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 高校の入学式では、一年生の代表が今後の抱負を述べた。どうやって代表が選ばれるのか知らなかったが、試験の成績が一番良かったものが対象らしい。そんなに成績が良いのなら、どうして他の高校に行かないのかと疑問に思うが、一つランク下の高校で常に好成績を修め、国公立大に推薦してもらおうと考えているそうである。なるほど、僕らのように目先の高校しか考えていない者よりも、ずいぶん先を見て行動する人たちだと感心すると同時に、「来年のことを言うと鬼が笑う」という莫迦にした諺が頭に浮かび、自分がさもしい人間であると思い知らされてしまう。

 入学式の後に、すぐに適当に張り出されたクラスに集められた。同じ学校の生徒もちらほらいるようだったが、僕としてはほとんど話したことがない連中ばかりで安堵も出来ない。どうやら、高校受験でも友達同士で来ている者たちが多いようで、すでに派閥なりが出来上がり、一人ものは結局そのまま一人になるよう作られていた。担任がまず挨拶をして、中学同様、生徒一人一人が自己紹介を述べ、次に、担任が勝手に委員を指定した。この基準も謎だったが、僕は勝手に風紀委員に選ばれてしまった。どうせなら、図書委員に選ばれた方がまだマシだと思っていたが、決められた以上逆らうのは今後の団体生活を考えると得策ではない。誰もが一様に嫌そうな顔をしていたが、中学の時のようにあからさまな反抗的人間は現れず、決められたことには従うようだった。

 風紀委員とはどういう仕事なのかと心配したが、何のことはない、三か月に一度の服装検査の時に先生たちの言葉を用紙に書くだけで、後は特別することのない簡単な委員だった。一年の内は、特別清掃をしなければならない様な事も無い。ただ、風紀委員は二年になると朝校門の前に立って登校してくる生徒に挨拶をしなければならないが、委員は学期ごとに交代するので、次の時に何の委員にもならなければ良いだけだ。

 高校の授業は中学よりも時間が長く、生徒の何人かは最初の内はその長さに耐えられずに眠ってしまう人がちらほらいた。昼は給食がないので、弁当か購買で何かを買うかになり、さっそく親しくなった生徒同士が輪になってくちゃくちゃと音を立てながら飯を食べている。険悪になる人こそ現れなかったが、親しい人も出来ず、しばらくは一人で弁当を食べていた。すると、同じように一人で弁当を食べていた背の高い、おっとりとした女子が何か言いたそうにしていたので、何とはなく「こんにちは」と声を掛けると、彼女は明るい笑顔を向けながら隣に来て、「一緒に食べませんか」と声をかけて来た。それからは、その女子、さくらと二人で弁当を食べるようになった。もう、僕を出すことが面倒になり、学校では女子として一人称も「私」に変えて過ごすようになった。さくらは細かいことを気にしない性格で、あまり深入りせずに誰とも広く浅く付き合っていた。僕も彼女のおかげでほかの女子とはゆるく繋がるだけだったので、彼女の存在は深く踏み込まれない防壁の安心感があった。

 高校になるともう部活動に参加する必要はないので、僕は部活には入らず、代わりにまた塾に行くようになった。さくらは中学から弓道部に入っているそうで、高校でも弓道部に所属した。時折練習姿を覗くと、背の高い彼女には白と黒の道着がよく映え、似合っていた。

 高校生というのは、中学とは異なり、一定の水準以上の者たちの集まりなので、何かと授業妨害するような生徒たちはこの高校には居らず、また思春期特有の刺々しい雰囲気も影を顰め、穏やかな日常が続いた。いじめがあるという話もなく、この学校の指導方針のようなもので、「嫌いな人がいてもしょうがない、先生だっているのだから、いない人の方が少ないだろう。みんな仲良くは出来ないものだ。だが、嫌いな人を無理に嫌っても自分の時間の無駄なのだから、当たり障りのないことだけを話して放っておけば波風立たないで合理的だ」と学年主任の先生が集会のときに良く話す所為か、ケンカ自体もあまり聞かなかった。これが中学だったなら、教師にも敵意をむき出しにして生徒同士で醜い争いをし、それを諌めるために先生が博愛主義を押し付けて発言を丸めこもうとするので、また敵意の連鎖が起こったことだろう。このように諦めるような主張を保護者が聞いたなら嫌悪するかもしれないが、その沸き起こる嫌悪が、博愛主義の矛盾をついている。結局凡人は凡人で聖人ではないのだから、快に思うこともあれば不快に思うこともある。それを敢えて攻撃的行動に移すものだから、話がややこしくなるのだ。無になり、放って置けばいい。時には相手が調子に乗って面倒を起こすこともあるが、そういうときはこちらから回避すればよい。その人には何を言っても改善することは出来ず、当たり障りのない付き合いをすること自体が無駄なのだから、こちらから関わり合いにならないのが一番楽な生き方だろう。

 しばらくは、さくらに感化されたか、穏やかに時間が過ぎた。いや、本当は新しい環境や勉強に目が回りそうだっただろうが、それ以外に僕の感情をかき乱すことが学校では起らなかった。

 何の変化があるかと言えば、河合が僕の通う塾に同じように入ったことくらいだろう。田舎なのだから塾が同じことくらいあるだろうと思うが、学校以外で知り合いに会うのは気が引ける。同じ塾というだけでもそのように気を使うのに、河合はよく話しかけてきた。前ほど苦手意識は薄くなってきていたが、それでも、彼と一緒にいるというだけで奇妙な居心地の悪さが胸の奥に鬱積していった。塾を変えると言うのも一つの手であるが、高校受験の恩義がある手前、そうやすやすと他に行くことも出来ない。

 河合は大輝とともにまた剣道部に入部したことを話し、形式的に僕にも入らないかと誘ったが、もちろん丁重に断った。中学時代から僕と話して何が楽しいのかと疑問に思うのだが、彼はよく僕に自分の話と当たり障りのない会話をしてきた。わざわざ無視をするほど嫌いな訳ではないが、好き好んで話をするほど親しいわけでもない。友達とも言い難いので、どう接すればよいのか距離感が未だにわからない。



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