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虚無と抱き合うということ  作者: 骨もけら
全て私のせい
13/24

厳しい世界へ

 ヘグさんのメンヘラ化は意外にもすぐ落ち着いた。


「……っ、はあぁ……いや、すまないすまない。取り乱してしまったね。爺呼びをしてくれるのは嬉しいが無理はしなくていいからね。強制して呼んでもらっても嬉しくはない。こういうものは本心から言われた方が良いものだろう?」


 あ、良かった。これからずっと名前呼ぶ度にストレスが溜まるところだった。赤の他人を馴れ馴れしく爺呼ばわりしていくのは割とつらい。つらすぎる。


「話しの続きだ。おれが君を助けた理由は君が亡き妻に似ているという理由の他に、妻と共に生きると決めた時に彼女に言った言葉が世界に聞かれてしまったというのもある。『お前を愛している』という言葉が。そのせいで妻の身体を元に生まれた君を愛さない訳にはいかなくなった」


「そういうことですか。って、世界に聞かれる?」


「ここに来るときにおれは盗聴の心配がどうとか言っただろう?理由は定かではないが、どうやら因果に干渉するためには言葉が世界に届かなくてはならないようでね。先ほど例に挙げた国を守る兵士のような、限界まで切羽詰まった状況や将来的に大きな影響がある場面でないと届かないんだ」


「じゃあなんでこんな地下に潜るんです?何か意味が?」


「地下に潜れば潜るほど世界に声は届きにくくなり、逆に地表に近ければ近い程世界に言葉が届きやすくなるからだ。実は魔術というものの起源は『災禍』達の所業を古代の人々が真似るために生み出されたものなんだが、あれは只人でも扱えるように影響が極めて少なく済むように調整されただけで、根本的な原理は因果への干渉のままだ。燃える物が何もない空間に火を起こせるのは自身の魔力を代償とし、詠唱によって世界の因果に働きかけて引き起こすものだ。地下では1フェット潜るだけで魔術の威力が半減する。10フェット潜ればほとんど使えなくなる。魔術使いと敵対したら地下に誘導してやるといい」


「へー……じゃあ、ヘグさんは今魔術使えないんですね」


 私はからかうように嗤う。


「おれは魔術だけに頼った戦い方などしないさ」


 ヘグさんは不敵に笑った。



「それで、この部屋にきた目的って地上で出来ない話をするためですか?」


「それもあるが、もう一つある。君から溢れ出ている瘴気を制御しようと思ってね。その道具を取りに来たんだ。これだよ」


 ヘグさんは薄い布の上に2つの小さな物を置いた。


「コンタクトレンズじゃん」


「こん…?君のいた世界に似たものがあるのかい?」


「まあ、はい。それで、これはどういうものですか?」


「これは非常に強力な結界を構築する魔術を組み込んだものだ。しかしそれだけでは君の内側から無尽蔵に溢れる瘴気にいずれ耐えきれずに破裂するだろう。そうなっては君の身も危険だ。そこでこれに瘴気を圧縮して固形化させて排出出来るように魔術式を組み込んだ」


「すごいですね」


「そしてこれから最終調整だ。君がどういった『災禍』であるのかを確認し、その属性に合わせて性能を整える。少しこっちに来てくれ」


 ヘグさんが高そうな刺繍があしらわれた絨毯の上に手招く。私がその上に乗るとヘグさんは〈世界書〉を開き、しばらく本を見つめたあと、パタンと閉じた。


「君の属性は虚無だ。道理で精神的にもろくなる訳だな。〈世界書〉がなければ、おれは先程の精神状態のまま立ち直れなかっただろう。種の段階でこれとはな。末恐ろしい。花の段階まで成長したらどうなるやら……」


「あの、いいんですか?」


「何をだ?」


「いやだって、…まだ自覚はないですけど、ヘグさんの話が本当なら私という存在は危険極まりない筈です。ガワが似ているってだけで私は写真で見た奥さんとは別人ですよ?世界がどうこうって個人の意思まで縛るとかじゃないなら思う所はないんですか?そもそもなんで奥さんの身体で私が?」


「後者に関してはおれにも不明だ。〈世界書〉にはアーグソン山脈に行けば妻に会えるとだけ書かれていたのだ。思う所はない訳じゃない。君は『災禍』で、姿形は妻と瓜二つ。なんのつもりなのだと思ったよ。しかし、こうとも考えた。これは贖罪の機会であるとね」


「贖罪ですか…」


「過去、おれは『災禍』だったと言ったね。その名に恥じぬ行いをしたこともあった。ある日、力を制御しきれなくなったおれは大きな街や村を含めた一帯全てを高空に転移させ、地表に叩きつけた。それを何度も何度も同じ場所で繰り返した。おれが力尽きて倒れるまで続いたようだ。それらがどうなったかは言うまでもない。復興の手伝いなんて出来よう筈もなかった。過去は変えられない。その理はこの世界も同じことだ。だが、君はまだどうにかなる筈なんだ。きっと、ね。……と、まあそういう訳で、『災禍』が暴走するととんでもないことになる。暴走を止める手段は二つ。存在の消滅か力の継続的な解放だ」


「存在の消滅って……つまり?」


「この世界からの消失。死だ」


「死ぬのは嫌ですから、後者一択じゃないですか」


「世間は前者一択だ。解放される力が有害だった場合、手に負えなくなるからな。加えて、『災禍』は倒されると体内に残っていた力も解き放つ。よって、世間での『災禍』に対する対応は早期発見・即時討伐だ」


 対応が完全に悪性腫瘍のそれなんですが……


「私はまだ見つかってないですよね?見つかっててもここならそう簡単には辿り着けないでしょうけど……」


「残念だが、楽観視は出来ない。この〈世界書〉は全部で五冊ある。そのうちの一つはフィルドバルド帝国の皇帝が持っているんだ。あそこは『災禍』を倒した功績で繁栄してきた国だから、〈世界書〉の記述には敏感だろう。既に気づいていてもおかしくない」


「く、国から狙われるってことですか?!やばいじゃないですか!」


「だから、今こうして君の助けになっているんじゃないか。おれは二度も失うのはごめんだ。ほら、出来たぞ」


 先程と変わって白系のカラコンになっているレンズを受け取る。私の瘴気で突然ヘグさんがメンヘラ化してたら大変だしね。〈世界書〉にある鏡を使って付ける。その後、〈本質写しの鏡〉を見てみると、


「うわ、白目と黒目が逆転してるようにしか見えないんだけど」


 コアな人気が出そうではある。いやないわ。だって顔の下半分ズタズタだもん。



 なんで顔の下半分ズタズタなんです??、と不満顔(推定)でヘグさんに問うと、


「おれも当時は右腕だけ異様に不定形だった。傷を負ってもすぐ回復するし感覚も無かったからもっぱら肉盾にばかり使っていたな。解決案はない。いずれ慣れるだろう。『災禍』でなくなった今でもほら。多少動きは小さくなったな」


「うわ。ぐりょんぐりょんしてる」


 血管がミミズみたいに蠢いていて気持ち悪いという感想しかでない。


「長年やってきてこれだけはどうやっても駄目だ。そういうものであると受け入れるしかないな」


 チクショー。因みに薄紫色の髪は気に入ったので何も言わなかった。髪の先からも瘴気が出ているらしいが目から出る量に比べれば微々たる量らしく、カラコンを付けると髪が空中に溶け出さなくなった。やったー。


 次の日から勉強と鍛錬の日々が始まった。

 この世界の地理や世界情勢、流通している通貨の価値などを頭に叩き込み続けた。

 また、固形化した瘴気をなんとか攻撃に使えないか探ってみたりもした。目から排出されるのは粘土質の黒い塊だ。それが一時間に二個のペースでカラコンから出てくる。だがいかんせん柔らかくて使い物にならない。粘土質なら陶器を作る時みたく焼いてみたらどうかと思って試したが、すぐ固形化が解けて霧散してしまった。

 現状での使い方は投げつけることで、私の瘴気本来の精神攻撃作用に期待するしかなくなった。かっこよく武器作り出したりしたかった。


 頭が疲れたら次は身体を疲れさせる。ヘグさんとのタイマン稽古だ。家の隣に武道場的な施設ができていた。ヘグさんが持ってきたらしい。

 いや、ヘグさんまだまだ現役で『災禍』やってるでしょこれ。

 基礎的な身体能力の向上や様々な戦闘技術を叩き込まれる日々だ。『災禍』としての身体能力もあるのか、色々な武器を使えてしまったのでその分稽古は伸びた。ヘグさんがあまり色々なものに手を出すのは非効率だと気付くまで続いた。止めずに夢中になっていた私も悪いけど。


 そうやってひと月半ぐらい過ぎた。雪はもうあまり降らず少しずつ暖かくなってきているように感じ………ない。

 だってここは8000フェット。標高換算で7600mぐらいの場所にある。普通に一年通じて寒い。ヘグさんの転移魔術が無ければ三日も持たない。高地トレーニング極まれりだ。ほとんど変わり映えのない景色だが、確実に春は近づいている。その証拠に猛吹雪がめっきり減ってきている。


 旅立ちの時は近い。


次は帝国視点です

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