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53話 悪魔と契約して凄い能力を手に入れた

 どこだろう。


 薄暗い部屋で目が覚める。知らない黒い天井を見つめる。

 どこでもない……牢獄だ。投獄され試験的訓練というか拷問につき合わされ、身体中を切り刻まれて途中で意識を失って、ココに戻されたようだ。一体何人と連戦したか覚えていない。

 傷口は最低限で塞がっている。神官もあの仮面門番の中に混じっていたのだろうか? 今の俺ではこの牢屋から脱獄は不可能だ。試験的訓練で死なないようにするだけで手一杯である。だが、少しでも長く生き延びれば助けに来る可能性は高い。それに相手が殺す気がないなら、俺はそう簡単に激痛によるショック死や訓練中の事故死などしない自信がある。師匠に行われていた修行と大差ない。気を抜いたり意識を簡単に手放すことをすれば死に直結するような修行だった。こんなところで生を繋げるために役立つとは思わなかったが……。


 どの程度の回復魔法が掛かっているかわからないが、深い傷を負った覚えはないので後遺症を残すようなことはないだろう。だからといって、今すぐ動けるほどの回復もしていない。実際、かなり厳しい状況だ。油断していると簡単に意識を持っていかれそうになる。なら意識を手放してしまえばいいんじゃないか、と思うだろうがそうはいかない。なにせ、仮面門番の一人が牢獄の中に入ってきているからだ。しかも片手には死神の大鎌(デスサイズ)を持っていらっしゃる、処刑でもするかのように……。

 おそらく、処刑ということはないだろう。なにせ訓練用に回復魔法までかけて俺を生かしておいているんだから……。だが、絶対だとは言い切れない。そう思えば、今 意識を失うのは相当 危険なのは間違いないわけだ。

 当然だが、まだ死にたくはない。いや死ぬまで生きたい。


 仮面門番は一人だけで牢屋の鍵を開けて入ってくる。少なくとも実験台になる時間ではないようだ。もしその時間なら彼が牢屋に入って来ず、俺が牢屋から出ることになるし、二人一組で来るだろう。この仮面門番の目的は何なのかは聞いてみなければわからない。いや、聞く前に死神の大鎌(デスサイズ)が振り下ろされる可能性も十分にある。俺が実験ようとして使い物になっていなければ処分にやってきてもおかしくはない。俺は良く耐え忍んでいると思っていたが、彼らから見たら練習にもならない可能性だってあるわけだ。

 痛む体を無理矢理 起こし固いベットに座り、入ってきたばかりの仮面門番ににらみを利かせる。る気なら、こちらにもそれなりの覚悟有り、と。とは、いうものの座っているのもやっとの状態。筋肉が悲鳴を上げ、一歩間違えば大鎌を振り下ろす前にぶっ倒れそうだった。


「思ったよりも元気そうで、なによりだ」

「……」


 返事はしない……いや、口を開けば悲鳴を上げそうな状況の体で返事が出来ない、というのが正確な答えだ。

 抑揚のない仮面門番の声は、その人物が誰かを判別できなくさせている。仮面という状況じたいが恨みを買わないよう個人を隠しているのだ。声の特徴も隠すのは当然か。

 そんなことより、俺の生死がかかっている。用件を早く言ってもらいたいものだ。それにより最後の気力を振り絞ってこの仮面門番と戦うことになる可能性をシュミレーションする。


「まずは話の前にもう少しお前の怪我を回復させておこうか。じゃないと冷静に判断も出来まい」

「……」


 無言で頷く俺。

 頷いただけで全身激痛! 回復してもらえると思っただけで気が楽になり意識が飛びそうだ。まさか、コレ罠じゃないだろうな。

 危うく気を失う寸前で仮面門番に大鎌の柄でゴチンと頭を殴られ意識を取り戻す。同時に回復魔法を俺にかけ始めていた。回復魔法が遅かったらあの世行きかもしれなかったぞ!

 ?

 あれ、凄い回復だけど、いいのだろうか。ほぼ全快って感じになってきた。大鎌で殴られたところも痛くなくなって……そこだけ痛み残ってる!? 他は痛くないのに!? そこも治してよ!


「だいたい治っただろ?」

「あぁ、だいたい(・ ・ ・ ・)……」

「それじゃぁ、取引を始めようか?」

「取引?」


 仮面門番は脱走を防ぐように、鎌を杖代わりにして出入り口付近の壁に寄りかかる。仮面と鎌で死神のそれにしか見えない。『取引』といわれて魂を引き渡すのかと思わない人間がいないだろう。


「簡潔に言うと心臓を頂きたい」

「見た目のまんまでド ストレートだな!!」

「慌てるなって、お前の死後で構わない。それまでは俺がお前に不利益になることから護衛をしてやる。てっとり早くいえば今この場から逃がしてもやる。俺がお前に不利益になる場合は契約は取り消される。この場合の魂の安らぎは確証される……と言う具合でどうだろう?」

「なにか落とし穴がありそうなので断る!」

「疑い深いなぁ。

 腹を割って話すが、この取引で俺が得られるモノはお前の魔力なんだよ」

「俺の魔力?」

「うーん……魔力というか信頼とかカリスマとか曖昧なモノだな。俺は今、膨大な魔力を有しているんだが残念なことに本来『異性に好かれる』魔力を御しきれず『異性に嫌われる』魔力になってしまってるんだ。だから、お前の心臓を移植することで魔力の浄化かが出来て本来の『異性に好かれる』魔力に戻るはずなんだ。ただ、お前を殺して奪うと契約されてないのでその効果が得られないんだ」

「……悪魔と取引して碌なことにならないのは分かりきってる。残念だが断る」

「じゃぁ、もっと譲歩しよう。契約は俺が信用できるまでしなくていい。お前が一生を終えるまでに決めてくれれば構わない。それまでお前を助けてやるってーのでどうだ? 現にすでに俺がお前の傷を治してやってるんだぜ? それに次にここから出られなければ確実に死ぬ。それに比べれば、今 逃げられる状況は重要じゃないか?」

「利にかなっているな……だから、余計にお前を信じられない」

「契約してないんだから、恐れる必要ないだろ? ……ってーか、そもそも俺 悪魔じゃないけどな」


 仮面を外すと髪の毛がボサボサな男が顔を覗かせた。髪が長すぎて目が確認できない。見た目的には確かに人間だが、人間に化けることは魔法で出来るので何の参考にもならない。


「ぶっちゃけ、やっとこの国で第一区画の門番にまでなれた俺が、その地位を捨てる覚悟でここに居るんだぜ。ってーか、他国で傭兵やってたんだけど失敗して追い払われたんだけどな」

「知らねーよ。お前の履歴なんて! だが、俺の心臓をやっても構わないぞ」


 そう、契約内容を変えれば俺は心臓を差し出す覚悟はある……。


「ドラゴンの主を倒してもらえれば……こんな命安いモノだ」

「……無茶言うなよ。お前、ドラゴン襲来を起こした大元を倒そうって考えだろ? 誰だかも知らないで……」

「あぁ、そうだ。誰だかも知らない。たとえ神だとしても俺は許さない!」

「はぁ~、絶対倒せないが俺の誠意が伝われば心臓くれるかもしれないから しばらくは付き合ってやるよ。まずはここから脱出しようぜ。外で美味いもんでも食いながら、ちょっと説明してやるよ」


 俺は黙ってうなずく。コイツの本当の目的は俺の心臓なのか、国の監視か、またはドラゴンの主の関係かもしれないが、この牢獄から逃げる道しるべを見つけることに成功した。たとえ掴まって殺されたとしても放っておけば同じ結果になると考えれば悪い選択ではないはずだ。


 この仮面……は外している男の名前を聞いてなかったことを思いだした。少なくともしばらくは一蓮托生でこの地下牢から脱出することになるのに名前がわからないと面倒だ。礼儀として俺から名乗るべきだな。


「そーいえば名乗ってなかったな。俺はラーズ」

「俺はゼディス。基本、神官 兼 傭兵だ」

「人間みたいだな」

「人間だけどな。正確に言うと人間とは言い難いのか? 否、人間で問題ない!」

「自分でも分からないのかよ!」

「基本の肉体は人間だ」

「魂とか、その辺が禍々しいのか」


「…… ……

 …… ……

 …… ……

 ……そんなことないよ」


「ずいぶん、間があったな!!」

「まぁまぁ、落ち着いて。まずは脱出に必要なモノをお前にやるから」

「俺の武防具、だな」

「それとお前は才能が無さそうだから丁度いいモノをやろう」

「才能無さそうとか言うなよ。本人、意外と傷付いてるよ」

「さっきまで死にそうな奴の台詞とは思えないが、まぁ、受け取ってみろ」


 『なにを?』と思ったら薄いピンク色の……魔力が俺の体に染みこんでくる。

 人に魔力を渡す呪文はある。だが、それは許容量以上は入らないハズ……なのに、どんどん入ってくる。なんか背筋がゾッとした瞬間、目の前の男・ゼディスの存在が希薄になっていく。


「能力が低くて俺が入るスペースが多くて助かった」

「おい!」

「心配するな。お前の空白部分に俺の能力を貸してやるだけだ。お前を乗っ取ったり操る能力はない。信用できないだろうけど、する必要もない。能力を得て楽しんでみてくれ」

「そうやって堕落させていくのが悪魔のパターンじゃないか、は~ぁ」

「溜め息吐くなよ、その能力でドラゴンの主と多少は……いや、無理だけど……戦いに有利になるだろ。俺はお前が死ぬか呼び出すまで寝てるから好きに使ってくれ」

「おい!」


 ゼディスは完全に俺の中に入り込んでいた。もう仮面門番だった姿はない。

 手を握ったり開いたりしてみる。

 これはヤバい。明らかに強くなってるのがわかる。ゼディスが知っていたであろう呪文もわかる。悪魔の罠だとしても、この力を振るってみたくなる。妖刀と呼ばれる剣を持った人の心境なんだろうなぁ。


 頭の中に話しかける。ちょっと不思議な感覚だ。


(で?)

(『で?』とは?)

(逃げるのはいいとして、隷属の首輪の鍵はどこだ?)

(……)

(ゼディス~!!)

(落ち着け、ある場所は俺が教えてやる。今のお前の力なら十分取り返せる。ちょっと試してみたいだろ、自分の力を!)

(……

 『お前』の力を試させてもらおうかな)


 悔しいが、ちょっとワクワクしている俺がいる。

凄い能力か まだ分からなかった

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