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天が使いし悪魔

神様は居る。そして、そいつはきっと性悪だ。

 「芽胞」。それは一部の細菌が有する、極めて耐久性の高い“殻”を形成する能力である。熱湯や消毒液、果ては免疫機構すら通じない、恐ろしいスキルだ。

 しかし、その強固な殻を形成する関係上、細胞分裂や代謝を行う事が出来ず、完全な耐久状態と言える。環境が安定すれば再び芽吹く様子から、「芽胞」の名で呼ばれている。

 目の前のナニカは、その芽胞に似た状態である。周囲の肉も巻き込んで溶け込む事で、あらゆるレーダーを回避しているのだ。仮に肉眼で確認したとしても、何処ぞの闇医者でもない限り、見分けるのは不可能だろう。それ程までに確度の高い擬態能力も有しているのだ。

 だが、無駄に頭の良いたくあんの目は誤魔化せない。転生特典で視力も上がってるしね。


『【σημείο(シミオ)】【πήξη(ピクシ)】【κρύσταλλος(クリスタロス)】!』


 たくあんは血流に逆らいつつ、対象を結晶化して捕獲する。このまま外まで連れ出せれば良いのだが……。


『コォヴァアイィッ!』

『ぬぬぅ~ん!』

「殻を破りやがった! たくあん、一旦放せ!」


 しかし、鹵獲されると察したのか、閉じ籠もっていたナニカが殻を破って、内部から結晶を破壊し始めた。大きさの割にかなりのパワーがある。


『コォォォ……!』


 その上、たくあんが一時離脱した隙に、血流に乗って逃げ出した。一体何処へ行くつもりなのか。


『まてまて~っ!』

「クソッタレが!」


 だが、今見失うのはアウトなので、たくたんとポダルは後を追い掛けた。


「このまま進むと――――――」

『たぶん、しょうちょうだね』


 小腸は肝臓と深い関りがある臓器である。ダイレクトに影響を受け易い場所であり、肝臓を拠点に置いていた事も考えると、ある意味で敵の土俵とも言えるだろう。何を仕掛けて来るのやら……。


『クォアアアアアッ!』


 小腸に到達した時点で、ナニカは全ての拘束を解いていた。たくあんたちも少し遅れて辿り着く。


「化け物だな、こりゃあ……」

『かんぶりあもんすたーってかんじ』


 完全に正体を表したナニカは、まさしく怪物だった。

 甲殻類とカレイを混ぜ合わせたような姿をしており、五つの複眼と恐蟹(きょうかい)類を思わせる側鰭が特徴だ。ラディオドンタ類が生き残っていたら、きっとこんな化け物になっていたに違いない。そう思わせる程の異形っぷりである。



◆『分類及び種族名称:恐天使=イロウル』

◆『弱点:不明』



『コォヴァアアヴィッ!』

「速っ!?」『う~わ~!』


 しかも、拘束が解放されたナニカ――――――イロウルは泳ぐのが恐ろしく速かった。物凄い勢いで迫り来る天使を前に、たくあんとポダルは散り散りとなる。


『カァアアアアッ!』

「何っ……ぐぉっ!?」


 そして、Uターンしてきたイロウルが、ポダルを強襲。頭部に生えた腕のような節足で拘束し、力任せに遡行し始める。

 ただし、行先は肝臓ではない。この方向は、


「こいつ、胃袋に押し込む気か!?」


 クリスの胃袋だ。


(でも、今は昏睡状態だから、胃酸は出てない筈……!)


 だが、予想に反して、クリスの胃袋は何故か高濃度の胃液で一杯だった。イロウルが何か仕掛けたのだろうか?


「ぐぅぅぅっ!」


 と、たくあんから離れた事で、魔法の加護が失われ始めたポダルの肌を、強力な塩酸が溶かし出す。対するイロウルは全くの無傷であり、堪えている様子は無かった。体内に潜む事を生業としているが故の耐久性と言えよう。


『キシャアアアアアアッ!』

「なっ……!?」


 さらに、イロウルの口が一部変形し、象の鼻の如く伸びて、ポダルの首筋に噛み付いた。今までは折り畳んでいたのだ。恐蟹類は恐蟹類でも、ラディオドンタ類ではなくオパビニアの方だった。


「あが……!」


 その上、牙から毒が流れ込み、ポダルの細胞をどんどん壊死させていく。これが病魔の正体か。


『だめぇええええっ!』

『コォヴァアアアイ!?』


 しかし、いよいよ以て死ぬがよいされる寸前に、たくあんが追い付き、イロウルの身体に巻き付いた。甲殻の強度は相当な物であり、精々身動きを封じる事しか出来ないが……今はそれで充分である。


「――――――死ね、この野郎ォオオオッ!」

『ゴギァアアアァァヴォ……ォォ……ゥ……』


 加護と自由を取り戻したポダルが、暴れるイロウルの口吻に魔法の杖を力尽くで挿入、最大出力で起動して、頭に巨大な風穴を開ける。流石に芽胞殻を形成する前に内部から破壊されてはイロウルも耐えられず、胃酸に溶かされて消滅した。


『【θεραπεία(セラピア)】!』


 そして、たくあんが急いで回復魔法を掛け、ポダルの傷を癒した。嚙み傷が少し残ってしまったが、こればかりは仕方ない。


「助かったよ、たくあん……」

『ぬぅ~ん……ごめんね、ぼくにつきあわせたせいで、こんなけがを……』

「気にする事無いよ。それより、早く戻ろう」

『……うんっ!』


 こうして、たくあんとポダルは、天に使わされし恐怖の悪魔を見事に殲滅し、失われ掛けたクリスの命をも救ったのだった。

◆イロウル


 「神の畏怖」を意味する名を冠する、恐怖を司る天使。敵対者に世にも悍ましい恐怖を見せ排除する力を持つ。それ以外は殆どが詳細不明で、姿形すらハッキリしていない。

 正体は極小の恐蟹類。巨大に進化した故に絶滅し掛けた事により、ミジンコよりも小さくなって、寄生する道を選んだ。体内に入り込み、毒(実際には生殖細胞)を打ち込んで、内側から取り殺す生態を持つ。ストレスをコントロールする事によって、ある程度臓器の働きを操る事も出来る。

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