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転生エルフ無双! ~筋肉さえあれば魔法など不要という暴論~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第五章

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第41話 追い返される者(第五章 完)

前回までのあら筋!



筋肉神がマジビビりする唯一の女がレヴァ子だ!

 パチパチと薪の爆ぜる音がする。

 膝を抱えて暖炉の火を見つめ、フィリアメイラはため息をついた。その傍らでは、未だ目を覚まさない誠一郎の姿があった。


 あの激闘の日から、四日が経過していた。



「はぁ……」



 中間地点に定めていたディアボロス・リゼルの名もなき村は、もはや影も形も存在しなかった。瓦礫すら、雪に呑まれてしまったのだろう。

 偶然とはいえマドラスに立ち寄ったことは、今となっては正解だったと言わざるを得ない。



 魔都モルグス近郊、猟師小屋――。


 神影を、誠一郎を除いた三人がかりでようやく沈めた彼らは、レヴァ子によって気絶させられた誠一郎をレーヴが背負うことで、ようやく目的地だったモルグスへとたどり着いていた。


 けれど魔族の首都であるはずのモルグスは、もはや廃都とすら言えぬほどに、何も残ってはいなかった。

 瓦礫の平原だ。

 誰もいない。当然のように、モルグスにて誠一郎を待っているはずの師匠という人物の姿もなかった。


 ゆえに、モルグスから少し離れた位置にあるこの猟師小屋を発見できたのは、誠一郎の回復を待つためには極めて僥倖だったと言える。



 うつら、うつら。

 フィリアメイラの首がゆらゆらと上下している。居眠りなどしている場合ではないけれど、久しぶりの炎のぬくもりと、命の危険のない状況には、気が緩んでしまって。


 隣室からノックもなく、レーヴが身をかがめながら入ってきた。

 手には赤い足甲を持っている。



「おい、娘」

「ふぁ? ……あ、はい。なんでしょう?」

「つけてみろ」



 大きな手で差し出さしてきた足甲を、メイラが受け取る。



「これ……」

「私の鎧同様にレッドドラゴンの鱗を加工して作ったものだ。医学的観点からすると、おまえは自分で考えるよりも強いことに気がついていない」

「はい?」



 わけがわからないといった表情をすると、レーヴは面倒くさそうに足甲を指さした。



「いいからつけてみろ。サイズを見たい」

「あ、ええ。でも、えっと――」

「研究施設での戦いで気づき、そして先日の神影との戦いで確信を得た。フィリアメイラと言ったか。おまえは全力で敵を蹴れていない。頭のどこかで自分の足を守るために加減をしてしまっている。そこに気がついていないと言ったんだ」



 そう言われても、やっぱりわけがわからない。



「生物の脳にはそういった機能がある。肉体を保全するため、筋力をあえて落とす。セイはそれを自らの頑強なる意志で操る。普段は全力で殴らず、ここぞと言うときにだけ保全を棄てて筋力を余すことなく使い切る。その判断が巧みだ。だから強い」



 ああ、と気づく。

 誠一郎は何度か、リガルティア(おばー)様の筋力はすでに自身のそれと同じだけの怪力を秘めているようなことを言っていた。

 けれど、二人が手合わせをしたとき、誠一郎が力負けしたことは一度もない。

 おそらくそこには、脳による肉体の保全機能の操作が関わっていたのだろう。同じ筋力であるならば、どれだけそれを利用できるかが勝負の分かれ目となる。



「私にもそれをしろと?」

「そうではない。そんなものは生物の本能に反する自殺行為だ。並大抵の年数を修行に費やしたところで操ることは不可能だ。それこそ数百年の特訓を必要とするだろう」

「……この人、二百五十年間を筋トレに費やしましたからね……」



 誠一郎を指さしながら苦笑いでそうつぶやくと、レーヴが白目を剥いた。



「やっぱりな……。だいぶ頭のおかしいやつだと思ったよ……」

「私の筋トレ期間はたったの五十年ですから、とてもその領域には――」

「ごじゅ――っ!?」



 レーヴの眉間に皺が寄った。



「昨今のエルフはバカなのか?」

「………………今不思議と、恥ずかしいです……」

「……これが脳筋というやつか……」



 眉間の皺を揉んで、レーヴが再び口を開く。



「とにかく、その領域にまで入る必要はない。そのためのレッドドラゴンの足甲だ。脳が肉体を保全するため、筋力に減衰をかけるまでもなく、その足甲がおまえの蹴り足を守ってくれる。つまり、脳は保全機能を起動させる必要性がなくなる。全力で蹴れるようになるはずだ」



 フィリアメイラの瞳が徐々に大きく見開かれた。

 深緑色の長い髪に両手を入れて、口をぽか~んと開けて。



 あぁ! そっか! わたし、バカだ! 武器や防具を使えばいいだけじゃないっ! なんで今日まで身一つにこだわってたんだろう!?



 だが、なぜも何も、いくらも考えることなく、すぐに思い当たった。

 言わずと知れたこと。



「絶対筋トレのしすぎだわ、これ」

「気の毒な……。おまえの脳筋化症状はかなりのレベルにまで進行しているようだな」



 フィリアメイラを見つめるレーヴの瞳に、憐憫の情が微かに映った。



「まあ、とにかくそれをつけろ。サイズを合わせる」

「あはい……」



 フィリアメイラの前に跪き、元ダークエルフだったゴーレムは彼女の足を持って赤い足甲へと差し込む。



「む! おまえ!?」

「な、なんですか?」

「なるほど、筋肉の周囲にあえて脂肪をつけることで、ごつごつの筋肉ブロックを隠していたのだな。腑抜けた見た目の割に高威力だと思ったら、そういうことか」

「ちょ、ちょっと、触りながらまじまじ見ないでくださいよ! 一応わたし、乙女ですからね!?」



 セイさんにだって、こんなに触らせたことないのに。

 や、触ってくんないだけだけど。


 レーヴが継ぎ接ぎ顔をしかめて、顎をしゃくった。



「ちっ。履き物の調整ごときでいちいち女を見せるな。私のことは医者だとでも思え。面倒くさい娘だ」

「う……」



 しかし足甲はなかなか入らない。

 やがてレーヴは吐き捨てる。



「なんだこれ、オイ! ぶってえ足だな、オイ! ゴンブトじゃないか、オイ!」

「……す、すみません……」



 なんだか泣きたい気分になった。

 履かせることをあきらめたレーヴが、エルフ女子の足から足甲を引き抜いて苛立たしそうに立ち上がる。



「少し待ってろ。サイズを直してくる。これさえあれば、おまえは全力で蹴れる。神影程度なら蹴り殺せるようになるはずだ」

「お願いします」



 捨て台詞を吐いて、レーヴが部屋から去っていく。



「……まったく。グラアのサイズでは話にならないとは……」

「!?」



 乙女の美しき涙が一筋、頬を伝った。



「お姉さま? 何を泣いていらっしゃるの?」

「ひっ!?」



 レーヴが開けっ放しにして去った扉から、レヴァ子が覗いている。

 青白い死者独特の顔色で、元気そうにだ。



「泣いてません!」

「でしたらよいのですわ。誠一郎様のご様子はいかがですか?」

「変わらない! 向こう行ってよ! セイさんに近づかないでください!」



 顔だけを覗かせていたレヴァ子が、ゴシック調のドレスを揺らして入ってきた。

 どうやら誠一郎に見せるためらしく、男装の麗人はやめてしまったらしい。顔色を除けばよく似合っている。

 それも、エルフのように芸術的な造形美ではなく、レヴァナント独特の異性を惹きつける類の魅力で。



「そんな、ひどいですわ……」

「そもそもレヴァ子さんは何をしにきたのですかっ」

「あ、それなんです。誠一郎様に、リガルティアさんからの又聞きの伝言を預かっていまして」

「おばー様から? え? え? どういうこと?」



 魔族とハイエルフの族長だ。面識なんてあるはずがない。



「えっとですね。わたくし、お二方を追って死の森を出ましたの。それでマドラスにたどり着きまして、そこのキュバスから伝言を頼まれたということです」

「え、あら? キュバスさんからなんだ……」

「はいな。だから又聞きなのですわ」



 なるほど。キュバスには確かにリガルティア様への連絡を頼んだ。

 レヴァ子がこくりとうなずくと、切りそろえられた長い黒髪が揺れた。



「では、リガルティアさんからのお言葉をお伝えしますね。――よくわからぬが、(われ)が王都ストラシオンに殴り込んで人間(サル)どもを絞め上げ、恐怖支配を施せばよいのか? と、いうことですわ」

「ちょちょちょちょちょぉ~~~~~~~~~~~~いっ!? だめ、だめ!」



 おばー様、どうなっちゃってるのっ!?



「あ、まだ続きがございますの。――人間(サル)どもをエルフ族で支配した暁には、ランデルトの領主気取りをしているディアボロス(不良)小僧を張り倒せば、人魔戦争は未来永劫防げるであろう、くっくっく。……と、仰っておられたそうです」

「頭痛い……」



 一応、人魔戦争を阻止するという目的は見失ってはいないようだけれど、発想が完全に世紀末の覇者のそれだわ。

 筋肉なんてつけたばかりにこんな性格になるなんて。


 フィリアメイラがこめかみを揉みながらうめいた。



「……大至急でキュバスさんに伝言。リガルティア様にストップをかけてください」



 やりかねないというか、たぶんやれてしまう。できてしまうのだ。

 リガルティア様とフェンバートさんとルフィナさんの、たった三人しかいないエルフでも。

 今ならそれがわかる。

 筋肉とはバケモノだ。わたしたちはバケモノを体内に宿してしまったのだ。



「大至急……と言われますと?」

「文字通り大至急です。あなたの飛翔速度でしたら、雪原でもマドラスまで三日もかからないでしょ。アンデッドだから寒さも関係ないですし」



 レヴァ子が唇に人差し指をあてて、愛想笑いをしながら首を傾ける。



「Now?」

「ナウです」



 なんだかレヴァ子は泣きそうな顔をしているけれど、明日まで待ってからでは間に合わない恐れがある。ここは容赦している場合ではないのだ。



「キュバスさんに伝えてください。――リガルティア様には最初の作戦通りにストラ街道を張って、ストラシオンからの派兵を追い返すだけでいいからと。なるべく怪我もさせちゃだめって」

「今から? すぐに? わたくしだけ引き返せと? まだ誠一郎様にこのドレスを見ていただいてもいませんのに?」



 イラァ……。

 フィリアメイラの額に血管が浮かんだ。



「何回聞くんですかっ!! いいからっ、さっさと行けっ!!」

「ぅ、ぅ、……あはぁ~ん♥」



 内股で泣きながらレヴァ子が飛び出して行った。


 ちょっとかわいそうだけれど、リゼルとの約束の期日までにイブルニグスの討伐は間に合いそうにないし、リガルティア様に王都で勝手に大暴れされても困る。

 もはや背に腹は代えられないのだ。


 それに、目を覚ました誠一郎を誘惑されても嫌だし……。



ぐっじょぶ!

そうだ、ゴーレムにいじめられたらレヴァ子に八つ当たりするんだぞ!


(´^ω^`) n

⌒`γ´⌒`ヽ( E)

( .人 .人 γ /

=(こ/こ/ `^´  

)に/こ(


※更新速度低下中です。

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