久しぶりの魔法の練習にて
昼下がりの空気は、少しだけ春の香りを帯びていた。
酒場の裏庭――練習用に整えた小さな空き地で、リリィは目を輝かせて立っていた。
「師匠、今日はぜったい成功させるっす!」
「お、気合入ってるな」
シズクが笑いながら、隣で腕を組む。
その後ろには、久しぶりに顔を見せたミナの姿もあった。
「……練習、見ていい?」
「もちろん。むしろいてくれた方が、リリィも気合入るだろ」
「おおっ、ミナさんも来てくれたんすね! 見ててくださいよ~、今日は違うっす!」
リリィは両手を前に出し、深呼吸をする。
掌の上に、淡い光がふわりと集まった。
前回の練習で感覚をつかみかけた、風と炎の複合魔法――“火輪”の制御だ。
「よし……いくっす!」
集中するリリィの周囲で、空気がわずかに震えた。
火花が小さな輪を描き、ぐるりと回転を始める。
「おっ……! 形、保ってる!」
シズクが思わず声を上げる。
前回は一瞬で弾け飛んだ魔力が、今度は穏やかに流れていた。
リリィは汗を浮かべながらも、顔は真剣そのもの。
魔力の流れを指先で整え、炎の輪を空中で安定させていく。
「すごい……前よりずっと滑らか」
ミナが小さく呟いた。
彼女の視線には驚きと、ほんの少しの感動が宿っていた。
「……よし、もう少し広げるっす……!」
リリィが息を詰め、火輪を大きくする。
淡い光が庭全体を照らし――
次の瞬間、パッと消えた。
「わっ!?」
リリィがバランスを崩して尻もちをつく。
残ったのは、うっすらと焦げた芝生の匂いだけ。
「……あー……やっちゃったっす……」
項垂れるリリィの頭に、シズクがぽんと手を置いた。
「でも、ちゃんとできてたよ。前は形にもならなかったのに、今日は維持までできた」
「えっ……でも、最後消えたっす」
「それは集中が切れたからだ。嬉しくて気が抜けたろ?」
「……うっ、バレたっす」
図星を突かれて、リリィが頬を膨らませる。
それを見て、ミナがくすっと笑った。
「でも、すごいと思う。……前見た時より、ぜんぜん綺麗だった」
「ほ、ほんとっすか⁉」
「うん。努力してるの、ちゃんと伝わる」
ミナの言葉に、リリィの顔がぱぁっと明るくなる。
「よっしゃ! ミナさんに褒められたっす!」
「単純だな……」と、シズクが苦笑した。
リリィは立ち上がり、拳をぐっと握る。
「次は、消えないようにするっす! もっと長く、もっと綺麗に!」
「いい意気込みだ。でも今日はここまで。魔力が荒れてる」
「はーいっす……」
返事は素直だが、名残惜しそうに手を見つめていた。
練習を終えた三人は、酒場のカウンターで冷たい水を飲みながら一息ついた。
「……リリィ、本当に成長してるな」
「師匠が教え上手なんすよ」
「いや、本人の努力の方が大きいよ」
「ふふっ……どっちもすごいと思う」
ミナの穏やかな言葉に、二人の笑顔が自然とこぼれた。
外では夕陽が傾き、淡いオレンジの光が窓を染めていた。
リリィはカップを見つめながら、小さく呟く。
「……次こそ、ちゃんと成功させるっす」
その目はまっすぐに前を見ていた。
失敗も、努力も、全部が成長の証。
その背中を見て、シズクは静かに微笑んだ。




