始まりはいつも突然に
赤羽は、朝のホームルーム開始の少し前に登校して来た。
「オッス、黄月。ネコの方はどうだ?」
「おはよう、赤羽くん。うん、元気でやってるよ」
「そっか、なら良かった」微笑みながら言う赤羽。
とそこに一人の人物が現れた。
「黄月くん、いつのまに赤羽くんと仲良くなったんですか!?」と話かけて来た。
「おはよう、鳥説くん」
「おはよう、じゃなくて赤羽くんですよ。な、な、な、何で二人が!?」と驚きを隠せないらしい。
鳥説 明は、赤羽、黄月と同じ一年D組の生徒で、放送部に入部している。
「黄月、このメガネは誰だ?」と鳥説を指差して言った。
「同じクラスの鳥説 明くん。鳥説くんとは、席が近くていろいろと話をしてたんだけど、物知りで頼りになるんだよ」と黄月は説明した。
「ふーん」と言いながら赤羽は、鳥説の方を見る。
「ヒィ~」と鳥説は怯えながら黄月の後ろに身を小さくして後ろに隠れた。
「昨日の帰りに僕が、赤羽くんの落し物を僕が拾って、話す機会が出来たんだよ。その後、いろいろと話をして、買い物する事になって付き合ってもらったんだよ」後にいる鳥説に説明をした。
「まあ、よろしくな」と赤羽は鳥説に軽く手を上げて挨拶をした。
「はぁあ、鳥説・・・です・・・よろしく、お願いし、ます」怯えながら、赤羽にお辞儀をした。
そんなやり取りをしてる間に担任の佐竹がやって来た。
「おまえら、席つけよ。ホームルームやるぞ」と全員を座らせた。
佐竹は、一言でいうと「・・・・すごい漢だ」というセリフを言いそうながっちりした不破的な体型の男である。
女子からは、人気は全く無いが男子からは、信頼されている。
順序よく話を進める佐竹である。
「部活の入部希望者は、はやく入部届けを提出する事、以上」とてきぱきと話を進めた。
授業が行われて、時間が経過し昼休みになった。
赤羽は、黄月の傍に寄って行き「黄月、昼一緒に食べないか?」と弁当箱をぶら下げてやって来た。
「うん。一緒に食べよう。」
「あれ、メガネじゃなくて・・鳥説はいないの?」
「鳥説くん、放送部だから放送室だよ。昼の放送があるからね」
「ああ、そういえば昼放送やってたな。あいつが放送やんの?」
「まだ、入部したばかりだから放送は無理だよ。アシスタントやってるみたいだよ。そのうち何曜日かは昼の放送の担当もらえるんじゃないかな」
「なるほど、まあそうだよな。そうだ、黄月は弁当持ってきてるのか?学食だったら、食堂の方に行かなきゃな」
「お弁当は、持ってきてるからこっちで大丈夫だよ。」
二人は弁当のふた開けて食事を摂り始める。
お互いに弁当は手作りで作っている。赤羽は主にパン、卵、肉を主体にした洋風の弁当であった。それに対して黄月は、ごはん、魚、野菜を主体にした和風の弁当だ。
二人は、おかずを交換しながら食事をしていた。
「そうそう、朝なんか担任が言ってたけど、黄月は何か入部予定とかあるのか?」
「入りたい部活は、あるんだけど入部テストのハードルが高くて現在苦戦中かな」と少し困り顔で言った。
「何、入部テストとかあんの?すげぇな・・運動部?」と驚きながら黄月に聞いた。
「違うよ、文化系だよ」と返答した。
「えっ~と、ちなみに何部なんだ?」
「エンターテイメント探求部だよ」
「へぇ~そんな部があるのか知らなかった。どんな活動をしてるんだ?」と興味ありげに赤羽が聞いた。
「えっと、主に人を楽しませる事を前提にしていて、個人の活動内容はお笑い、音楽、映像、漫画、ゲームとかの様々なジャンルに、特化した人材を育てる部活だよ。」
「面白そうな部だな・・・で、黄月は何なりたいと思ってるんだ?」
「実は僕は・・・マンガ家になるのが夢なんだよ」と恥ずかしそうに言った。
「へぇ~すごいな、じゃあ漫画を書いてるのか。同じ作品が好きな者同士だから、見てみたいな」と赤羽はもの凄い興味ありそうに、期待の眼差しで黄月を見る。
その目の輝きに押し負けた黄月は、
「全然、自信ないけれど、見てみる?」恥ずかしそうに鞄から封筒に入っている原稿を赤羽に手渡した。
「ああ、ありがとう。それじゃ、読ませてもらうな」と赤羽は、原稿に目を向けた。
黄月は、赤羽の表情が気になり見ると、真剣に原稿を読んでいた。
そして、原稿を1ページ、また1ページとめくり最後の1枚を、赤羽は読み終えた。
「ふぅーっ」と赤羽は、息を漏らした。
「どうかな?感想があれば正直に言って」と黄月は、不安な表情で聞いた。
「正直に、言うぞ。ストーリーは面白いと思ったよ。内容も王道なバトル漫画っていうの良いと思う」と赤羽が言う。
「そう」と黄月は安堵した表情をする。
「だけどな・・・黄月・・・お前の書くキャラクターが、日本を代表するRPGのスタイリッシュな方のキャラデザを思い出させる様なこの壮大さが、このジャンルに致命的に会ってない」とさらに赤羽が突っ込む。
「なんで、バトル漫画なんだよ、どう考えてもこの絵を描けるのならファンタジーだろ?それに俺には、この絵が漫画になるって事がすげーショッキングだよ。ある意味これは、新境地だよ。バトル漫画ならっ」っと赤羽は、ノートとシャーペンを取ってくるともの凄い勢いで絵を描き始めた。
「こう言う絵だろ、どう考えても!」とバンっと黄月に突き出した。
出来上がったその絵は、まさしくバトル漫画の王道その物と、もう一つの日本を代表するRPGのキャラデザを思わせるソレだった。
「・・・・・・・・・」と黄月は無言で、その絵に見入っていた。
「悪いな・・・勢いでいろいろつっこんじゃって・・・」と赤羽は冷静になり申し訳なさそうに、黄月に頭を下げた。
「・・・見付けた」と黄月が小声で言った。
「え?」と赤羽は声を上げた。
「すごいよ、これは。赤羽君の完成度の高い絵に僕は心を奪われた。この気持ちは、まさしく愛だよ!!」
と黄月は、息荒く言った。
「何故そこで愛ッ!?」赤羽は、間髪入れずつっこむ。
「えっーと、こう言う時は・・・う~んっと・・・何ていうんだっけ・・・そうだ・・・赤羽君、僕と組んでマンガ家になってくれ」と黄月は妙なテンションになっていた。
「お、おう。って、いやいや待て待て、なんでそうなるんだ」赤羽は黄月に気圧されていた。
「今の僕には、どうしても赤羽くんの絵が必要なんだよ。だから、僕の相棒になって下さい」黄月は深々と頭を下げた。
黄月の目や表情から、赤羽は本気の必死さを感じた。
「お前の熱意は分かった。俺は、素人で漫画を描く知識もない。絵も真剣になって描いていた訳じゃない。真似て描いていたら、なんとなく描ける様になっていた。そんな俺でも良いのか、お前の本気について行けるか分からないぞ」と赤羽も真剣にかえした。
「うん、それでも僕は、赤羽くんの絵を見て感じたんだ。この先の夢の全てを賭けたいって。そう思ったからお願いします」と黄月は赤羽に右の手を差し出した。
「お前って大人しそうに見えて結構強引なんだな。わかったよ、組んでやる。その代わり、やると決めたら天辺を目指すぞ、黄月」と赤羽も右手を差し出し手を握る。
そんなやり取りを、いつの間にかクラスに居た全員が見ていたらしく、拍手が鳴り響いた。
「大変だろうけど、頑張れよ」とギャラリーから声援が送られていた。赤羽の黄月両名は、恥ずかしさからか、顔が赤くなっていた。
喧嘩をしていても何の動揺もしなかった赤羽だったが、コレには流石にあたふたとしていた。
こうして1年D組、公認のコンビが誕生した。
そして放課後。
赤羽は黄月の席に行き聞く。
「黄月、とりあえず、俺たちコンビの活動の第一歩はどうすんだ」
「うん、まずはエンタメ探求部に入部したいと思うんだ」
「昼も言ってたな、そこに入部する事がそんなに重要なのか?」
「ここの部長は、作品を作る事とそれに対して冷静で正しい判断を持ってる人なんだよ。だから、部長に認められる作品を作るって事が、マンガ家になる近道だと思うんだ」
「その部長をお前がそこまで信用する、根拠はなんなんだ?」
「赤羽くんに、コレを読んで欲しいんだけど」黄月は鞄から一冊の本を取り出し、赤羽に手渡す。
「ん、何だこの薄い本は?」赤羽は不思議そうに見ている。
「世間体に言うと、同人誌っていうのだよ」
「ああ、コレがそうなのかって、エロいのじゃないのか?破廉恥だな、黄月」引き気味で赤羽が切り返す。
「そういうイメージが先行すると思うけど、その本は違うから。セブンスが好きなら絶対におもしろいと思えるはずだから、とにかく読んでみて」黄月は軽く微笑みながら言った。
「分かった。取りあえず読んでみるよ」赤羽は読み始める。
黄月が様子を見ると、赤羽は完全にその本に、入り込んでいた。
読み終えた赤羽の瞳には、うっすらと涙が滲んでいた。
「どう、だった?」と黄月は聞いた。
「読み始めてからすぐに、この世界感に引き込まれた。本当に心が震えたよ。何だよ、これ」赤羽は何とも言えない表情で言った。
「僕も初めて読んだときは、すごい衝撃を受けたんだ。ただただ感動したよ」
「絵も上手さもだけど、この薄さの中にこれだけの濃厚なストーリーがとても丁寧に描かれている。非の打ち所の無い完成された作品だなコレって」
「うん、圧倒されるよね。それでね、これを制作監修したのが・・・」黄月が言おうとすつと
「まさか・・・」赤羽が何かに気づいた様子で言った
「そう、エンタメ探求部の部長の尾田摩狸先輩なんだよ」と黄月は言った。
「なっ・・なんだってーーーー!?」ショックを受ける赤羽。
「僕がマンガ家になりたいと思った切っ掛けはセブンスだったけど、この作品『七支刀』に出会ってより強く、誰かのの心に響くような作品を作れるようなマンガ家になりたいってそう思ったんだ」黄月の言葉には、とても重みがあった。
「昼は勢いで約束しちまったけど、こういう作品を見ると本当やる気が出てくるよ。だから、俺も、黄月の夢に自分の夢を乗せるよ」赤羽も自分の精一杯の気持ちで黄月に返した。
「うん、ありがとう」
「おう、頑張ろうぜ」と二人は覚悟を固めた。
「入部テストが3日後にあるんだけど、それまでに原稿の書き直しをしたいと思うんだ」
「そうだ、入部の条件って何なんだ?」
「うんっと、部長に本気伝わるものを見せるって事なんだけど・・・あれだけの作品を作る人にって、思うと・・・」黄月は弱々しく言う。
「まあ、考えていても前には何も進まないしな。むしろ俺は、その部に俄然興味が出たよ。精一杯やってみようぜ」
「そうだね。考えるよりも動かないとね」黄月の言葉に力が戻っていた。
「マンガはどこで作るんだそういえば?」
「僕の家が、良いと思うんだ。道具も揃ってるし、どうかな?」黄月は赤羽に問う。
「OK、いいんじゃないか。んじゃー時間も残り少ないしみたいだから、やろうか。俺は、素人だから黄月に方向性とか細かい事は、一任するよ」
「了解。早速、家で作業に取り掛かろう。でも、赤羽くんは一回自宅に戻る?」
「この勢いに乗って、一緒に行こうと思ったけど、悪い一旦戻るな。晩飯の準備しとかないと一大事になるからな・・・」赤羽は申し分けなさそうに言った。
「何か、いろいろ大変みたいだね。じゃあ、19時に駅西口の傍にあるコンビニで待ち合わせでいいかな?」
「えっと、看板に数字が入っている奴だったよな確か?」
「うん、そうだよ」
「OK、それで大丈夫だ。じゃあその時間にな」と教室を出ようとする赤羽。
「赤羽くん!」と呼び止める黄月。
「ん?」
「えっーと、なんかいろいろ巻き込む様で、ごめんね・・・」黄月は頭を下げる。
「気にするなよ。多分、こうなるのが運命だったんだろな。昨日知り合って、今日はコンビでマンガ家を目指すって、自分でもおもしろいって思うよ。初めての任務は二人で、ボス(部長)を納得させるものを今の全力で作って入部を勝ち取ってやろうぜ、相棒」と赤羽は、右手をグーにして黄月に突き出した。
「うん。ありがとう!」黄月は今日一番の笑顔で言う。黄月も右手をグーにして赤羽の拳に返した。
二人はのぼりはじめた、このはてしなく遠いマンガ道を・・・
二話まで、時間が掛かりすぎました。
3話は早めに手がけたいです。




