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ステージのはじまり ~見られる快感への道~

第1話 ステージのはじまり~見られることの快感 

(カクヨムに掲載してる物のリメイクです。カクヨム「村上夏樹」)

挿絵(By みてみん)

優香がダンスを始めたのは、小学生のころ。

最初は習い事のひとつにすぎなかったのに

中学に上がるころには、発表会のステージやコンテストの動画に、誰が評価をしてくれて自分が「どう映るか」を気にするようになっていた。


―映える衣装、可愛いメイク、肌の見え方。


どれかを少し変えるだけで、「いいね」の数が全然違うことに気づいたのは、インスタやTikTokに自分のダンス動画を載せはじめた頃だった。


最初は親の管理するアカウントで投稿していたけど、フォロワーが増えてきたのをきっかけに、自分でも更新するようになっていった。


昔の動画を見返すとふと思う。


あれ、こっちの方が露出多いな…。自分が選ぶ服より、大人が選んでいた衣装の方が足もお腹も出ていた。


そういう動画のほうが「いいね」の数は圧倒的に多い。

今でもいいねやコメントの通知がつく。



「見せたほうが伸びるんだ」


そんなふうに学んでしまったのは、誰のせいだったんだろう。


今では、ショート丈のトップスやミニスカートを着て踊る動画が当たり前になっている。

お洒落とか個性とかじゃない。単純にその方が、反応がいいから。


見てくれる人が多いから。

だからそのような格好に似あうファッションに傾倒していく。


「ファンです」とか「上手いね」とか、リプライがつくたび、脳がじわっとあったかくなる。



ライブ配信でも同じだった。


「もっと近づいて」「今日のスカート短いね」とか、際どいコメントが来るたび、ためらいながらも少しだけ応える。


それだけで、有料アイテムが飛んできて、ハートが画面いっぱいに広がる。



承認欲求って、気づいたときにはもう喉元まで来てる。


「ただ見られたい」じゃない、「もっと見られたい」のだ。




そうやって、優香は少しずつ、画面の向こうの期待に合わせて“見せること”を覚えていった。




今日も放課後。制服のまま、帰宅してすぐスマホを三脚にセットする。


鏡を見ながら、髪をゆるく巻いて、リップを少し濃いめに塗る。




「今日のスカートかわいい」


「脚、まじでキレイだね。もっとみせたほうが絶対いい」


「仕事の疲れ吹っ飛ぶわぁ」




そんな声が画面の向こうから流れてくるのを、彼女はどこか期待していた。





ある日の


スポットライトの下、足元が小さく震えていた。


けれどそれは、恐怖ではなく高揚だった。ステージの上、観客の気配がざわつき、音楽が鳴り始める。優香は胸の奥が熱くなるのを感じながら、身体を動かし始めた。



──見られている。



その感覚が、何より心地よかった。


リズムに合わせてステップを踏むたびに、空気がざわつく。動きが決まり、回転の最後に笑顔を見せると、客席のどこかから「かわいい!」という声が上がった。



その夜、母は「すごく上手だったね」と褒めてくれた。


あのステージに立つまでに流した涙の数は数えきれないほどだった。




家に帰ると、父が約束のスマートフォンを私にくれた。


「練習のときに使っていいからね。あと、写真もたくさん撮って残しておきなさい。あとはパパにも写真を送ってほしいな…」



これまでは母が管理していたSNSのプロフィールには、ダンス教室の名前と「未来のスター候補!」という一文が書かれていた



最初は母が投稿していた。舞台衣装に身を包んだ自分の写真や、踊っている姿の動画。それに、スタンプやキラキラしたフィルターがかかっていた。


彼女は日に日に「いいね」が一つ、また一つと増えていくたび、優香は不思議な感覚に包まれていた。


誰かが自分を「いい」と言ってくれている。


それは、舞台の拍手とはまた違う、もっと直接的で、もっとやみつきになるような何かだった。



午後の体育館は、すこし埃っぽい匂いがする。

床に反射する光がきれいで、優香はその上に立ちながら、スマホをスタンドに固定した。



リハの時間。


踊るたびにスカートの裾がひらりと揺れるのを、画面越しに確かめる。

「よし、撮るか……」



無観客。無音。


けれど、このレンズの向こうには“いつもの人たち”がいる。


高校生になってから、投稿のリーチが一気に伸びた。ちょっと露出がある衣装を選んだ日なんかは、いいねが万単位でついた。DMも、投げ銭も、応援メッセージも、夜中まで止まらない。




最初は、ただ「楽しい」で済んでいた。でも今は違う。


数字を伸ばすことは、もう義務になりつつある。




「今日の投稿、そろそろバズらせたいな……」




独り言みたいに呟きながら、優香はまたポーズを取った。




帰り道、スマホを見ていたら、舞からLINEが届いていた。




「また踊ってた?


 今日、カフェ寄ってかない?」


「ごめん、今日は無理かも」




優香のそっけなく返した返事に既読はすぐについたけど、それ以上の返事はこなかった。




舞は優香と違って、SNSに夢中じゃない。


投稿もたまにで、いつも猫とか風景ばっかり。




でも、優香はもう、カメラの向こう側に自分がいることが、日常になっていた。


「見られる自分」が、ほんとうの自分みたいに感じるくらいには。




ママは何も言わない。ただ、いつの間にか、投稿をチェックしなくなった。


中学までは一応アカウント管理してたけど、「高校生なんだから自分で責任もってね」と言って手放した。




責任、って言われても。


何をどこまで出していいのか。何を出さないと埋もれていくのか。


その境目がもう、自分でもよくわからなかった。

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