表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生エルフ無双! ~筋肉さえあれば魔法など不要という暴論~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ2巻発売中』
最終章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/70

第60話 追憶

前回までのあら筋!



主人公、遅刻する。


 無尽蔵に襲い来る神影を、漢は左右の豪腕で無造作に掻き分けて突き進む。



「どけい! 邪魔だ!」



 右の腕を振るえば前方の神影がその背後の数体を巻き込んで打ち上がり、左の拳を振るえば赤い血霧となって爆散する。


 背後に憂いはない。背中は預けている。信頼できる二人に。

 凄まじい勢いで蹴り技を連続して繰り出し、己の身よりも遙かに大きな神影を次々と砕く緑髪の少女エルフと、漢よりもなお強靱なる肉体で、二人のエルフの盾となって追従する生態ゴーレムに。


 だが、徐々に。

 徐々にではあるが、南へと進むほどに神影の層が分厚くなっている。進行速度を保てない。一度でも足を止めてしまえば、少数の己らが再び動き出すことは難しい。

 神影の数は、数え切れないほどにいるのだから。



「く……!」



 漢の顔が険しく歪む。

 両腕で神影を打ち上げながら、それでも漢は睨む。焦燥を帯びた瞳で、南方を。



「……っ」



 漢が息を呑んだ。



「いた……!」



 まだ遠い。遙か前方。

 無数の神影が蠢くわずかな隙間。限界を超えて鍛え上げらし優れた外眼筋による眼球運動で、一瞬だけ捉えた懐かしき影。


 細く、儚げな女。


 負傷しているのだろう。

 右足を庇いながら、神影よりもなお赤い、赫色の何かと懸命に戦っていた。


 漢は息を大きく吸う。

 閉鎖筋と輪状甲状筋が膨れ上がった直後、戦場に声、轟く。



「師ィィィィ匠ォォォォォーーーーーーッ!!」



 声。否。それはもはやその範疇にない。

 例えるならば雷轟のごとく。

 恐怖を知らぬ神影たちですら、奥底に眠る本能でその身を一瞬すくめるほどに。



「……ッ」



 返事はない。魔神を相手取っては余裕がないからだ。

 だが、届いたはずだ。己の声は。彼女の耳に。



 貴女は一人ではない。おれたちがここへ来た。もうすぐだ。

 貴女の旅は過酷で孤独だった。

 味方であるはずの魔族から不吉の魔女と罵られ、子供らからは石をぶつけられて、ディアボロスには処刑台に送られた。

 魔神と戦い、大怪我を負って、オークにセクハラをされながらも、貴女は大陸の生者を守るために魔神と戦い続けてきた。



 たった独りで。



 だが、今ここには、おれたちがいる。

 わずか数百歩の距離に、おれがいる。

 だから叫ぶ。独りではないと、漢は叫ぶ。

 喉を開き、あらん限りの声を絞り出して。



「おれはッ、おれたちはッ、ここにいるぞぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーッ!!」



 その事実を知るだけで、彼女ならば存えることができるはずだ。

 神殺しであり、且つ、恐るべき筋力と筋才能を秘めたあの方ならば。心が力を取り戻せば、筋肉はさらに力を増す。


 戦場が誠一郎の声で静止したその瞬間、生態ゴーレムだけが動いていた。

 レッドドラゴンの外殻で守られた両腕に炎を宿し、漢を肩で押しのけながら前方へと両手を掲げる。



「きりがない! このままではいずれ足を止められる! 私が一気に道を切り拓くから、おまえたちは振り返らずに走れッ!」

「応!」

「レーヴさんはどうするんです!? 三人いたから全方位からの攻撃を凌げていたのに! 孤立したら囲まれちゃいますよ!」



 生態ゴーレム・レーヴはダークエルフを祖体としている。当然、魔法の力に優れた種族である。

 レッドドラゴンの鱗から削り出されし鎧のような肉体から、膨大な魔素が立ち上った。


 詠唱破棄。


 両手から生み出された炎の大蛇が鎌首をもたげて、南方へと滑り出した。

 大地を抉って灼き、空間を焦がしつけ、眼前の神影らを呑んで溶かして、大蛇はうねりながら南へと――女と赫色の怪物イブルニグスの戦う場へと疾走する。



「邪魔だと言っている。私はおまえたちと違い、筋肉のみで戦っているわけではない。近くに味方がいては使えん魔法も少なくはない。――わかったらさっさと行け!」



 誠一郎とフィリアメイラが視線を合わせてうなずき合う。



「死ぬなよ、レーヴ」

「……」



 ゴーレムはこたえない。

 なぜなら、己が役目を終えたことを知っていたからだ。

 あるいは隻眼ではなく、片目にゴルゴーン族の瞳を得ることができていたならば、この窮地をも脱することができたかもしれない。


 だが、未だ隻眼。そこに後悔はない。

 リュアレとステナの瞳を、愛するグラアの妹たちから光を奪おうとしていた己を止めてくれた二人の怪物エルフには、感謝すらしている。

 おかげで己は、未だ己のままでいられるのだ。


 それゆえに、せめて彼らに憂いを遺させぬため。



「……ああ」



 答えを待つ二人のエルフに、嘘をついた。

 二人が同時に背中を向けた。



「おまえたちもな。……幸せになれよ」



 走り出す背中に、静かなエールを送る。



「さて、もう一仕事だ」



 断続的に炎の大蛇を放つ。

 己のためではない。二人のエルフの援護に。

 背後から襲い来た神影を蹴って粉砕し、炎の大蛇二体をエルフの護衛として併走させる。右側に一体、左側に一体。

 その間も襲い来る神影の爪を、レッドドラゴンの鱗から削り出した皮膚で滑らせ、力任せに叩き伏せる。



「邪魔はしないでくれ」



 両腕で操る炎の大蛇に守られながら、二人のエルフの背中が、神影の群れに埋もれて消えた。

 見送ってから背中が消えるまで、数秒もなかった。あっけないものだ。

 だが、おそらく彼らは到達するだろう。貪欲なる魔神イブルニグスと、神秘ともいうべき神殺しの女の戦う場所へ。



 ゆっくりと息を吐く。



 炎の大蛇を操っていたゴーレムの腕が下がった。

 隻眼のゴーレムは満足げな笑みを浮かべる。





 疲れた。





 あの日。

 己の主であるディアボロス・テュポーンと、己の妻であるゴルゴーン・グラアの命を同時に奪われた日から、魔神イブルニグスに対する復讐心だけを頼りに、息継ぎもせずに走り続けてきた。


 ダークエルフだった己の肉体捨て去り、死者の力を集めて加え、それでも足りぬ力をグラアの妹たちから奪おうとした。



 だがそれは、大いなる間違いだった。



 同じだ。魔神イブルニグスがこの大陸に対してしていることを、己はリュアレとステナに対して行おうとした。それは最も忌むべき行為だと、あの漢は肉体で語った。


 脳みそまで筋肉に侵蝕された、脳筋の分際でだ。



 ならば誰が魔神を止められる?

 己と魔神の間にある圧倒的な力の差、足りぬものを何が補える?



「……やっと……見つけたんだ、グラア……」



 自分に足りなかったものを。



「……少し、遅かったけれど……見つけたよ……」



 復讐心ではなかった。増幅させた魔法の力でもなかった。死者を継ぎ剥いで得た仮初めの肉体でもない。ましてや、妻や義妹たちの瞳ではない。


 そんなものをいくら集めたところで、一片の罪悪感もなく生命体を喰らい続け、それを力に変換し続ける魔神には勝てない。取り込む速度が違い過ぎるのだから。


 けれど、レーヴはついに見つけた。本当に必要だったものを。




 熱き血潮を滾らせる、正義の筋肉だ。




 レーヴは誰にともなく語る。



「今度は負けない。私が命を捨てて送り出した彼らは、必ず魔神イブルニグスを討ち果たすだろう」



 だが、自身は間違った力しか得られなかった。

 死者から奪うことに、疲れた。奪うために戦うことにも、疲れた。


 一方で、あの二人のエルフは正しい力を得た。

 自ら鍛錬を積んで、育んだ。守るために戦って、育んだ。



 両者の差は、罪の差だ。愚行と善行。疲弊と喜び。



 視界が邪悪なる赤に覆われる。

 視界だけではない。地中以外のすべてから赤の波は押し寄せ、そしてゴーレム・レーヴを呑み込んでいった。


筋肉こそが一番って、今頃気づいたの~?www


〆⌒ ヽ彡     

(´^ω^)

⌒`γ´⌒`ヽ( E)

( .人 .人 γ /

=(こ/こ/ `^´  

)に/こ(

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ