54話 下水道の先に・・・
お兄ちゃんを助けに行くのは吝かではない。
だが、こんな場所で戦闘を行うのは避けたかった。
「もうっ!! 最悪だよ」
「ラーズが囚われている場所は下水道の先ですから、ここを通らざるを得ません」
メガネをクイッっと人差し指で上げるアルビウスさん。
「どうやら、奥に誰かいるようじゃが?」
「いーじゃん、いーじゃん♪ 暇つぶしに相手してあげようよ」
エルフのデスラベルが先制攻撃を仕掛ける。まだ距離がありハッキリと顔を確認できないが、下水道に味方がいるとは思えないので誰も止めない。まずは防御系を唱え、二つ目の呪文を詠唱しはじめると、ようやく相手が気づいた。真っ白な面を付けている。この国に来たときスイロウを襲っていた奴らと一緒の仮面だ。
「アルビウスさん!」
「国内の暗部……暗殺集団です」
私が彼らをアルビウスさんに確認しようと声をかけただけで、その意図を敏感に察し答えを返してくる。それだけ聞ければ十分。この状況で手加減なんて出来る相手ではないことを理解する。
デスラベルも全く手加減する気がないようで、風の刃の魔法が彼らを切り裂く。おかげで下水が舞い上がり飛沫が私たちにまで飛んでくる。仮面暗殺者の人数は4人……そのうち3人は先制で仕留めたようだが、1人回避される。
反撃してくるか、逃げるか……当然逃げるだろうと私たちは判断する。一撃で3人倒すような者が相手で1人残っただけで何かできるとは思ってないだろう。それに多少 逃げれば仲間に侵入者発見を連絡できる。
が、反撃してきた。
こちらの予想を反し、手持ちのダガーをありったけ放ってきたようだ。前のめりになっていた私たちに、無数のダガーが飛来する。
上手い攻撃だ、と感心する。この一手で踵を返し逃げ切るつもりだろう。だが、私たちを舐めないで もらいたいものだ! そんなモノを気にせず突っ込む!
「なにっ!?」
本来なら声を上げることのないであろう暗殺者が驚いている。まさか、ダガーを完全無視して接近戦を仕掛けてくるとは考えもしなかったのだろう。魔術師、精霊使い、アドベンチャラー、女児のパーティーで接近戦があることは捨てて逃走経路を模索していただろう。
ダガーは全弾回避……否、全弾逸れた。デスラベルの精霊魔法で、風の障壁が出来 飛び道具の命中を避けるモノらしい。
仕込み杖を抜き、暗殺者の最後の一人の首を掻き切る。
暗殺者4人の死体を見下ろす。ドブに浸かってピクリとも動かない。
「念のため、全部、首切り堕とす?」
デスラベルの提案にアルビウスさんが首を振る。そこまでする必要はないということだろう。所詮只の殺しのなれた人間でしかない。この状態で生きていたとしても、追手とは成りえないと判断。連絡するにも私達より早く行動できるとも思えない。
「それにしてもネズミにでもなった気分だよ」
死体を乗り越え、人工の洞窟っぽい辺りをランタンを照らす。
ランタンの光を絞ってある。あまり明るいと敵に先制を許すことになりかねない。そのおかげで先程はこちらから先に手を打てたわけだからね。魔法の灯りでは明るすぎるし、調整が利かない。
どうやら、ココが暗殺集団のアジトらしい。情報局でもこの場所を知っている者はバーグルド大臣しかいないらしい。普段の連絡にこの場所を訪れることはない。手紙とか伝言を使うらしい。
第一区画の下水道、こんなところに高貴な貴族様が入っていくことはないだろうし、第三区画の者は侵入できない。いい隠れ家だ。
ここにスラムの人間や死刑囚などを連れ込み、殺しの訓練を行っているという話だ。とくに獣人に関しては犯罪者じゃなくても殺害しているらしい。殺害後は近くのダンジョンにでも放り込めば死体の処理はお終いだ。
それでも彼らの需要は多い。貴族同士の権力争い、他国の重鎮の処分、連絡者の排除、商人の誘拐……etc。そんな奴らにお兄ちゃんを連れ去られているわけだ。なら、私たちが暗殺集団を皆殺しにしても文句はあるまい……アルビウスさんは少々困るかもしれないが、その辺は知ったこっちゃない。
『さて……』とアルビウスさんに続いて道を進む。暗殺者を倒したのは、今の4人が初めてだ。このアジトに何人いるかわからないが、のんびり探している余裕はないだろう。また巡回しているであろう暗殺者に狙われるから……ではなく、お兄ちゃんが長くもつまい。逃げまどうには優秀な兄であるが、訓練用となればこの場から逃がしてもらえる可能性は極めて低い。おそらく『隷属の首輪』くらいはつけられているだろう。そう考えれば人質として使う可能性も考えておかなくてはならない。
「それにしても、臭くて敵わないわねぇ」
「デスラベルも臭くなってくるよぉ!」
「仕方ありません。下水道ですから……」
「で、何故、儂がお前らのおもりをせねばならんのじゃ?」
後ろで不満顔のウィローズがテケテケと着いてきている。さっきの戦闘も見てるだけだったけど、下水道に放り込まれたのだ。文句の一つも言いたくなるだろう。しかも、ほとんど意味も分からず連れて来られているのだから……。その説明をアルビウスさんがする。まぁ、おおかた予想は着いているけどね。
「ガイアルのことです」
「じゃなきゃ、ウィローズを戦闘もさせないのに連れてくる意味が無いものね~」
「……その様子ですと、ファイレさんは気付いているのですね」
「どういうことじゃ?」
「デスラベルの弟子がどうしたの?」
アルビウスさんが言葉に詰まる。
そりゃー詰まるだろう。ウィローズはともかくデスラベルはどんな人物か分からない。かという私も彼女が何者かあんまり知らない。下手に喋ればガイアルがネクロマンサーだという情報が拡散してしまう。なら何故 連れてきたかという話になるが、お兄ちゃんを助ける戦力として必要だったからに他ならない。
スイロウ、ガイアル、ウィローズが戦力外で私とアルビウスさんだけじゃぁ、さすがに話にならないからね。エルフに口が堅いイメージがあったのだろうが、こうなれば諦め話を進めるしかない。
「ガイアルは……スイロウを作り出したネクロマンサーの可能性が高いです」
「…… ……な・にを言っておる?」
「えっ、えっ? なに? なにがネクロマンサー? え?」
想像通りに話についてこれない。
私とアルビウスさんが大まかな概要を二人に聞かせる。ウィローズの顔は青ざめ、デスラベルの目は大きく見開かれていく。デスラベルに至ってはスイロウがドッペルゲンガであることから話しているので驚きは非常に大きい。
今までアルビウスさんが私たちに情報を流さなかったのは、さきにホワイトドラゴン・スノータァングを片付けてからと考えていたかららしい。
「ま・さか……」
「ウィローズ、おそらく私たちの推測は当たるわ。そうなるとスイロウ剣士を生かすか、ガイアルを生かすか、の二択になるわ」
「なら、ガイアルを生かすべきじゃろ!」
「? なんでですか? 普通に考えればネクロマンサーを生かしておく理由が見つかりません」
「だめだよ! だってガイアルはデスラベルの弟子だからオリハルコン加工が出来なくなっちゃう!」
「それはデスラベルがやればいい」
「めんどい」
「それに、スイロウの呪いを解く術が確実に成功するとは限らなぬ」
「……それは初耳」
私は冷ややかに、ウィローズに疑いの眼を向ける。
もし失敗の可能性があるなら何故初めから言わないのか? わざわざ危険なことに身を投じることになる。もし、成功の可能性が低いなら故意に隠していたことに……いや、低いだろう。低くなければ今、このタイミングで言い訳がましく持ち出してくる理由がない。または初めからスイロウを殺そうとしていたとか?
「ウィローズ、なぜ黙ってたのかしら?」
「ふぅ~、すまんな。答えられぬ」
大きくため息を吐いたウィローズが冷静さを取り戻す。もう語ることはない、スイロウでもガイアルでも好きな方を選べ……という態度だ。
「ガイアル殺すの?」
不安そうにデスラベルが私たちの顔を見渡す。
まだ、ガイアルがネクロマンサーだと決定したわけではないが、ネクロマンサーだったとして、どうするか。私の考えは……。
「お兄ちゃん次第かなぁ」
「そうですね。ラーズが決めるのが一番いいでしょう」
「何かあったら、アヤツに責任を押し付けるわけか」
「でも、良い判断なんて出来なそうだよ、ラーズじゃぁ?」
「最良の判断なんて求めてないから大丈夫。まずはお兄ちゃんを見つけ出しましょ!」
「そうですね」
「そうじゃな」
「そう……なの?」
お兄ちゃんは間違っても仕方ない、基本的に何にもできないんだから。せめて責任を取る役を買って出てもらう。ただし、私たちはその判断を出来るだけサポートしベストじゃなくてもベターには持っていく努力をする。それが私たちとお兄ちゃんの関係だ。
悔やんだり後悔は全部、お兄ちゃんに押し付けられる分、私たちは伸び伸びと行動させてもらい最大限力を発揮できるのだ。
でも、今のままだとガイアルもスイロウも助からない道もある。というかその可能性が一番高い。どうしたものかと思いつつ、下水道を進んでいくとハシゴを見つける。どうやら上へと繋がっているらしい。アルビウスさんが聞き耳とか立てて、上の様子を確認している。首を振る……どうやら上に誰かいるらしい。私がアルビウスさんとハシゴを入れ替わり上を確認。それは丁度いい!
「突入だ!」
「えぇ!?」
ダンッ!! と、下水道の蓋を押し上げ暗殺集団のアジトに潜入する。周りを確認すると同時に火 の 球を2~3発ぶっ放す。
「死んだら死んだで構わないわ! 生き残った場合だけ情報を引き出しましょう!」
「どんだけ無茶するんですか!」
「ひゃーっはー!!」
不意を突き暗殺者と思しき数人を吹き飛ばす。一瞬、戸惑っていた彼らだがすぐに冷静さを取り戻す、が時すでに遅し、第二の風の刃がデスラベルから送られ、トドメにアルビウスさんンのダガーが突き刺さる。
こりゃー生き残った人物はいないかな? 全員死ねばのんびり探し出せるし構わないか。
騒いだわりに追撃が来ない。
「扉の外で待ち構えておるようじゃな」
この部屋の扉は一か所。あとは下水に戻る道。
どちらに進むか相談するまでもないようだ。デスラベルに至ってはワクワクしている。すでに二度目の風 の 障 壁を唱え終わっている。
私が扉を開けると同時に10本以上のダガーが飛んでくるが、ダガーは全て私を回避していく。ほぼ同時にこちらの呪文詠唱が完成する。巨大な電撃が通路を貫いていく。直線に効果的な攻撃だ。それだけでほぼ一掃。8人中2人が気絶、あとは絶命した。生き残った仮面をつけた暗殺者をさっさと起こし、牢獄と鍵の場所を聞き出す。答えてくれたので楽にしてあげる。
「容赦ないのぉ」
「容赦する理由が見つからないからね」
「それにしても、敵が弱いですね」
「弱いんじゃないわ。不意を衝いているからよ。こちらの情報を与えず瞬時に片付ける。おそらく襲撃を想定してなかったんでしょ、場所が場所だけに。それじゃなきゃ、ここまで楽じゃないことは想像に難くないわ」
倒れている暗殺者の一人が杖を持っている。魔術師系なのだろう。なぜ魔法を使わなかったか……舐めていたからだ。10数本のダガーで事足りると高を括ったのだろう。反撃が来ても後ろの自分までは回ってこないだろうから、初弾を押さえれば次は自分の呪文だとも考えていたのが手に取るようにわかる。
火の球なら彼の想像通り届かなかっただろうが、電撃系の魔法は横に広がらない分 貫通するのだ。
「さて、そろそろ相手方も本気で来るんじゃない?」
「気を引き締めた方がよろしい……ということですね」
「大丈夫じゃない? デスラベル強いよ?」
「むっ、待て。誰か近づいてくるぞ」
魔法を打ち込んで様子を見るかと思ったがその姿を見て詠唱を止める。
「お兄ちゃん?」
いや、違う。
お兄ちゃんがこんなに魔力を持っているはずがない!
暗殺集団の小隊は四人一組です
しかも国のお抱えで騎士からなる者もいます
おかげで王は安泰です
貴族たちは反旗を翻すのが難しい状況
個人所有の暗殺集団はいないので王暗殺を試みるなら
第三区画の半冒険者を使うくらいしかありません




