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第17話 圧力

 圧力は、翌日には形になって現れた。


 市場裏の仕事を探しに行くと、いつもの荷受け場の前に昨日の三人がいた。樽の上に腰を下ろし、こちらを待っていたような顔をしている。


 ガルドの足が止まる。


「……またか」


 年かさの男が薄く笑った。

「話が早くて助かる。今日は揉めに来たんじゃねぇ」


「なら道を空けろ」

 ガルドが言う。


「空けるさ」

 男はそう言って、指を二本立てた。

「二割だ」


 エルンが眉をひそめる。

「何の話ですか」


「ここで回す仕事の取り分だよ」

 若い男が口を挟む。

「市場裏の小口は、顔の知れた連中で回してる。新参が割り込むなら、筋を通せってことだ」


「ただのたかりですね」

 エルンは即座に言った。


 場の空気が冷えた。


 ミラが小さく息を飲む。

 言い方が正しい時ほど、面倒になることがある。


 年かさの男は笑みを消した。

「言葉は選べよ、坊主」


「事実です」

「エルン」

 ミラが低く制する。


 ガルドは一歩前へ出た。

「払う義理はねぇ」


「義理で取ると思ってんのか?」

 若い男が立ち上がる。


 昨日より悪い。

 今日は相手が待っていた。最初からこちらを止めるつもりで、話を作ってきている。


 カイルは少し後ろで荷札の束を持ったまま、視線だけを動かした。


 周囲の目。

 荷受け場の店主。

 他の運び手。

 誰も止めない。


 つまり、この場ではあれが「あること」なのだ。


 理屈でひっくり返せる話ではない。


「二割払えば、通してやる」

 年かさの男が言う。

「払わねぇなら、ここで回る仕事は全部やりづらくなる」


「脅しか」

 ガルドの声が低く沈む。


「確認だよ」

 男は肩をすくめた。

「お前、腕はある。だが腕だけだ。荷受け、帳場、運び手、裏口、どこに誰が顔を出すか。そういう流れは、もう決まってる。よそ者が一人殴って変わると思うか?」


 その言葉に、ガルドの拳が強く握られた。


 否定できないからだ。


 力ならある。

 だが一人か二人倒したところで、仕事そのものは戻らない。むしろ締め出される。市場全部を敵に回せば終わるのはこっちだ。


 エルンもそれは分かっている顔だった。

 悔しさと苛立ちで、声だけが硬い。

「払ったところで、保証はないでしょう」


「ないな」

 男はあっさり言った。

「だが払わなきゃ、ないどころか最初から止まる」


 ミラが口を開く。

「少し考える時間は?」


「一刻」

 年かさの男が答える。

「それまでに決めろ」


 三人は道を空けた。

 勝った側の余裕だった。


 仕事の話を持っていたはずの荷受け場の店主は、目を逸らしたままだった。関わる気がない。関われば自分も巻き込まれるからだ。


 しばらく誰も口を開かなかった。


 荷受け場を離れた路地裏で、ガルドが石壁を蹴る。

「ふざけやがって」


「落ち着いてください」

 エルンが言う。

「ここで暴れても状況は変わりません」


「分かってる」

 ガルドは吐き捨てた。

「だが、払えば終わりだ。次も取られる」


「払わなくても終わるよ」

 ミラが珍しく笑わずに言った。

「少なくとも市場裏の小口はね」


 重い沈黙が落ちる。


 カイルは三人の顔を順に見た。

 ガルドは正面から潰したい。

 エルンは損得で詰んでいると分かっている。

 ミラはここが閉じれば別口を探すつもりだろう。


 だが、それでは足りない。


 追い払われるだけだ。

 勝てない。

 正面からは、どうやっても。


「……どうする」

 ガルドの声は、自分に言い聞かせるように低かった。


 誰もすぐには答えない。


 答えがないからだ。


 相手は強いわけじゃない。

 けれど、流れの上に立っている。

 だから殴れない。

 殴っても負ける。


 カイルは視線を落とし、荷札の角を指でなぞった。


 戦えば負ける。

 払っても負ける。


 なら、壊すべきは相手ではない。


 相手が立っている、その足場の方だ。


「……一刻、あります」


 小さく漏らした声に、三人の視線が集まる。


 すぐに続きを言うつもりはなかった。

 まだ形になっていない。

 だが、考えるには十分な時間だった。


 人をどうこうする必要はない。


 流れが少しズレれば、それでいい。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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