87:国家機密並みに情報規制
「国家機密並みに情報規制されてるぅ!? ねねっどゆことシトゥ?」
あーそれはこの世界に来たばっかりなのと『愚物』の件でのギルドのご厚意だな。
『帝輝龍』ってのは、なんすかね……?
「情報を追ったバレーガでも『ゴロックトラップ』に『ガチャ』、『かき氷』に『あら汁』、色々監修しているはずなのに、その詳細にはほとんど誰もが口を噤んだわ。饒舌だったのは『エアークーラー』の販売営業だけ」
かき氷にあら汁?!
それはもう本当に監修してないからです。
なんかすいません。
「しかも目撃情報を追っても、近づく前に猛吹雪のような寒さと炸裂魔法に邪魔されたのよ? そのお陰で丸2日治療に費やした」
「治療? あーあの後、風邪引いちゃったもんねー」
『猛吹雪のような寒さ』は多分『ボルテックスチューブ』特訓の巻き添えです。
『炸裂魔法』は凍裂って自然現象です。
なんか本当にすいません。
「でも、やりすぎたわね。あなたは遂に尻尾を出した。謎に包まれていた『水晶獣ドランゴルムの討伐』。これはあなたの仕業ね?」
「ッ!」
「うふふっ気が付かないと思ったのかしらぁ? 討伐情報が何も出なかったことが逆にあなたと結び付けたのよ!」
「どういう事なの! シトゥ!」
「いいかしら? 最初は『英雄の胎動』なんて『ご大層な名前が付けられた』と思っていたわ。でもねペイリ、もしその大層な名前の通り、あの戦いが『前哨戦』だったとしたら?」
「前哨戦?」
「思い出してみて、『故郷に帰る手土産に帝輝龍を狩る』という噂を」
「ん、どゆことー?」
「火のないところに煙は立たないわ。そう考えれば見えてくるの。繋がってくるの。あなたが次に何処に向かうのかが! ふふふっあなたは王都に向かおうとした。違うかしらぁ?」
「え、えぇまぁそうですが……」
「うふふっ今更誤魔化そうとしても無意味よ。なぜ分かったか教えてあげましょうか。『帝輝龍』が出現するのは、『シュナイフェル火山』。そう。討伐に行くためには王都経由で向かうしかないのよ」
「すごいっ! シトゥ! ずっと停留所に張り込んでいたのは、そのためなのね! あっでも……それはまだ推測の域をでないのではないかしら? 証拠がないわ。気ままに観光しているだけかも知れないじゃない」
「えぇその通りよぉ。確たる証拠はない。でも、一つ一つの行動が浮かび上がらせるの。ある真実をねぇ!」
なにこれ……いつの間にか寸劇名探偵が始まってたんだけど……
助手ペイリの方がいい線いってるし。
「まず『帝輝龍』は『水晶獣』と同じ高硬度で高耐久の相手。武器には『硬くて、マナを通しやすい素材』が選ばれるわ。それに『シュナイフェル火山』は強い磁気を帯びている。そこかしこが強力な磁石のようなものね。だからほとんどの金属は持ち込めない。あらぁ? まさに最適な『黒晶』って新素材があったわよねぇ?」
「そういえばあれの開発はっ『迷宮技師』!」
「それに不審な行動が見えてこないかしら? 王都に向かうなら、なぜ彼はすぐにロンメルへ向かわずにバレーガに寄り道をしたのでしょうね?」
「確かに遠回りだわ!」
「それは寄り道ではなく、必要な過程だったとしたら? うふふっもう分かるわね? 『シュナイフェル火山』は高温迷宮よ。常時冷却が必要になるわ。『エアークーラー』のような物がね!」
「あぁぁ! まさか……全ては繋がっていたというの!」
「そう。全ての行動は『帝輝龍』を狩るための布石。いえ、核心をついてあげましょう。全てはあなたを『英雄』として祭り上げるための陰謀だったのよぉ!」
「「な、なんだってー!」」
◇
「ギルド繁栄の裏で数多の汚れ仕事を請け負ってきた影。これがあなたの正体よ!」
迫真だぁ……
『ズビシッ』って擬音が似合いそうな恰好で指をさされてしまう。
「分かったかしら? あなたほどの手練れを捕らえるには、こうするしかなかったのよ」
「全然違いますって! 『帝輝龍』だってさっき初めて聞きましたよ!」
「ふふっそりゃあ自分の口からは言えないわよねぇ。でも『痛撃』にも顔色一つ変えないなんて一体どれほど過酷な鍛錬を積めば、そうなれるのかしら? 寒気がするわ。『隠密』『隠蔽』に『状態異常耐性』『高火力速攻魔法』。あなたの能力は要人暗殺するためにあるようなものよ。いいえ、むしろ暗殺してない方がおかしいわ」
「えぇ……そ、そんなに?」
「恐らくあなたの低すぎる【耐久】は、その能力の代償。『増魔禁術』。聞いたことがあるわよねぇ?」
「無いです……」
「ふふっ笑っちゃうわね。何が『良き魔素と共にあれ』よ。率先して禁忌をやってたのはあなた達ギルドじゃないの。ギルドが情報を隠蔽、秘匿したのはそのため。『故郷に帰る』は『裏稼業から表舞台に戻る』の比喩。共謀した数々の功績と『帝輝龍討伐』はまさに手土産。『英雄』としての舞台を作ろうとしたのよぉ」
『ギルドの広告塔に――』
『英雄プロパガンダの――』
『抑止力として――』
『経済戦争を――』
なぁんてこった! 全然着いていけねぇ!
迷探偵だよっ! 明後日の方向に推理が飛んでったよ!
何を言っても、『誤魔化すのが下手だなぁ』って顔をされちゃうもの。
陰謀がサイクロン掃除機みたいに渦巻いちゃってるもの。
「もう、何て言ったらいいか……とりあえず一旦落ち着きましょう?」
「落ち着きましょう? ……ダメ、全然似てない!」
「いや、そりゃ流石に真似するのは無理があるんじゃないですか?」
「ううん、違うっ どうにもならないの! 怖いっ! トモヤン怖いよ!」
「あらぁ。難しいんじゃなくて怖いのねぇ」
先ほどからペイリはテントの端っこでこちらを伺っていた。
耳はペタンと垂れ、尻尾はクルンと丸まっている。
そんなに露骨に怖がられてしまうと凹んでしまうじゃあないか……
「さっきのやりすぎましたかねぇ……」
「そんなことねぇ。んっいい感じだったぜぇ」
「良かったっ起きたん――えっ」
「んっ なんなら、もう一回頼むよ! なぁ? はぁはぁ いいだろ? なぁ?」
「ちょ、ほんと一旦落ち着いて!」
もう一回とかなにそれ怖っ! 怖いし近い!
破れたインナーから色々見えそうなんだって!
「あらぁ? 以外に『こっち』の方がいいのかしらぁ? ねぇもし協力してもらえるならイ・イ・コ・トしてあげるわよぉ///」
「詳しく聞き――ってあーぶねぇ! そ、そんな照れながら言われても! 慣れてないならやめましょうよ」
「う、うるさいのよっ! こ、こういうのがイイんでしょう! ほらぁ」
「んっ はぁはぁ もう一回ぃおしおきぃ」
「ちょっ圧が強いっ! なんかキッツイ! 腕の血圧測るんじゃないんだから!」
あっさてはこれ落ち着かないやつだ。
全然進まない感じのやつだこれ。
「ただいま。手荒なことはしてな――――」
「えっ」
なんだこの爽やかなイケメンは……はぁっ! 救世主かも知れない?
唯一話の通じる人かも知れない!
「――あっ間違えました」
開いた入口が、すぐに閉ざされた。
「……あっ待って待って! 間違えてないですよ!」
夕暮れの迫る森に一際大きい叫びが木霊した。




