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幕間 ーmina視点ー 二人の歌姫


 カズくんのおかげで、私は、家族との絆を取り戻すことが出来た。

 お母さんと、真理と、普通に話せる日が来るなんて……


 絶対無理だと思っていた。


 でも、カズくんは私を励ましてくれて、色々と奔走してくれて、一緒に曲まで作ってくれて、私のために頑張ってくれた。


 カズくんには、どんなに感謝しても足りない。

 いつか、カズくんがピンチになったら、私が全力で支えるんだ。


 私の家族にも紹介して、一緒にご飯も行ったし。

 年明けは、カズくんの実家に連れて行ってくれることになっている。

 順調に行ったら、このまま……け、結婚とかするのかな。

 

 カズくんとの結婚生活。

 想像するだけで、胸がジーンと熱くなる。

 マスコミの目を気にせずに、大好きなカズくんと一つ屋根の下で暮らすことができるのだ。

 

 できれば、結婚しても、今のお仕事を続けたい。

 私の夢は、まだ続いている。

 もっと大きいホールでライブツアーもやって、いつか憧れのAさんみたいに海外ツアーもやってみたい。

 カズくんは、優しいから、理解してくれるよね、きっと。


 私も『金融で日本を元気にする』というカズくんの夢を応援したい。

 私には経済の難しいことはわからないけど、色んな方法でカズくんを支えることはできるはず。

 その時までに、雨宮さんにお願いして、お料理をもっと勉強しなきゃ……あと、もう一つの方も……


 毎日のように、破局するカップルや、不仲と囁かれる夫婦の話題が放送されるけど。

 私と、カズくん、お互い尊重しながら支え合っていけば、きっと大丈夫だよね。


「大丈夫だよ、mina」

 カズくんなら、そう言いながら優しく笑いかけてくれる、そんな気がする。




 忙しいツアーやリハーサルの合間を縫って、今日はAさんと食事に行った。

 

 私が芸能界を目指す、そのキッカケとなったAさん。

 三十代半ばだというのに、元々童顔なのか愛らしい顔立ちをしている。

 歌番組で共演してから、仲良くしてくださって。

 メールもよくしているし、会って食事に行く回数も増えた。


 デビューしてからひたすらがむしゃらにやってきた私が、芸能界で初めてできた、お友達。

 そんなこと言ったら失礼かな。

 でも、Aさんも


「minaちゃんは、なんか妹みたいな感じすんねんなあ。これからも仲良くしような」

 なんて、可愛らしい関西弁で言ってくださる。

 私たち二人とも背が低いから、TV局の人達からは最近、ミニミニ姉妹なんてあだ名もついている。



 今日はAさんオススメのお寿司屋さんに連れて行っていただいた。


 カウンターで、Aさんと二人、隣会って座る。

 ネタが新鮮で、シャリもお口のなかで、ふわっと膨らんで、とろけるように美味しかった。食いしん坊の私はすぐに虜になってしまい、店の主人がびっくりするほど、お寿司を平らげていた。


 Aさんは食が細いのか、時折お寿司をつまむ程度で、あとはビールや焼酎を飲んで、私との会話を楽しんでくれた。


 芸能界のうわさ話や、プロデューサーのグチとか、私もAさんもギターを弾くから新しいギターが欲しいとか、いや今の相棒から浮気したらダメだとか、そんな他愛もない話。


 Aさんはお仕事で疲れているのか、時折ボーっとした表情を見せていた。


 Aさんは、ふと、自分のカバンを持ってお手洗いに立った。

 しばらくすると、戻ってきて、さっきとは別人のような、元気な表情を見せて、口から重しが取れたみたいによく喋った。


 二時間ほど、お食事とお喋りと楽しんだ後、私たちはお寿司屋さんを後にした。


 Aさんもお疲れのようだし、私もタクシーを拾って帰ろうかな? とそう思っていたのだけど。


「なあなあ、minaちゃん。このあと、私の家にいひん? もっとお喋りしようや」

 Aさんは、酔っ払っているのか、頬を赤らめて、少し瞳を潤ませながらそう誘ってくれた。


「そんな、悪いですよーー」

 私は断ろうとしたのだが……


「えーー、そんな冷たいこと言わんといてよーー。明日は午後から仕事やって言うてたやん。私、minaちゃんに冷たくされたら、泣いてしまうわ」

 Aさんはそう言って、泣く真似をした。

 そこまで、憧れの人が誘ってくれるのなら……


「わかりました。じゃあ、お邪魔します」

 私はそう言って、Aさんと共にタクシーでAさんの住むマンションへ行くことになった。




 Aさんのマンションは港区にある高層マンション。

 エントランスも広くて、重厚感があって。大理石? とかで出来ているのかな?

 すごーい。なんか、セレブが住んでそう。


 間取りも私の所より、かなり広くて……いいなあ。

 開放的なリビングのガラスサッシからは、近くに東京タワーと、少し離れてスカイツリー、そして、東京の夜景が綺麗に見渡せた。

 カズくんとの新居なら、やっぱり私も広いおうちがいいなあ。


 でもAさんの部屋、結構汚れている?

 あちこちにコンビニの袋に丸められた、お弁当の空箱や、パンの包装紙。

 楽譜かな? 書類も結構散乱していて……


 いや、あんまりツッコむのはよそう。

 私も片付けがニガテで、実家にいる時はよくお母さんに怒られていたのだから。


 Aさんは広いソファーの周りのコンビニ袋をどかすと、私に座るように勧めてくれた。


「minaちゃん、どうぞ。ごめんなあ、散らかっとって……飲み物とおつまみと、取ってくるわ」


 Aさんは、そう言うと、キッチンの方へ歩いていき、冷蔵庫を開けると、缶入りのカクテルと、ワインの瓶を取り出した。

 ちらりと、冷蔵庫の中身が見えたんだけど、飲み物以外ほとんど何も入ってない感じだった。まあ、私も人のこと言えないけど……頑張ってお料理、覚えようっと。


 Aさんは飲み物と、お菓子を私に勧めてくれた。

 そして、二人で他愛もないお喋りの続きをした。


「minaちゃん、この間、彼氏っぽい人がおるって言うてたやん。そろそろ、私に教えてくれても、いいんちゃう? で、どんな人なん?」

 Aさんは私の顔をイタズラっぽく覗き込みながら、そう聞いてきた。


「ど、どんな人って言われても……そんな……」


「あーー、冷たいなあ、minaちゃん。私、そんなに信用ないんかな……お相手って、芸能人? それとも、一般の人?」


「ええと、それは、い、一般の方です」


「もしかして、こないだのマネージャー見習いの彼? 確か、銀行員やったっけ?」

 当たりやろ? と付け加えながら、嬉しそうなAさん。


 どうしよう……カズくんとのことは、なるべく他の人に広めたくないけど、でも、Aさんは大切なお友達だし……よし!


「は、はい。実は……そうなんです」

 私は、Aさんに打ち明けることにした。


「うわあーー。ええなあ、シュッとした感じの人やったなあ。銀行員ってことはエリートやろ……ええと……」

 Aさんはそこでちょっと口ごもり、何かを欲しがるような、少し困ったような表情を浮かべた。


「ごめん、ちょっと、トイレ行ってくるわ……すぐに戻るから……」

 Aさんは少し虚ろな目をしながら、よろよろと、リビングの向こう側へ消えていった。


 やっぱり、仕事でお疲れなのでは……何か理由をつけて、早く帰らせてもらう方がいいかなと私は思った。



 十分ほどして、Aさんが戻ってきた。さっきとは違い、元気一杯の表情に戻っていた。トイレでも我慢していたのだろうか……


「ごめんな、minaちゃん、で、何の話やったっけ?」


「あ、あの、私の彼氏の話で……」


「そうや、そうや、あのマネージャー見習いさん。もう、お二人ともええ歳やろ? やっぱ、結婚とか考えてるの?」

 Aさんは、ぐいぐいと喋ってきた。


「それが……私はいつでも準備OKなんですけど……、なかなか彼の方から言ってくれないっていうか、私の方から押しすぎなんですかね?」


「いや、最近は女の子の方が積極的やって言うし、それにね、結婚できる時にしといた方がええのよ。私の場合ね、事務所が『もうちょっと待ってくれ』とか自分の仕事の都合とか考えているうちに、結局、ね……」

 Aさんは、そう言葉を区切って、少し昔を思い出すような遠い目をした。


 そうだった。Aさんはイケメンアイドルグループの一員と長いことお付き合いをしていたけど、確か、四、五年前に、破局したはずだ。

 それ以来、浮いたお話は聞いていない。

 この前お話した時も、フリーだと言っていたし。


「マスコミも、有る事無い事書くんよ。彼がモデルの女性と密会デートとか、私がホストクラブで遊んでるとか、そんなこと無いのに。そんなんもあって、すれ違いが続いて、彼と別れてしまったわ……」


「そ、そうだったんですか……」


「だから、minaちゃんも、ちゃんと彼氏のことを、捕まえとかなあかんよ」

 Aさんは、そう言って、こちらを見て微笑んだ。


「は、はい」


 それから、どうやったら彼氏つなぎとめておけるか、とか、Aさんの過去の恋愛体験談や、そこから名曲が生まれた話など、話す内容は尽きなかった。



 結局、私がAさんのマンションを出ると、東の方の空が少し白くなって、夜が明け始めるころになっていた。


 Aさんは、マンションの一階の出口まで、私を見送ってくれた。


「じゃあ、minaちゃん、また遊ぼうな」

「はい、Aさん、遅くまでありがとうございました」


「大好きなminaちゃんと話していると、時間を忘れてしまうわ」

 Aさんはそう言って、私の肩に手を回して、ギュッと抱き締めてくれた。


 外は冷えていたが、私と同じ背丈のAさんの体温が間近で感じられた。


 Aさんの普段付けている香水に交じって、

 あれ!? 

 何か生臭いような匂いがする……


 気のせいだよね……

 さすがにお喋りが過ぎて、私も疲れているのかな。

 私は再度お礼を言って、Aさんのマンションを後にした。


 どこかで、タクシー、拾えるかな?

 十月の下旬の早朝の肌寒さに、私は少し身震いしながら、家路を急いだ。

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