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目を覚ますたび、世界の次元が一つ増えていた。7日目、僕は「現実」の正体を知った。  作者: 不可思議ラボ


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7/7

第7話 僕が「現実」を捨てた日

DAY 7

DIMENSION:7

FINAL OBSERVATION

目を開けても

景色はなかった。

白も黒もない。

光すら存在しない。

それなのに僕には

すべてが見えていた。

これまで通過した世界。

一本の線だけの世界。

平面になった世界。

美咲と暮らしていた世界。

僕が死ぬ未来。

選ばなかった無数の人生。

そして

百四万八千五百七十六の世界。

すべてが僕の中にあった。

スマートフォンが震えた。

画面には一行だけ

表示されていた。

FINAL QUESTION

「現実とは何ですか?」

答えられなかった。

その瞬間

暗闇の向こうから

足音が聞こえた。

一人の男が現れた。

僕と同じ顔だった。

六日目に見た男だ。

「やっと来たな」

男はそう言った。

「お前は誰なんだ」

男は答えなかった。

代わりに

自分のスマートフォンを

僕へ差し出した。

画面には

古い映像が流れていた。

病院の一室。

ベッドには美咲がいる。

その隣に

僕が座っていた。

いや。

あれは僕ではない。

僕より少し痩せていて

目の下には

深い隈があった。

美咲の手を握りながら

男は泣いていた。

医師の声が聞こえる。

「残念ですが

助ける方法はありません」

映像が切り替わった。

白い研究室だった。

無数のモニター。

中央には

一台の装置がある。

画面にはこうあった。

現実分岐観測装置

目的

「生存可能世界の探索」

男が装置に尋ねた。

「美咲が助かる世界は

存在するのか」

装置が答えた。

「不明」

「では探せ」

「必要観測数を

算出できません」

男は迷わなかった。

「全部作れ」

背筋が冷たくなった。

世界は

最初から存在していた

わけではなかった。

美咲を救える可能性を

探すために

作られたのだ。

男が言った。

「ここから先を

お前は忘れている」

映像が続いた。

世界が一つ生まれた。

二つになった。

四つ。

八つ。

十六。

増殖は止まらない。

だが問題が起きた。

世界を作るだけでは

結果を判断できなかった。

誰かがその中で生き

選択しなければならない。

そこで装置は

観測者を作った。

僕だった。

正確には

僕の記憶と人格を

複製した存在。

何度も。

何度も。

僕は息を止めた。

「じゃあ本物の僕は?」

男は僕を見た。

「もういない」

スマートフォンに

最後の記録が映った。

研究室の男。

最初の僕だった。

装置の前に座っている。

美咲はすでに

亡くなっていた。

探索された世界の中には

美咲が助かる世界もあった。

だがその世界では

別の誰かが死んだ。

別の世界では

美咲が僕を知らなかった。

さらに別の世界では

僕自身が存在しなかった。

完全な答えなど

一つもなかった。

それでも男は

探索を止められなかった。

「もう一度」

「もう一つ」

「次なら」

世界は増え続けた。

やがて装置が尋ねた。

「探索を終了しますか?」

男は長い間

画面を見つめていた。

そして答えた。

「できない」

その瞬間

僕は思い出した。

この声を。

この絶望を。

この願いを。

全部

僕の記憶だった。

男は最後に

自分自身の記憶を

装置へ保存していた。

ただし

一つだけ削除した。

美咲を失った記憶。

それを持ったままでは

どの複製も

同じ選択をするから。

世界を増やし続けるから。

だから記憶を捨てた。

何も知らない僕を作り

七段階の観測を

開始させた。

僕はようやく理解した。

「七つの次元は

世界じゃなかった」

男がうなずいた。

「ああ」

「観測者を

外へ出すための段階だ」

一次元で

世界の外側を知る。

二次元で

自分の内側を見る。

三次元で

別の人生を知る。

四次元で

時間の外へ出る。

五次元で

選ばなかった可能性を見る。

六次元で

世界そのものを観測する。

そして七次元。

すべての世界から

切り離された場所。

ここだけが

選択を終わらせられる。

僕は男を見た。

「最初の日

僕を転送したのは?」

「お前だ」

「現在の僕じゃない」

「そうだ」

男は胸を指した。

「最初の観測者だ」

最初に作られた複製。

それが何度も失敗し

最後に自分自身を

一日目へ送り込んだ。

終わらない観測を

終わらせるために。

僕のスマートフォンが

もう一度震えた。

三つの選択肢が現れた。

世界削除

世界統合

観測終了

その下に

新しい文章が出た。

「観測終了を選択すると

すべての世界は

独立して存続します」

僕は画面を見つめた。

「消えないのか」

「消えない」

男が答えた。

「もう観測されなくても

彼らは生き続ける」

美咲と暮らす僕。

一人で生きる僕。

明日死ぬ僕。

子どもを抱く僕。

僕を知らない美咲。

そして

僕が存在しない世界。

どれが本物なのか。

ずっと考えていた。

でも

問いそのものが

間違っていた。

誰かに作られた世界でも

そこで笑ったことは

偽物ではない。

泣いたことも。

愛したことも。

失ったことも。

その人にとっては

一度しかない現実だ。

僕は

「観測終了」を押した。

警告が表示された。

「観測者は

帰還できません」

僕は笑った。

帰る場所なんて

最初からなかった。

「実行しますか?」

指を置いた。

そのとき

最後に一つだけ

尋ねた。

「美咲は

どこかで生きてる?」

男は少し笑った。

「ああ」

僕も笑った。

それで十分だった。

実行。

百四万八千五百七十六の

世界をつないでいた光が

一つずつ消えていった。

世界が消えたのではない。

僕から

見えなくなっただけだ。

最後に

スマートフォンへ

最初の質問が表示された。

FINAL QUESTION

「現実とは何ですか?」

今度は答えられた。

「誰かに観測されなくても

そこで生きること」

画面が白くなった。

ANSWER:ACCEPTED

観測を終了します。

さようなら。

そこで

僕の意識は途切れた。

*

朝。

美咲は目を覚ました。

隣では

知らない男が眠っている。

夫だった。

いつもの朝だった。

美咲はベッドを出て

テーブルの上にある

スマートフォンを見た。

画面が一瞬だけ

勝手に点灯した。

そこには

見たことのない文章が

表示されていた。

OBSERVATION:OFF

美咲が触れる前に

文字は消えた。

窓の外では

何事もなかったように

世界が続いていた。

それが何番目の世界なのか

知る者はもういない。

そして

知る必要もなかった。

その世界にいる人々には

そこが唯一の

「現実」なのだから。

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