンな雰囲気に合っている音楽が、うるさくない程度の音量で流れており、くつろぐにはうってつけな場所っぽい。
とか思っていると。
「よお桜木、来たぞ」
と、林堂先生がこの空間に存在する異質なゴリゴリ女装男に話しかけ始めた。
「あらカズちゃん。いらっしゃい」
・・・え?もしかして友人ってこの人なの?
唇には恐らく寒色のリップを塗って目には銀色だろうか、白く光っているマスカラにチークはめちゃくちゃ明るい。アンパンマンみたいな頬だし、てか首太すぎるよね・・・?プロレスラーみたいな首してるんですが!?
胸板も凄いぞ!?よく女物の服を着れたな!?
「あらー?可愛い男の子が二人もいるじゃない。アタシへのプレゼントだったりする?」
・・・やばい、寒気がした。めちゃくちゃ悪寒が・・・
「そいつらは俺の教え子だ。あまり変なことをすると通報するぞ」
「そうなの?よく来てくれたわね。わざわざこんな所まで」
すごい、笑顔が眩しい。色んな意味で眩しい。
というか化粧が濃いのもあるけど・・・ハーフの人か?めちゃくちゃ顔が濃い。
それよりもガタイが良すぎるのが問題なんだけども!
ボディビルダーの方ですか?
「アナタ今失礼なこと考えてない?」
エスパーかよ。
「無理もないだろ桜木。初めてお前を見た人はみんなファンタジー世界出身の人だと思うぞ」
そこまで失礼なことは思ってねえよ。
ゴブリンにでも見えてんのか。
「んもう。カズちゃんってば酷いこと言うのね」
やめろ。その普通に喋ったらくっそイケボな声でオネエ口調で話さないでくれ。寒気がする。
「詩苑、顔引きつってるよ」
「え」
顔に出てた!?
「大丈夫、僕も多分同じ気持ちだから」
さすが親友。心が通じあってるぜ。
「気持ち悪い事考えないで?」
エスパーかよ。
「とりあえず、座ってもいいか?」
林堂先生は立ち話もなんだし。と続け、桜木という名前のおネエに了解を得る。
「お好きな席にどーゾ。お水持ってくるわね」
俺達が席に着くと、桜木さんは背中を向けカウンターの方へ歩いていった。
すごいな。歩く度に服がムチムチ言ってる。サイズがあって無さすぎるせいで服が悲鳴あげてますけど。
「詩苑顔すごいよ?」
俺って顔に出やすいんですかね?
「・・・にしても、店内は普通にいい雰囲気だな」
とりあえず感想でも言って顔を平常心に戻そう。
さすがに失礼が過ぎる。
「店主がアレなのに・・・とか考えてるよな?」
俺の周りはエスパーしかいないんですか?
「・・・メニューは何があるんだ?」
カフェと言ったらコーヒーとかランチメニューとかが大事だよな!大事だよな!?
「メニューはコチラ」
スっと俺の後ろからメニュ表を持った手が出てくる。
「あ、どうも」
反射的に手を伸ばす。
すると、俺の顔の真横に俺の目を見てにっこりと微笑む夢の国(顔)があった。
「うおああああ!?!?」
「人の顔見て驚くなんて失礼ね」
その顔が隣にあったら誰でも驚くだろ!?
てかいい匂いだなアンタ!ラベンダーの香りするんですが!?
その身体のどこからそんないい匂いが出てるんですか!?
「あまり驚かせるなよ桜木。みんながみんな、お前みたいに精神が図太いわけじゃないんだ」
「アタシはそんなに図太くないわよ?みんなが細すぎるだケ」
「あっ、ミルクたっぷりカフェオレだって。甘そー」
メニューを見てる碧の目が死んでる!?
そのカフェオレコンビニで売ってそうな名前だな!?
「そのカフェオレはアタシの店で一番の目玉商品なの。飲んでみない?」
「じゃあ僕はミルクたっぷりカフェオレでお願いします」
碧のやつ、無心で話すことによって目の前のインパクトの塊を無視する方向で行きやがった!
「はぁい。アナタは?」
「え、俺?」
こちらに振り向かれ、少し驚く。
その笑顔の眩しさには慣れてきたけど、めちゃくちゃいい声なのが未だに身体が受け付けてない。
何その大塚〇夫+山寺〇一みたいな声。
俺の世代ドストライクじゃねえか。
ポケ〇ンの映画ナレーションのモノマネとかやってみて欲しい。
あと、待たせたな。とか言ってみてほしい。
「・・・」
「詩苑?生きてる?」
「はっ!?」
危ねえ・・・色々とインパクトが強すぎて思考が停止していた。
とりあえず何を飲むかだよな。えぇと、何がある?
「んふっ、たっぷり悩んでねっ。カズちゃんは?」
「俺はアイスココア」
「カズちゃんてば珍しいわね。いつもコーヒーばっかりだったのに」
「最近コーヒーの飲みすぎで医者に止められたんだよ。カフェイン中毒一歩手前だってな」
「そんなに?一日何杯飲んでるのよ」
「五杯とか・・・六杯とか・・・」
「そんなにコーヒー好きだったかしら?」
「教師ってのはストレスが溜まる仕事なんだよ」
「大変なのねぇ・・・」
そんな雑談を聞きつつ、メニューを眺めているが、なんだこれは・・・コーヒーとかランチメニューの名前がおかしいぞ・・・ハートとか音符とかの記号が凄いんだけど!?
碧の頼んだミルクたっぷりカフェオレはめちゃくちゃまともな名前だったなんて・・・
とにかく、どれか頼まないと・・・
なにこのエネルギッシュラブキリマンジャロってコーヒー・・・ただキリマンジャロの豆使ってるコーヒーじゃないのか・・・!?一体何がエネルギッシュラブなんだ・・・!?まずエネルギッシュラブってなんだ!?
「アタシのおすすめは、ラブマックスコーヒーよ」
メニュー名にラブをつけないと死ぬのかアンタは!?
そう思いながら、言われるがままにメニューのラブマックスコーヒーを見る。
メニュー名の下に小さな文字で当店オリジナルブランドコーヒーです。と書かれていた。
「最初からオリジナルブレンドコーヒーって書けよッ!!!」
メニューの種類で客を困らせるならまだしも、メニュー名で客を困らせるな!
「珍しくキレのいいツッコミだな」
「ツッコまずにはいられなかったんだよ!ところで、林堂先生が頼んだココアはなんて名前だったんだ」
「濃厚ミルクココアだな」
「普通の名前だけどなんか嫌な名前だな!」
濃厚って部分が特に嫌だ!
「ちょっと詩苑。さすがに失礼だよ」
「いや俺も本心では失礼だと思ってるよ!?その気持ちを上回るインパクトなんだもん!仕方ないでしょ!?」
「オネエが少し移ってるよ詩苑・・・」
「とりあえずオリジナルブレンドコーヒーでお願いします!!!」
半ばやけクソでコーヒーを頼む。
「はぁい。それじゃ、少し待っててね。すぐに持ってくるから」
くるりと背を向け、桜木さんはカウンターへ歩いて行った。
歩き方めちゃくちゃ綺麗だな・・・モデルかよ。
「・・・はぁ」
疲れた!人生で初めてインパクト強い人に出会った。
「どうだ?凄いだろ?」
「いくら心の準備しても足りねぇよ・・・」
「僕もびっくりしました」
「桜木はああ見えても良い奴でな。大学生時代はよく旅行とかに連れ回されたもんだ」
「いい人ってのは何となくわかるけどさ・・・」
「ちなみに、高校生の頃からアレらしい」
え?いじめられなかったの・・・?
「何事も、中心に立つのが好きな奴でな。クラスのリーダーみたいな存在だったぞ」
すげえな桜木さん。
「桜木さんって名前はなんて言うんですか?」
「あいつハーフだから結構インパクト強いぞ?」
「気になります」
あ、それは俺も気になる。
「フルネームは桜木ゴンザレスだ」
「・・・ゴンザレス」
「ゴンザレス!?」
本当にインパクト強いな!?
「ちょっとカズちゃん!名前のことはあまり言わないでちょうだい!」
カウンターからゴンザレスが走ってきた!?
「どんな場であっても、相手に名前を教えることは大事だぞゴンザレス」
「カズちゃん!ゴンザレスはやめて!恥ずかしいじゃない!」
ゴンザレス名前で呼ばれるの嫌なのかゴンザレス!
「ちょっとアナタ!ゴンザレスなんてゴリゴリな名前面白いとか思ってないでしょうね!?」
なんで俺をピンポイントで指さすんだ!?
「えっ、いやそんなことは。人の名前ですし・・・」
本当はめちゃくちゃ面白いと思ってますけどね!
「そうよね。ならいいわ。アタシの名前を知った人はみんなゴンさんって呼ぶから、恥ずかしいのよね」
ジャジ〇ン拳の使い手ですか?
「・・・ぷ・・・ゴンさん・・・ふふ・・・」
まずい!ゴンさんが碧のツボにハマってる!
「いいのよ。笑われるのは慣れてるわ。むしろ、アタシは世の中を笑顔にするために生きているから」
「相変わらずだな桜木。そんなに他人の笑顔が大事か?」
・・・ん?なんか急に空気が重くなったぞ?
「カズちゃんは少し非情が過ぎるのよ」
「・・・そうか?」
桜木さんは、少し寂しそうな顔をした。
「あ、ごめんなさい。今コーヒー持ってくるわね」
「・・・」
思い出したように、桜木さんはカウンターへ戻って行った。
「何かあったんですか?」
碧、お前デリカシーある?
そこは自重しよう?俺も気になるけどさ・・・
「昔ちょっとな・・・方向性の違いみたいなもんだ。この店に入って、直ぐに目に入ったと思うが、詩苑。あの絵をどう思う?」
店に入ってすぐ目に入るって言ったら、カウンターのすぐ側の壁に飾られたあの絵か。
もう一度、じっくりとその絵を観察する。
「とても上手いと思います。風景の特徴をしっかり掴んでるし、細かいところまでしっかりと筆が入れられていると思います」
思ったことをそのまま言う。
でも、なにか、おかしい。
「・・・なにか、気になるところは?」
林堂先生も気付いているのか?
あの絵はなにかがおかしい。
そうだな・・・色が、違うような・・・色がわからない俺にはハッキリとはわからないが、灰色の濃淡に少し違和感を感じる。
いつも見ている景色は、あんな色の空をしていたか・・・?
「色が・・・おかしい・・・のか?」
「伏見は初めから分かってたよな?」
「わかっていたも何も、空の色が紫色だったら嫌でも変だと思いますよ」
「・・・え?」
空が紫色だって?
「どういうことだ?」
「それは桜木に聞いた方が早いさ・・・あれは桜木が描いた絵だからな」
「桜木さんが?」
「あとで二人の時間を作ってやるから、聞いてみろ」
待て、俺をゴンザレスと二人きりにするな。
身の危険を感じるぞ。
「あいつは変なことしないから安心しろ」
「いい人って先生言ってたから大丈夫でしょ」
「碧、お前はどうしてそんな簡単に人を信じられるんだ?」
「信頼があるからかなぁ」
「真面目マンめ・・・」
・・・それにしても、色が変な絵か・・・桜木さんが描いたのか。
どうして普通の色を使わないんだ・・・?
俺には灰色にしか見えないけれど、普通の人から見たら、気持ち悪く見えそうな絵だと思う。
繊細なタッチで綺麗に描かれているだけあって、色がおかしいのはもったいないと思った。
まさか、意図的に色を?
・・・まさかな。
「お待ちどうさま。たっぷりミルクカフェオレと濃厚ミルクココアとラブマックスコーヒーね」
「ありがとうございます」
「おう。さんきゅ」
「どうも」
色々と考えを巡らせていると、桜木さんがトレーに頼んだものを乗せてやってきた。
「今日はもうお店閉めちゃったから、ゆっくりお話できるわよ」
コトっとコーヒーカップを起きながら、桜木さんが言う。
「わざわざすまんな」
「いいのよ。久しぶりにカズちゃんと会ったんだもの。アタシもたくさんお話したいわ」
桜木さんは隣のテーブルから椅子を持ってきて、俺の隣に座った。
「お隣失礼するわね」
「あ、はい」
俺が軽く会釈をして、コーヒーに砂糖を入れようとした時、
「そうそう。そのコーヒー初めはそのままブラックで飲んで頂戴。それから砂糖とミルクをお好みで入れてね」
と、隣のゴンザレスが言った。
「・・・ブラックはさすがに苦手なんですけど」
まだピチピチな男子高校生。
ブラックで飲むのはさすがにきつい。
ミルクと砂糖を1つずつ入れさせて欲しい。
「まあまあ。飲んでみて?」
まあ、コーヒーを入れた本人がそういうのであれば・・・
「じゃあ、いただきます」
言われるがまま、一口。
「・・・ん」
「どお?」
うまい。
ブラックなのに、ほのかな甘味を感じる。
香りもいいし、変な酸味もない。
苦味と香りと甘味のバランスがとてもよく取れている。
確かに、これは何も入れなくても・・・
「美味しいです」
と、素直な感想を言うと、
「そう。よかったわ」
桜木さんは眩しい笑顔を浮かべた。
「さ、次はミルクと砂糖を入れてみて?」
正直、ミルクと砂糖はなくても全然美味しいコーヒーなのだが・・・
まあここも言われた通りにしよう。
スティックシュガーと、ミルクを一つずつコーヒーに入れる。
真っ黒だった液体は、みるみるうちに明るくなり、綺麗な黒と白の配合色となった。
くん、と匂いを嗅ぐと、スティックシュガーとミルクの甘い香りと、コーヒーの香りが合わさり、幸せな気分になる。
くるくるとカップの中身をかき混ぜ、また一口。
「・・・うっま・・・・・・」
何だこのコーヒーは・・・今まで飲んだコーヒーで一番うまいぞ・・・!?
「そのコーヒーはアタシが数年かけて編み出した豆の配合でね?ブラックが苦手な人でも、飲んだら美味しいように、そしてミルクと砂糖を加えたら、さらに別の美味しさになるように全て計算してあるのよ」
すごい。すごいぞゴンザレス。
見た目と中身が少しアレだけど、コーヒーを淹れる美味さだけは尋常じゃないぞゴンザレス。
「これ、どういうブレンドなんだ・・・」
家でも飲みてえ・・・
「企業秘密よ」
ですよね。
コーヒーの味を堪能しながら、正面に座る碧に目を向ける。
「んー・・・!ふふ・・・」
カフェオレを飲みながら表情をコロコロと変える変な人がいた。
「ねえ詩苑!すごい美味しいよこのカフェオレ!」
お前の様子を見てたらわかるよ。
めちゃくちゃ幸せそうな顔してたぞ。
「そのカフェオレはね、甘さにすごーくこだわっているの」
「あ!それわかります!入ってるミルクが普通のじゃありませんよね!砂糖も全然違います!特に香りと甘さの種類が!」
「あらぁ!良い舌もってるのね。嬉しいわ」
「すごく美味しいです!」
「こんなに喜んで貰えるなんて、アタシも凄く嬉しい」
なんだかんだこの二人はすぐ仲良くなりそうだなぁ・・・
「詩苑」
「ん?」
と、いきなり林堂先生に名前を呼ばれる。
「コーヒーが気に入ったなら、ちょくちょくここに来たらどうだ?」
「・・・そうだな」
林堂先生に言われるまでもなく、今度から暇つぶしなどにここに来ようと思っていたところだ。
場所も遠くないし、店の雰囲気もいい。
店主がちょっとクセが強いが、コーヒーが美味いので気にならない。
あと、あの絵のことも気になるし・・・今度来た時に聞いてみよう。
「ほんとに?アタシ嬉しいわぁ。今の時代、カフェなんて開いても全然お客さん来ないんだもの」
え、ほんとに?こんなに美味しいコーヒーがあるのに?
「ほら、最近って学生さんとかは全然暇じゃないでしょ?社会人の人達も、お昼休憩の時にわざわざ駅前まで来て、わざわざカフェに入ろうなんてあまり思わないのよ。お昼ご飯はあまり時間かけたくない人が多いから」
なるほど、たしかに最近は昼ご飯なんてコンビニで済ませるか、ファミレスとかファストフードでぱぱっと済ませる人が多そうだ。
カフェでゆっくり時間を過ごすなんて人はほとんどいないだろう。
「夜になったらなったで、みんなお酒を飲みたがるから、遅くまで店開けてるメリットがないのよね」
経営者ならではの悩みなんだな・・・
「でも、今日開店したばかりなんですよね?それなら、客足もそこそこあると思うんですけど」
碧の言うことには同意だな。
新しく出来た店っていうのは、必然的に注目を浴びる。
そこで、客の心を鷲掴みに出来れば、常連客を作ることだって可能なはずだ。
「本当は明日から開店なのよ?今日はカズちゃんの為だけに店を開けたのよ?」
・・・そうだったの?
「俺のためと言うより、お前のわがままだろ」
「そうとも言うわね」
「突然電話してきて何かと思ったら、カフェを開くから遊びに来てって言われた時はアホかと思ったよ」
「カズちゃん辛辣ねぇ」
「風景画ばっかり描いてたやつからいきなりカフェ開くなんて言われたら誰でも頭おかしいと思うさ」
桜木さんも、絵が好きなんだろうか。
「でも、素直に俺が桜木の話を聞いて、わざわざ来てやったのには理由があるんだよ」
理由?
「カズちゃんはホントギブアンドテイクが信条よね」
「性格なものは仕方ない」
「理由ってなんだ?」
「ん?ああ、お前のためになればと思ってな」
「俺のため?」
「桜木、お前もなんで詩苑を連れてきたか、わかったか?」
「ええ。様子を見てたら嫌でもわかるわ」
・・・どういうことだ?
「そうねぇ・・・アナタ、明日時間ある?」
「明日・・・?」
特に用事はないが・・・
あれ?明日は金曜日か?
「あー・・・明日はちょっと」
八坂との約束がある。
毎週金曜日は、八坂の音楽を聴くんだ。
これは絶対に逃せない。
「なら、今からでも大丈夫?」
「それなら・・・大丈夫です」
「よかった。じゃあカズちゃん。この子借りてくわね」
え?借りてく?
「おう。よろしく頼んだ。俺と伏見はゆっくりしとくよ」
「ええ、じゃあまた後で」
「詩苑、すまんな」
なんで謝る!?
え!?俺貞操の危機だったりするの!?これから別室でゴンザレスのガチムチレッスンが始まるの!?
「おい林堂!?どういうことだァァ!?」
思わず呼び捨てになってしまうが、気にしない。
「お前のためだ。わかってくれ」
「俺を売るのか!?教師が生徒をオカマに売るのか!?てめええええ!!!」
「大丈夫よ、痛いことはしないから・・・ね?」
「うわぁぁぁ!!!!嫌だァァァ!!!」
やめろ!腕を掴むな!
って力強いな!?振り払えねえ!お前中身絶対ゴリラだろ!!!!離せ!離せええええ!!!!
そんな俺の抵抗も虚しく、ズルズルとゴンザレスに引きづられ、別室へと誘拐されたのであった。
「・・・本当に大丈夫なんですか?」
「ちょっと背中を押してもらうだけさ。問題ない」
「いやあの、詩苑の貞操の事なんですけど」
「あー・・・桜木はああ見えて恋愛対象は女性だ」
「え?」
「嘘じゃないぞ?」
「詩苑めちゃくちゃ怯えてましたけど」
「何も知らないからそりゃ怖いだろうな。はっはっは」
「先生ほんと性格悪いですよね・・・」
「褒め言葉か?」
「嫌味ですよ・・・」
俺が連れてこられた部屋は、不思議な部屋だった。
色々な風景画が、所狭しと飾られた部屋。
まるで、美術館の中みたいだ。
その部屋の真ん中。
俺と桜木さんは、ひとつのコーヒーテーブルを挟んで、座った。
桜木さんは、コーヒーとお茶菓子を用意すると、ゆっくりと口を開いた。
「さて、詩苑ちゃん・・・でいいかしら?」
おう。それはいやだ。
「ちゃん付けは気持ち悪いからやめて貰えると助かります」
「なら詩苑くんでいい?」
・・・まあいいか。
「まあ、それでいいです」
「うん。ありがとう。どう?この部屋」
言われ、もう一度、ぐるりと見回す。
ある所には、山の絵が飾られ、その隣には、海の絵がある。
ありとあらゆる風景画が、その壁には無秩序に並べられていた。
「全部。桜木さんが?」
「そうよ」
「すごく上手いですね。景色の特徴をよく掴んでいるし、それでいて自分の個性も出して描かれている。風景画なのに、個性を出すなんて、不思議な感じです」
風景画は本来、その景色を鮮やかに、鮮明に描くことが大切だ。
それを、この人は、風景に自分を生かしている。
まるで、自分という人間が、この景色をつくりあげたかのような。
そんな力強さが、飾られた絵にはあった。
「詩苑くんは珍しいことを言うのね」
「どういう・・・ことです?」
桜木さんに言われて、気付く。
なんだ・・・?この違和感。
さっき、店内で見た絵と同じような。
ここに飾られてる絵は、なんだ?
一枚の絵を、注視する。
何も変なところなんてない。至って普通の、綺麗な風景画。
太陽の光、木の葉っぱから零れる雫。
全てが、完璧に描かれている。
・・・はずなのに。
何だこの感覚は?
どうして、俺は、感動しているんだ?
何の変哲もない。風景画なのに。
不思議と、涙が溢れそうになる。
俺が見ているのは、灰色の世界なのに。
何故、この絵は、こんなに綺麗に見える・・・?
「ここにある絵はね」
桜木さんが、立ち上がる。
俺の目を見て、ゆっくりと、言葉を口にする。
「全部白黒なの」
その言葉は、俺を驚かせるには、充分すぎる言葉だった。
続
どーも鈴ほっぽです。
今回はインパクトが凄い新キャラ登場回でした。
さて、詩苑くんはこれからどんな世界を見ることになるんでしょうか。
そして、自分の世界を描くことは出来るのでしょうか。
次回をお楽しみにって感じでございます。
というわけで、最後まで読んでいただきありがとうございました。




