近況報告83
あれ? もう月曜日ですか? キバごんです。
これをお読みになっている方々の中には、来月からの新生活をむかえるため、今月に1つの生活の節目を迎えた方もいらっしゃることでしょう。 僕そんなに人気ないんでいらっしゃらないかもしれませんが。
僕はその方です。 本日、大学の卒業式でした。
この四年間、さまざまなことがありました。 一番の驚きが、これほどまでに充実した大学生活を送れるとは思ってもみなかったことです。 夢を語れる良き仲間に出会い、切磋琢磨、叱咤激励し合ってました。 影響され、気づかぬところで僕が影響を与えていた......そんなことを今日は話しました。
だからこそ、寂しいですね。 もう会えないほど遠く、などではありませんが、大学、という共通の場所には集まらなくなります。 それが、ひどく寂しさを胸に流れ込んでくるんですね。
自分語りほど寒いものもないんで、これぐらいにさせていただきます。
というわけで僕ももう晴れて社会人。 今まで以上に歩みが遅くなるかもしれませんが、がんばります。 夢も叶えるため、がんばります。
しかし新社会人になる前に、頭を下げます。
いろいろと忙しく、イラストがまだできていません。 すみません......。
その代わりになるのかはわかりませんが、いつもより小説を多く載せたいと思います。 これでなんとか......なんとか。
それでは、どうぞ。
*
空にはおだやかに白い雲が流れていた。 その流れと同じようにゆるやかな時間が、この中央街にはあった。 皆、思い思いに、好きに店に入り浸っては楽しんでいる。 雲の白と見劣りせぬソフトクリームを食べる海斗とシウニーも、例外ではなかった。
歩幅をあわせ、クリームを口に運ぶあいまに何気ない言葉を交わしていた。
「イラストでのソフトクリームとうんこの描き分けって、どうやんのか知ってる?」
「いまそれ聞きます? 普通に数時間後くらいに話す内容なんですが。 どうしても話さなくちゃいけないんですか」
シウニーの手が止まり、手元のそれを見下ろした。
ソフトクリームは味もさることながら、満足感に浸れるから好きだ。 甘いものを食べたいというときにはもってこいと思っている。 特に、できたてのとぐろを巻いたそれのてっぺんを、かぷっと頬張るのが、なんとも言えぬ幸せも抱く。 満足感も、甘さを求める欲求も満たしてくれる最高の食べ方だと思う。
それがどういうことだ、その食べ方をしたあとの初めての頬張りをしようかというところで、そんな話をされてしまっては、てっぺんがなくなっているそれは、もう、たっぷり積まれた便にしか見えない。 「あぁ、朝こんなかんじで毎日出たら素敵ですね」と、女なら多くの人が羨ましく思い、そして共感してくれるであろうその御姿。 まこと立派なものであった。
「私の300円分かえしてほしいんですけど、この真っ白いキャンパスに私の脳みそは茶色を塗ってしまったんですけど」
「ソフトクリームのとぐろは少しかくばった感じで描いて、うんこは丸みをおびたとぐろを描くと良いらしいんだよ。 あーん、うま」
「進めたし、しかも食べたし! もー! 1人だけおいしく食べてずるいですー!
ていうかなんでそんな話したんですか!? 嫌がらせですか!? なんなんですか!?」
「いやーさ、作者がその描き分けかたをどっかから学んだんだよ。 んで、ソフトクリームの形にうんこをひねり出す特別な種族の悪魔を作って、ソフトクリーム店をひらいて魔界中の味覚をバカにさせて魔界征服しようとするっていう物語を考えたらしいんだけど」
「めちゃくちゃつまらないじゃないですか。 小学生のらくがき帳ですか……?」
「ソフトクリームとうんこの描き分けがしんどすぎてやめたんだって」
「そこ!? そこが問題でやめるの!? 結局学んだ意味ないし!!」
シウニーはもう一度ソフトクリームを見下ろした。
やはりそんな話題をふられたら食べたくなくなってしまう。 その気持ちは変えられず、甘いものは食べたいけれども、「この形状のはちょっと……」と、口の拒否権行使がはっきりと理解できた。
「うぅ……失せた食欲が戻ってこない……魔王様のバカぁ……」
「大丈夫食える食える。 だいたいうんことソフトクリームは違うものであって、うんこはうんこの独特なにおいとかが──」
「うんこうんこ言わないの! それが食欲後退に拍車をかけてるの理解できないんですかアンタは!」
もったいない、という気持ちにはめっぽう弱いと思う。 基本的に食べ物を捨てるのが好きではなく、腐ったものは別であるが、賞味期限などは気にせず食べる。 きっとその気持ちが心に勇気を与え、なんとか食べられる未来を作ってくれると信じよう。 もっとも、その未来が、ソフトクリームが溶ける前までに来るのか、であるが。
「あの」
そう一種のおかしな不安にさいなまれていると、下の方からしゃがれた男の声で呼び止められた。 視線を下げると、電柱の根元に横たわるダンボールから、男の顔が出ているのが見えて、ぎょっとした。 ただ、顔をよく見てみると、それは秀政であった。
シウニーはまばたきした。
なにしているんですか、と問いたくなったが、なぜかのどから出なかった。 彼は顔はきたなく、ススのような汚れがついている。
彼は静かにこちらを見つめて、しばらくしてから口をひらいた。
「いらないなら、おじさんにわけてくれる?」
「いまだぞ作者、こいつのマイホームにうんこの練習として描けよ」
そう言って、魔王様は私の腕をひっぱり、中央街の奥へと進んでいった。
*
違う日も、雲が晴れた空を喜ぶように流れていた。 爽やかな風が中央街に流れ、柔らかく髪に触れていく。
シウニーはそれを心地よく感じながら、たくさん袋詰めされたサイコロ状のチョコを笑顔で頬張っていた。
たくさんあるから、毎週食べると飽きがくるけど、一ヶ月に一度だけ食べるとこれがまたおいしいのなんの。 ひょいとつまめて、口溶けは優しく、すぐに口いっぱいにとろけ広がっていく──。 私はこれを食べることを、鍛錬の頑張りに対する月に一度のご褒美と決めている。
初めて紹介した魔王様も、うまいと言って横で食べている。 それくらいにおいしい。 そこまで行列ができないのはちょっと不思議だと思ってしまうほど。
「作者の話なんだけどさ」
「また下品な話しないでくださいね」
海斗の話し始めの言葉で、シウニーの脳裏に痛みにも似た記憶が浮かびあがった。
そう言えば数日前に、同じようなシチュエーションがあった。 甘いものが食べたいという私の気持ちと魔王様の気分が合致して、中央街で食べたソフトクリーム……。 そのときに思い出したくもない下品な話をされ、食欲を失くし、最終的に食べ終えたのはあれから10分以上も経ってからであった。 デザートはぺろっとすぐに食べてしまうこの私がだ。
「ぁ、じゃあなるべく下品じゃないように話すからさ」
「それをよく話の前置きにしようと思いましたね。 それ全然においを隠すフタになってないですからね? これから下品な話するって宣言してるようなもんですからね?」
「チョコソフトクリームの色なんだけどさ……」
シウニーは見開かせた目の上で眉をひそめた。
ここまで言っているのにまだ続けようとしていることに理解が追いつかなかった。 それに色、と言ったかこの男。 しかもそれがチョコソフトクリームの色、とくれば、ここから紡がれる、ふざけた物語は容易に想像できた。
見下ろした袋には、明るい茶色をしたチョコが、まだごろごろとはいっている。 彼女はひきつった顔で海斗を見直した。
「その色とあれの色の塗りわけが難しいって、作者言ってたんだよ」
「代名詞が役立ってないですんですけど!! はっきりとした名詞の姿が見えるんですけど!!」
シウニーの予想は的中した。 思わず涙がこぼれ落ちそうであった。
*
まだ小説も満足に書き上げられていない状況なのに、イラストには手を伸ばしてはいけない、という思考になってしまいました。
ですので、以前よりも筆の進みが早いように思えています。 ......多分また改稿は時間がかかるんだろうなとは思っていますが......。
ただ、長い時間をかけて、改めて小説をじっくり観察すると、良いところと悪いところがはっきり見えてきました。
自分、一人称と三人称をおりまぜて書いています。 例えばその比率や、物語を展開させたい時の書き方、じっくりと人物の心情を掘り下げたい時の書き方などを、以前よりも俯瞰的に見ることができているような気がします。 これも成長していると思って良いのでしょうか。
少しでも、自分ではなく、海斗やバル、シウニーといった登場人物が物語を紡いでいるような小説が書けるよう、精進したいと思います。
お付き合いのほど、よろしくお願いします。




