平和推進編 第8話 前 理解でございますか?
ロッティは公爵が嫌いだから最後にして、ドロシーにかけよう。
「ドロシー、時間ある?」
「ミシェル! あっ、リリーナだっけ?」
「好きな呼び方で呼んでいいよ」
「じゃあミシェルで。ミシェルの両親に悪いけど、ミシェルって名前、ミシェルの雰囲気にピッタリなのよね」
私の雰囲気ね。自分の雰囲気なんていまいちわからない。
そろそろ本題に入ろうか。
「不満か。ないよ。アホがアホだという自覚がなく、生まれつき持ってるものに縋って、それが自分の価値だと勘違いして、自分より優れる人を弾圧するのは今に始まったことでもないし。いちいち気にしないさ。ミシェルも私と同じでしょ」
今、ケルベロスの人間界における活動の責任者はドロシーなのよね。私、やらかした……いや、結果的に休戦を余儀なくさせたのだから、やらかしたわけではないか。正直私はなんの犠牲も出さず、平和を手に入れるなんて思ったことないし。
ただ、その件で人間界ではケルベロスへの印象が下がったのは事実で、その尻拭いをドロシーにさせてる。私だけが全部背負ってるとか、私だけが損して犠牲になってる、なんて考えてたわけでもない。けど、……うぅ。
「で、ドロシーはケルベロスで何かしたいことがあるの?」
「したいことか。今は特にないな。ミシェルについてきて、面白そうだなって思ってやってるだけ。あっ、でもミシェルと合奏したいかも。ミシェルは練習すれば絶対もっとうまくなれるよ。表現力ちゃんとあるんだから才能はあるよ。今度、そう、私が魔界に戻ったら一緒に練習しよう! てかして!」
「あ、うん。いいよ」
「てかさ。もしかして、不満とか、したいこととか、聞いて回ってる?」
「うん。そうだけど」
意味のない噓はつかない。
「やっぱりね。あ、でも私にはそういうのしなくていいから。ミシェルも大変だね。俗物ともうまく付き合えるように頑張ってる。私はそんなことしないけどね。ミシェル、大丈夫? 疲れてない? 何かあったら相談してよね。ミシェルには、私という唯一の理解者がいるんだから」
ドロシーと話すのは、ちょっと疲れるかも。話していて一番楽なのはタイサかな。何も考えず、セレンさんの話を聞いているだけでいいから。
ドロシーは有能だと思うし、危険な仕事を任せてしまっている自覚はある。ケルベロスは、覇を争う各国の権力者にとって邪魔でしかないのだから。ドロシーもそれを自覚した上で、文句一つ私に漏らさない。だからこそ、彼女の話は私がちゃんと受け止めなきゃ。性格はちょっとめんどくさいけど、ドロシーの話の早いとこ嫌いじゃないかも。




