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虚無と抱き合うということ  作者: 骨もけら
全て私のせい
12/24

何故?

ゆうてそこまで人外じゃなくないか?、だと?

大丈夫ですよーどんどん崩していきますからねー

「は?え?目どうなってんの?見えてるよ、ね?見えてる、見えてる。口、ある。鼻も、あるよ?え?何?この、傷。は??あの、ヘグさん?この鏡壊れてますよ。だって、こんな、こんな顔人間じゃないじゃないですか。壊れてます。壊れてますよー、この鏡ー。あははは…………」


 私のせせら笑いに応じて鏡に映っている私も同じ様に、と言っても顔のパーツが違いすぎてはっきりしないが、嗤う。


 ヘグさんが近づいてきて、


「その鏡は〈本質写しの鏡〉といってね。この世界に存在する全てのものの本質、つまりは真の姿を映し出すんだ」


「……これ、本当に私なんですか?」


「ああ。受け入れられないか?」


「どう、でしょうね……自分でもよく分からないです」


 あの転生手続はなんだったのやら。人間とは言えないでしょ私。少なくとも私は目から黒い液体をドバドバ垂れ流してけろっとしていて髪が空中に溶け出している存在を人間とは呼ばないぞ。


「あ、もしかして家の中に鏡が無い理由って…」


 ヘグさんはどこかバツが悪そうに言う。


「まあ、あれだ。いきなりこんな顔になったのを人を殺した直後に見せるのは悪影響があるかなと思ってね。別に隠そうという意図はなかったんだ。現にこうして見せているだろう」


「でも、ヘグさんにもこういう風に見えてる訳ですよね……こんなホラーチックな顔見ながら食事とか苦痛じゃありませんでした?」


「ほらあちっく、というのは分からないが、苦痛では無いよ。おれにはこの本がある」


 そう言ってヘグさんは赤茶色のB5サイズの本を取り出した。古ぼけた本だ。


「これは〈世界書〉というものだ。分かりやすく言えば予言書みたいなものだな。これには強い世界の守りの力が働いていて、所持者を守ってくれる。これのおかげで私はこうして君の素顔を見ながら話し、一つ屋根の下で暮らせる」


「これの、お陰……」


 私は本に触れようと手を伸ばす。すると、


 バチッ!


「いてっ!」


 冬場に静電気を食らった時のような痛みが走った。触れようとした人差し指の指先がひび割れている。


「うわ。…でも痛くない?」


 みるみるうちにひびが治っていく。人間じゃあり得ないわ、こんな再生速度。


「この本を持てるのはこの本に認められたものだけなのだよ。無理矢理触れようとしたりするとそうやって反撃される。ただ、こいつは少し凶暴でね。以前不埒者が触ろうとしたときは今のひびが全身を巡ってね。一瞬で木っ端微塵にしてしまった。君がそれで済んでいるということは、割と気に入られているということだろうね」


 気に入られてるんだ。凶暴な本に。


「ふふふっ」


なんか面白いかも。



「結局のところ『さいか』ってなんなんですか?」


「……あまりその言葉は言わない方がいい」


「……?」


「この世界には口にすると因果が巡る言葉がいくつかある。君のような存在はその最たる例だ。おれもしっかり説明は出来ないのだが、例え話をしよう。ある男がいる。その男には愛する家族がいる。しかし、男は兵士で敵国の軍勢が眼前まで攻めて来ている。そのとき、男はこう言った。『家族は俺が守る!!!』とね。だが男の抵抗虚しく食い破られ、家族は殺され国は滅びた。どうやら彼が放った言葉が世界に届いてしまったらしい。世界、というものはこの本のように良い事を齎す時もあれば、悪い事を齎す時もあるということだ」


 要するにフラグを立ててしまったというところかな?で、この世界はフラグにかなり敏感にできていると。


「今話した例はまだ優しい方だ。この場合では男の家族と国がほぼ滅びるという可能性から、確実に滅びるという可能性に起き変わった。だが、君のような存在の名を呼ぶと、これの比ではない」


「どう変わるんですか?」


「戦いの行く末が変わるだけに留まらず、生死が入れ替わる。この本のように世界から守られていれば良いが、そうでない者が口にすると天寿を全うできる可能性は確実に潰えるだろう。もはや世界のことわりに干渉するほどだ。そして、最も重要なことは君のような存在は因果に振り回されることがないということだ」


「えーっと??」


 ちょっと頭がこんがらがってきた。話長くなりそうだし、ここからは情報を無心で頭に叩き込むモードだ。


「つまり、君は因果の危険を無視して様々なことができる。感覚を掴めば、いとも簡単に地形を変え、法則を捻じ曲げ、世界を変容させられるようになるだろう。人を殺すことなど容易い。『災禍』が恐れられている理由の一つ目がこれだな。この世界において『災禍』とは町を、都市を、国を、文化を崩壊させ得る存在として認識されている訳だ」


「なる、ほど……」


 『さいか』は額面通りに『災禍』って感じでいいのか。


「話を戻そう。『災禍』とはこの星の因果への干渉を極めて容易に行えるもの達の総称だ。転移魔術には転移先の様子も観測できるものがある。おれは見たよ?君が男を殺そうとして、男の剣がなんら抵抗の一助にならなかったことをね」


「あ、それ聞きたいと思ってたことです。何故あんなことが?」


 するとヘグさんは少し驚いた顔をした。


「君がそうした訳ではないのか?となると、無意識下での操作、か。いや、しかし。うむ、そうなるのなら納得出来るか?」


「あの?」


「ああ、すまない。話が長いだの自分の中で会議をするなだの、よく言われていたものでね。君は死の危険に瀕したあの時、無意識下で因果に干渉したのだろう。その結果、剣が粉々になったと考えられるね」


「な、なるほど」


 私にそんな力が…?つまり昼の時にヘグさんが魔力が無くても心配は要らない、と言ったのはそういう理由なのか。

 ヘグさんがぽつりと言う。


「君がその後倒れたのも恐らくそのせいだろう」


「……?まあ、確かにこの体にしてはかなり無理をした覚えはありますけど…」


「それも当然あるだろうが、君が『災禍』として未だ成長途中だからだと思うね。『災禍』には成長段階がある。種、芽、そして花だ。君はまだ種の段階にある。扱える力はそう多くない」


「種なんですね、私」


 ていうか、さっきから聞いてて思ってたけど、


「……随分と『災禍』について詳しいんですね。ならどうして私を助けたんですか?」


(なんか知られてはいけないみたいな雰囲気出しておいてめちゃくちゃ喋るんだもん、若干怪しくなってくるよね。それに聞いた内容が真実なら私って結構危険なんじゃないの?なんだよ因果干渉能力って……私みたいな意思薄弱人間じゃ大したことできないとは思うけど。女であるという点を加えてもメリットなんてあるのかな?ヘグさん見た目はもう八十歳以上だから枯れてるんじゃないの?でも人間とは違うらしいし、その辺の感覚も私が考えてる感じじゃないかもなぁ。……めんどくさ)


 私が疑念をたっぷり込めてヘグさんを見ると自嘲するように笑って、


「まあ、おれは元々『災禍』だったからね」


 衝撃的なカミングアウト!!……とまではいかなかったが、そうだったんだ。


「元々ってことは今は違うってことですよね?戻る方法でもあるんですか?」


「ある人を救う為に自分の『災禍』としての力を全て還元したんだ。この人だ」


 そう言ってヘグさんは胸からペンダントを取り出して開き、中の写真を私に見せた。薄紫色の髪をした女性が今よりだいぶ若いヘグさんと幸せそうに笑い合っている。


(笑顔が眩しい……やめて?こんなリア充感溢れる写真見せないで?)


 するとヘグさんは〈世界書〉の裏表紙をめくった。そこにはまた鏡があった。


(……あれ??)


「めっちゃ似てる……?」


 鏡に写っている私の顔とペンダントの写真の顔が瓜二つだ。


「これが君を助ける理由だ。君の身体は妻の身体を再現されて作られたものだ。君の笑顔は妻と同じで可愛らしく、君の指は妻と同じく細くて繊細だ。おれは君の一挙手一投足に妻の面影を見てしまう。しかし中身は違う。同じ存在であるはずがない。であれば、君はおれにとってなんなのか。……『孫だ』。そう思ってしまってからはそういう風に思えて仕方がなかった。君からすれば、ジジイの妄執以外の何者でもないと思うが、こればかりは……」


 ヘグさんは留めていたものが溢れ出したかのように喋った。理解は出来なくもない。永遠に会えなくなった人が急に目の前に現れたら嬉しくなるってのはね。


「そうだったんですか。じゃあ……明日から、ヘグ爺って呼んでいいですか?」


 ヘグさんは私の言葉を聞くや否や俯いていた顔を勢いよく上げて、


「ああ!是非!是非そう呼んでくれないか!」


「承りましたっ」


 私はそうやってルンルンと嬉しそうにしながらヘグさんから距離を取り、部屋の物色に戻った。


(…………はあ。気持ち悪い。また他人に気を使うことになるなんて、ね)


えーがおーのうーらにーはー……


社会性1

協調性4

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