74話 村を作ろう
心肺停止している接近戦部隊を捜し当て、蘇生術を施すことになる。
大味の蘇生術……ファイレが雷撃魔法を知識持つ剣に射ち込んでボルトとアンペアに分けて簡易電気ショック療法を行う。一歩間違えれば大惨事だが、ラーズたちはそんなことはまったくわかっていない。
もちろん雪は排除している。吹雪も治まり、ファイレの火炎系魔法で一帯を焼け野原へと変貌させている。
ファイレと知識持つ剣が蘇生術を行っている間に他の部隊はテントを張ったり医療器具を用意したり、食事を作ったり、後方部隊に連絡しに行ったりと大わらわである。
そして何とか全員無事に帰還することが出来た。
今は後方部隊と合流するために現場待機に移っている。
待機と言ってもやることは山ほどある。この場所に町を作る予定なのだ。もはや国に帰ることは出来ないのだから……。
そのためにアネットとガイアルは指示を出して木の切り出しなどを行い始めている。『さっきまで心肺停止していたのに人使いが荒い!』とは団員の一人の台詞だ。休んでいる暇がないのはわかっているがドラゴン退治の後にすぐさま土木作業とか、体が壊れるレベルの運動量だ。
スイロウとデスラベルはスノータァングが財宝を残していないか探索する部隊を率いている。ドラゴンならかなりの額が見込めたがスノータァングが持っている可能性は極めて少ないだろう。
ちなみに葉弓は隷属の首輪をつけられロープでグルグル巻きにされている。『駄目だ』と言うのにラーズの首を何度も狙うからだ。ほとんど条件反射で故意じゃないのが性質が悪い。それなりにデスラベルの言うことは聞いているのだが、しばらくはこのままということが決定している。
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ラーズ 「そうなると、必要なのは資金だが絶望的かな?」
ファイレ「そんなことないと思うよ。国が何度かスノーファングを倒すため軍を派遣してるわけだから、彼らの所持金と装備はごっそりいただけるんじゃないかなぁ」
テーラー「しかし、お金が入ったとしてどこで使うのですか? 当然、国では我々はマークされている。パンの一つでも買うのが難しいのでは?」
ファイレ「そーなんだけどねー。アルビウス副大臣とセリナーゼ商会主がいれば無理を通して道理を引込めさせられそうなのよねー」
ラーズ 「国で買い物が出来ると?」
テーラー「いくらなんでもそれは通る『無理』ではないでしょう。目立つ獣人の大半はこの部隊に同行してしまっているです。この部隊を養えるほどの横流しは考えづらいです」
ファイレ「国は国でも、国違い」
テーラー「国違い?」
ファイレ「敵の敵は味方……ってことかな。ドラゴン襲来前に戦争を起こしていた国と取引をしようってー話なのよ。スノータァングのせいで街道の一本が封鎖されていたけど私たちが開いちゃったら、どうなると思う?」
ラーズ 「また戦争か?」
テーラー「いや、すぐに戦争なんて無理でしょうね。対戦国はスノータァングが倒されることを考えてはいないのだから。だが、我が国は我々を潰しその勢いで、準備の整っていない対戦国を一方的に蹂躙する可能性は高いですね」
ファイレ「対戦国はそれは避けたい。または……」
テーラー「時間をかけたい」
ファイレ「ビンゴ! 時間稼ぎに捨て駒が目の前にあるなら使うでしょ。ただ時間稼ぎにもならないような今の状況はいただけない。手を貸してくれる可能性が高い。その情報を流す役目と商売とを考えれば……」
ラーズ 「必要なのはアルビウス副大臣とセリナーゼ商会主……か」
テーラー「彼女たちが来てくれても、こちらで財宝なり軍資金なりがでなければ最低限しか力を貸してくれないのでは? それに対戦国がこちらに責めてくる可能性もありますよね?」
ファイレ「その可能性は極めて低いわよ。スノータァングが倒されると思っていないのに軍備を用意してるわけないからね。時間がかかるなら私たちの国の方から軍が来る方が早いでしょ。
それから金銭面だけど最悪アルーノ伯爵から借り入れましょうか。アンジェラが用立ててくれると思うんだよね~」
ラーズ 「そんな都合よく……」
ファイレ「なんでお兄ちゃんを餌に彼女たちを釣ったと思ってるの? 役に立たない奴なんてお兄ちゃんのそばに置くわけないじゃない? 役に立たなくなったら捨てましょう」
テーラー「本気か冗談か分からない所が怖いんですよ」
ファイレ「冗談よ、半分は。でも、役に立つ気が無いなら切り捨てる気持ちはあるわ。それはアナタも同じでしょ? 足を引っ張る気満々の奴がいたら容赦はしないわ」
テーラー「それは葉弓のことを言っているのですか?」
ラーズ 「たぶん違うと思う。ファイレは彼女は使えると判断している。ただ、俺を殺そうとしていることに腹は立ててくれているけどね。彼女の実力は折り紙つき、扱いに困ってるってー所だろ?」
ファイレ「葉弓は大嫌いだけど使える駒だからね」
テーラー「同族嫌悪ですか」
ファイレ「同族じゃないわよ!」
テーラー「確かにラーズ様を殺すことを愛情表現と思っているあたりイカレてはいますからね」
ファイレ「そこは同意できるけどね」
ラーズ 「同意できるのかよ!?」
ファイレ「だって殺しておけばこれ以上嫌われることが無いわけじゃない?」
ラーズ 「だが、これ以上好かれることも無いだろう」
ファイレ「自分がこれ以上好かれないと思っていたら、殺してもO.K.ってことよね」
テーラー「『O.K.』じゃぁありませんけどね。納得は出来ます」
ファイレ「信じられないのよ『これ以上、愛情を注がれる』なんてことを。彼女にとっては今が幸福の絶頂。ここが行き止まりってー気分じゃないかなぁ。もう、終わりたいんだよ」
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それから一ヶ月ほどで簡単な村が形成されていた。
予定通りの順調な滑り出し。アルビウス、セリナーゼ、アンジェラとも合流できた。それにドワーフや獣人もかなりの人数を引き連れている。
街壁を建設中である。
ドワーフと獣人が中心となって制作しているが予定よりかなり遅れている。これが完成すれば国からの軍に対する備えとしては……。
「一時凌ぎね」
「無いよりマシでしょうなぁ?」
というのがアルビウスとセリナーゼの意見である。
二人は会議室という名の掘っ立て小屋にいる。現状を把握するために話し合っていた。街の形成にはアルビウス、金銭面ではセリナーゼといったところだ。
街壁ができたところで国軍を相手にどれほど保てるかといえば、この村の軍の練度によるところが大きい。残念なことに元・軍に所属していたモノはほとんどいなければ、その訓練法すら知らないので我流で行われている。
それでも傭兵であったアネットやテーラーのおかげで見れる程度には仕上がっている。
「一ヶ月で見れる程度の軍を作り上げたことを褒めるべきなんでしょうね」
「この村は24時間不眠不休で動いとりますぅ。それくらいは当たり前と思うべきとちゃいますか?」
朝も夜も誰かしらが、この村では働いている。そうしないと自給自足が間に合わない。農耕も始めているが、収穫期までは程遠い。狩りをする部隊なども形成されたり、建築や鍛冶など引切り無しだ。
自分たちが命からがら 国から逃げてきたという意識がある。下手をすれば明日をも知れない命と思えば必死にもなる。睡眠時間が3時間程度の人間も山ほどいる。女・子供でも狩りや建築が手伝えるようになるほど切羽詰まった状況だと言っていい。必然的に強くなっていくし、それなりの統率力も上がっていく。
当たり前だが犯罪率はほぼ0%に近い。人を騙したり盗んだり、人の足を引っ張るような奴はいないし、そんな奴がいたとしてもここでは生きていけないだろう。ただ0%にならないのはケンカがあるからだ。それも、村をより良くするための言い争いなので致し方あるまい。
それでも物資が足りないことは否めない。
隣国から引っ張ってくる量もたかが知れている。足元を見ようとする商人からは、セリナーゼは逆に大目にせしめていたが、正当な商売をする者には隙が無く額面通りの物資しか手に入れられない。そもそも、まだ生産性のないこの村ではスノータァングのわずかな財宝でしか売買が出来ないので、思うように事は運んでいない。それに国に有った『貴婦人の剣』を他人に売り渡している。当然、目を付けられないようにするためにだ。
「そこそこ順調ですが……」
「英雄トールなり宮廷魔術師なりが出てきたら……あかんでしょうなぁ」
行きつく先はそこ。
一騎当千の者を止める手札が少ない。今現在はこちらも強者、アネットやスイロウといったものを当てるしかないが、勝てる見込みは薄い。
「それにアルーノ家も敵に回ったようですし……」
「坊ちゃん、嬢ちゃんは勘当されてこの村にいるわけですしなぁ。おかげで手切れ金が入り何とかなりましたが」
アルーゾとアンジェラは国を裏切ってラーズ達と行動を共にすることになった。当然、父親は二人を勘当。手切れ金としばらくはこの村を攻撃しないことで手打ちとした。しばらくがどれくらいの月日を表しているかはわからない。だが『しばらく攻撃しない』ではなく『攻撃できない』というのが本音だろう。軍を集めるということがそれほど楽なことでないことぐらい周知の事実だ。
「そろそろ国も行動を起こしてくるでしょうね」
「アルビウスさんが近隣のドラゴンを国に押し掛けるようにしたおかげで、一ヶ月ほどは時間は稼げましたが、こちらを放っておくほどバーグルド大臣もお人よしではないでしょうからなぁ」
ドラゴンを上手く誘導し国に押し付けた。おかげでこの平原にはドラゴンは来ないし、国の出鼻をくじくことが出来た。おそらくドラゴンはまだ国を攻撃しているだろうが、一ヶ月も経てば慢性化してくるだろうということは二人にとって共通認識。ドラゴンも攻撃の手を緩めそうだし、こちらを手放しで放っておくことも考えずらい。
そうなれば、警備の強化が要求される。
いままでは獣、モンスターに注意を払っていればよかったが、軍隊や冒険者なども そろそろ視野に入れていかなければならない。
「具体的には盗賊、山賊でしょうね」
「そやろうなぁ。国の立て直しもあるやろうから、大々的には動けませんやろうし」
「冒険者や騎士を賊に見せる」
「で、兵糧攻めやろうか?」
「どうかしら? 直接、この村に取り立てに来る可能性も高いわ。舐めているなら」
「それなら好都合なんやけどな」
「バーグルドだけなら違う手を打つでしょうけど、国にはいろんな貴族が手柄を立ててこの土地を欲しがっているからね」
「大助かりですわ~」
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バガース伯爵。
クルッとした鼻髭を生やした30代の男である。
現在は馬に乗り、小さな村を目指している。スノータァングが討伐された草原に立てられたラーズの村。もちろん奪いに行くためだ。100名ほどの部下を連れて……。
軍事力皆無のその土地を奪おうと企む者は少なくないが、本当に行動するモノは極めて少ない。
その『極めて少ない』に入った男・バガース。
残念なことに優秀ではないが自己顕示欲が強いうえに欲張りで誰のモノでも欲しがる。ラーズという平民が土地を手に入れたなら、奪ってやろうという考えに辿り着くには5分もかからなかった。
ただ、厄介なことに一時的だがラーズは法律上、貴族となっているのだ。
『スノータァングを倒したモノに爵位と土地を与える』とある。これは取り消されることになるだろうが、その手続きに時間がかかることは言うまでもない。
そうなると直接 バガースが軍を仕向けるとこちらの非になることは明白である。
ならば、と考えたのが盗賊に扮するという作戦。盗賊が勝手に美味しいところに飛び込んで毟り取っていくだけならば文句もでまい。
「と、僕は思っているんだよ」
「全く持ってその通りでございます」
バガーズの部下のテルテが相槌を打つ。
もともとはテルテ参謀が考えた策であるのに手柄はバガースに攫われてしまう。だが、テルテ参謀は花より実を取るタイプ。バガースの事を内心では見下している。
「100人の兵と冒険者を野盗にしたが足りると思うか?」
「十分かと思われます。そもそも あの村は軍隊などおらず傭兵だけ。その傭兵も基本的には狩りに出なければなりますまい。そうしなければ食料がないでしょうから、守りは手薄。戦闘せず殺し奪い去るだけでしたら100人でも多いかと思われます。たとえ傭兵と戦闘になったとしてもこちらは伯爵の正規軍を入れているのです。まず負けるわけがないでしょう」
「そういうことを言っているのではないのだよ。奪ったものを持ち替えるのに100人で足りるかということだよ。せっかく殺して奪っても持ち帰る人手が足りないのでは困るのだよ」
この男はもう奪った気でいるのかと少し呆れてしまう。たしかに余裕ある軍編成だ。素人相手にプロが出ていくのだから。だからといって帰りの心配とは気が早すぎやしないだろうか……しかし、それらを声に出すほどテルテもマヌケではない。折角の金蔓に変に機嫌を損ねられても困る。
「問題ありません、バガース様。持ちきれない場合はその村の住民を奴隷として連れ荷物を持たせればいいのです」
「ほほぉ、なるほど、なるほど。僕もそう思っていたところだよ。君も中々頭の回転が早くて助かるよ。そうとも、奴隷を作ればいいんだよ。わかっていたさ」
本当にわかっていたかと問われれば、そんなことはないだろうとテルテはすぐさま思った。だが、そんな些細なことよりも敵の中で気になる人物が数名いることを忠告する方が先である。
「バガース様、わかっておいでだと思いますが念のためご忠告を……。あの村には厄介な連中が数名おります。元・情報副大臣をはじめ、飛龍狩りや国の先陣など彼女たちが出てくると痛い目を見るかと……」
「だが、彼女たちの首には懸賞金が掛かっているよね。彼女たちの2~3人でも殺せば侯爵にもなれそうじゃないか?」
「たしかにその可能性はありますが、あえて危険を冒さずともよろしいかと?」
「一人二人で歩いているなら狙うよ。折角の獲物だもの。ただ、兵を率いている可能性が高いからね。いくら僕でもそこまで無茶はしないさ」
その怖さはバガースの耳にすら入っている。おかげでテルテも安心していられる。凶悪な彼女たちさえ出てこなければ問題ないハズだ。他に名だたるメンバーは確認されていない。いや、大地神の神官がいたようだが噂の範疇でしかないし、戦闘に特化しているわけでもない。それに賞金もかかっていないのでバガースも狙わないだろうと判断する。
何日かめに森を抜けると広い草原に出る。
スノータァングがいた草原。元の草原の名は忘れ去られ、今では雪の舌草原と呼ばれている。
とても盗賊らしからぬことだが、バガース伯爵たちは万全の態勢を取っている。部下たちはこれから好き放題暴れ、奪えるモノは金銭から命まで全て奪うつもりで心を躍らせ舌なめずりをしている。本来なら騎士であり冒険者である彼らだが、今現在は盗賊に堕ちることの幸福感を感じていた。本当に略奪が始まったなら、彼らが本来の騎士や冒険者に戻れるかはなはだ疑問である。
「くっくっく、ヤバい。楽しくなってきやがった」
「早く新しい剣を試したかったんだ。絶好の機会だぜ!」
「どうやら獣人どもを家畜にして引きづり回していいらしいぜ」
などと、勝手なことを言ってハイテンションになっている騎士に冒険者たち。主君も主君なら部下も部下である。ここに居る多くは獣人を見下し、奴隷だと思っている者が大多数だ。たちが悪い奴になると獣人は家畜だと思っている輩もいる。
そんな一団を遠目から見ている者がいる。
「どう料理いたします?」
「適当にやろーぜ」
「デスラベルからやっていい?」
第一部隊、アンジェラ、アネット、デスラベル+獣人数名の斥候 兼 戦闘部隊。
ただの人間より感覚の鋭い獣人たちが、バガース伯爵たちより先に索敵できる。すぐに身をかがめ様子を伺い、戦闘態勢に入っていることを彼らは知る由もなかった。
そーいえば国の名前が出てないことに気づきました
名前はあるんですけどね
もちろんの対戦国も・・・
まぁ 今まで名前が出なかったことに深い意味はありません




