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第73話 置き場が足りない

 小屋の前には、朝から荷が半端に残っていた。


 今すぐ出す布包み。昼前に回す木箱。午後まで動かさない袋。空いた荷台。使い終えた縄。昨日のうちに寄せた板まで、壁際と戸口の脇に押し込まれている。


 人はいる。

 仕事も来る。

 だが、置く場所だけが足りなかった。


「そこ、通れねぇぞ」

 ガルドが言った。


 セナが抱えた木箱を持ったまま、戸口の前で止まる。小屋の中へ入れたいのに、布包みと荷台の角が邪魔をしていた。横を抜けようとすると、どちらかにぶつかる。


「す、すみません」

 セナが固まる。


「謝っても広くはなりません」

 エルンが帳面を見たまま言う。

「先にどかしてください。今出す荷と後で出す荷が混ざっています」


「どかす先がねぇんだろ」

 ハムが面倒そうに言った。


 それが問題だった。


 人足が増えてから、荷は前より細かくなった。朝一で持ち出すものもあれば、昼まで置くものもある。濡らせない荷も、重ねていい荷も、重ねたら駄目な荷もある。前みたいに「来たら持つ」だけでは済まない。


 ドグは小屋の奥で床板を踏んでいた。沈む場所、まだ持つ場所を足で確かめている。


「置き方が悪い」

 短く言う。


「分かるなら直せ」

 ガルドが返す。


 ドグは壁際に立ててあった板を二枚持ち上げ、空箱の上へ渡した。即席の棚みたいな形になる。


「軽いのは上」

 それだけ言う。


 メルカがすぐに動いた。

「布包み、こっち。セナ、その箱は下。フィノ、縄どかして」


「なんでオレ」

「ちっこいから潜れるでしょ」


 フィノがぶつぶつ言いながらも、荷台の下へ腕を突っ込んで縄を引っ張り出す。その間にセナが木箱を運び、布包みが上へ上がる。戸口の前に、人一人分の細い道ができた。


 リノが壁際から小さく言った。


「……まだ狭い」


 視線の先には、袋と荷台の間に残ったわずかな隙間。ニグが通るには足りない。


「そこもどける」

 ドグが言う。


「どこにだよ」

 ハムが聞く。


「外」

「降ったらどうする」

「雨避け作る」


 話が早いのか遅いのか分からない。

 だがドグの頭の中ではもう形になっているらしい。


 ガンツが荷車の位置を少しずらした。

「荷台、もう少し寄せる。木箱の出し入れはそっちからだ」


 エルンは帳面の端に何かを書き足している。

「置き分けが要りますね」


「何だそりゃ」

 ガルドが言う。


「今すぐ出す荷。後で出す荷。濡らせない荷。重ねていい荷」

 エルンは早口で言った。

「六人だけなら頭の中で済みました。でも今は人足が増えています。置き方を決めないと毎回詰まる」


「面倒くせぇ」

 ハムが言う。


「面倒だから決めるんです」

 エルンが返す。


 ガルドは舌打ちしたが、否定はしなかった。実際、さっきから荷一つ動かすたびに誰かが止まり、誰かがどくのを待っている。荷が増えたというより、荷を置いておく時間が増えたのだ。


 カイルは戸口の脇に立ったまま、その流れを見ていた。


 人が集まるだけなら、小屋は屋根があるだけで十分だった。

 だが今は違う。

 荷をどこに置くか。

 いつ出すか。

 何を先に寄せるか。

 それを間違えるだけで、流れが詰まる。


「よし」

 ガルドが言った。

「軽いのは上、重いのは下。すぐ出すのは戸口側。後のは奥。濡らせねぇのは板の上だ」


 言葉にすると、意外なくらい簡単だった。


 メルカが小さく笑う。

「最初からそれでよかったんだよ」


「最初はいらなかった」

 ドグが言う。

「今はいる」


 その一言で、みんな少しだけ黙る。


 前は、持って、運んで、終わりだった。

 今は違う。

 置いて、分けて、また出す。その途中を支える場所が要る。


 市場裏の小屋は、ただ荷が寄る場所ではなくなっていた。


 荷をためる。

 分ける。

 順番を待たせる。

 そうやって、流れそのものを抱え始め、荷の置き場が足りなくなっていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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