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狂い出す歯車

健康に生きた~い

 クリスはカリカンジャロスと人間(♂)の子供として生まれた。

 ショタコンのカリカンジャロス(♀)が、前々から目を付けていた料理人見習の少年を誑かし、その結果誕生したのが、クリスなのである。これがカリカンジャロスの繁殖方法なので何らおかしくはない。

 しかし、クリスはカリカンジャロスの子供としては珍しく人間の特徴が色濃く表れており、小柄で華奢な身体ばかりのカリカンジャロスとしては珍しく高身長で力も強く、攻撃性も低くなっている。

 だが、短所も同様に引き継いでいて、人間よりかは長生きだがそれでも妖精としては短命で、何よりロジックが全く異なっていた。それ故に同族処か母親からさえ愛されず、父親に付いて行く形で故郷を飛び出したのだ。それからは父の手解きを受けながら料理の道を邁進し、メキメキと腕を上げ続けた。慎ましくも幸せな毎日だった。

 しかし、二人は人間と半妖精。寿命の違いにより、死に別れる事になってしまったのである。それが十年も前の話。今も昨日の事のように覚えている。

 そして、死の影はクリス自身にも迫っていた。ある日から突然に訪れる苦しみ。常に身体中が蝕まれ、壊れて行くのが分かる、謎の病。医者に診せても、治療魔導士に頼んでも、原因が全くの不明であり、手の施しようがなかった。その間も身体は死に続けている。今では一日働くだけで血を吐くようになってしまった。

 もう直ぐ父親の下へ逝ける。そう思わなければ、やってられない。短い時間だけ露店を営業しながら、毎日毎日死を思う。

 そんな夢も希望も無い日々を過ごしていたある日、久し振りにダトゥムで店を開いていた時、クリスは出会った。たくあんという不思議なお魚に。

 彼女(?)は肺魚という空気呼吸が出来る種族で、何処とも知れぬ世界から転生して来た影響なのか、喋ったり魔法を使ったり出来るようになったらしい。そんな馬鹿な~。

 さらに、ふと零してしまった弱音を聞くや否や、「助けたい」と言って譲らなくなった。料理を褒めてくれる人は沢山居たし、料理人冥利に尽きるという物だが、純粋にクリスの身を案じてくれる者は居なかった。例え言葉だけだとしても、クリスは心の底から嬉しかったのだ。


『クリスちゃ~ん、びょうきなおしにきたよぉ~♪』


 だが、まさか有言実行しに来るとは、露程にも思っていなかった。

 そして、今日この時、クリスの運命は大きく動き出す……。


 ◆◆◆◆◆◆


『ぬんぬん♪』

「………………」


 自信満々なたくあんの態度に、訝しむポダル。何がどうしたと尋ねてみても『いいからいくよ!』の一点張りだし、唯一話を聞いていたと思しきラゴスも黙ったまま。これで不安になるなという方が無理である。それは言われた張本人のクリスも同様だろう。

 しかし、ここまで来たからには、いい加減に種明かしをして貰おうか。


『ぼくたちはいまからなのさいずまでちぢんで、みくろのせかいにいくんだよ~♪』


 お前は何を言っているんだ。


「……どういう事?」

『要するに、たくあんの魔法で極小サイズになって、クリスの体内に潜り込み、病原体を直接叩きに行くんですよ』


 すると、今まで沈黙を保っていたラゴスが、これまたとんでもない事を告げてきた。何処の救命○士(ナノセ○バー)だそれは。


『小さくなって体内に潜入するなんて、正気なの!?』


 と、おそらく一番頭がフリーズしている筈のクリスが、鬼気迫る顔で叫んだ。出来る出来ないを心配しているのではなく、体内に侵入するという行為自体が信じられないという感じだった。

 だが、その心配は最もと言える。剣と魔法の世界で小さくなる事は珍しくなかろうが、それでも身体に潜り込むのは非常に危険な行為だからである。


『そんな事したら、免疫系に殺されちゃうわよ!』


 そう、生物には免疫という物がある。外部から侵入してくる病原体を排除したり、毒物を中和したりする事で、身体の健康を保つ為の防衛機能だ。その範囲は外敵だけでなく、発生初期の癌細胞にも及び、自他共に敵認定した物には容赦が無い。

 むろん、完全に異物のたくあんは、どう考えなくても抹殺対象である。


「大体、体内で暴れたら、クリスが死んじゃうでしょ」


 さらに、仮に反撃出来たとしても、それはそれで問題になる。唯でさえ弱っているクリスの体内で大暴れしては、それこそ最後の止めになってしまう。

 攻め過ぎてもいけないし、かと言って反撃しない訳にもいかない。だからこそ、体内への侵入はリスクが大きい、危険行為なのだ。


『だいじょうぶだよ~、ちゃんとかんがえてるから~』


 しかし、ここまで言われても、たくあんは楽観的だった。その自信は何処から来るのやら。


『ちいさくなるのは、ぼくとポダルちゃんのふたり! じょうじまほうをはつどうしなくちゃいけないから、ポダルちゃんからまりょくをわけてもらいながらすすむよ~♪』

「免疫系はどうするんだよ?」

『そこはボクが外部から麻酔と免疫低下させる魔法を掛けます。その間に病原体を排除して下さい』

「えっ、あんた魔法使えるの!?」

『昨日、必要な分だけ徹夜でたくあんから習いました』

「どうりで目の下に隈があると思った……」


 と思いきや、しっかりと対策が練られていた。こいつはビックリだぜ!

 しかも、魔法使いというアイデンティティーをラゴスにまで奪われてしまうとは、名折れにも程があるぞ、自称:魔法使いポダルよ……。


『何でそこまで……』


 やる気満々のたくあんに、クリスが慄く。今回は本当に信じられないという感じである。


『こまったひとがいたら、たすけなきゃだめでしょ~?』

『………………』


 だが、たくあんの純粋過ぎる優しさに、思わず脱力してしまった。


『参った、参ったよ……』


 これはもう、なる様になるしかないだろう。


『――――――じゃあ、お願いするわ。助けて』

『わかったぬ~ん♪』

『あははははは……』


 こうして、たくあんたちのミクロな冒険が始まった。

◆免疫と癌細胞


 癌細胞は日夜生まれているが、免疫系に排除される事により増殖が抑えられている。逆に言えば何らかの原因で免疫が弱まった場合、外敵だけでなく自分自身に殺される可能性がある。皆も健康には気を付けよう。

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