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一人で文化祭を歩き回る寂しさに、僕は珍しく美術部に顔を出して、文化祭では一日絵の展示場所にいることを決めた。そこなら、一応所属グループであるから、追い立てられることはない。空気になり、一人で耐えて居れば良い。河合が一度、一緒に回らないかと同情憐憫かは知らないが声をかけてきた。無論、僕は丁重に断り独りで居ることを選んだ。独りであれば、何をどうするか、人に合わせて悩まずとも良い。独りならば、思うままに行動すれば、それで良かった。
美術部の展示品は数が少なく、見に来る人も疎らだったので、本当に一人で過ごすことになった。ただ、何にせよ退屈で、時計の針の動きも恐ろしく緩やかだった。昼前に、羽野と佐藤の二人が美術の展示に来て、「元気ないね」と声を掛けてくれたが、取り繕う笑みも忘れてしまって、「退屈だから」と自分でも情けない程、にべもない返事をしてしまった。けれど、二人は何も気にせず、僕に文芸部の冊子を渡し、「がんばってね」と気軽に声をかけて出て行った。何もすることも無いので、頑張りようも無く、渡された文芸誌に目を落とし、少しは暇つぶしになるだろうと思い紙を捲った。文芸誌といえば、国語の授業のイメージでは、詩や短歌、小説がたらたらと並んだ代物だと思っていた。だが、渡された紙には、見たことのあるアニメや漫画、ゲームの絵ばかりで、読み応えの無い薄いものばかりで、期待していた訳でもないのに少々がっかりした。後ろの方に少しだけ詩と短編小説がつけられており、字数無いので、パラパラと流し読んだ。中学生の文章なのだから、やはりどうと言うことは無い。けれど、その中で一つの詩が、目に止まった。難しい言葉の無い、単純で単調な詩だったが、どうにもそれが、この文芸誌の中では一頭抜けているようだった。いや、きっと僕の感覚とこの詩の感覚とが似ていたから、心に残っただけだったのだろう。
美術部の展示室にいなければならない理由も無かったので、僕は同じ階の文芸部の展示室に向かった。ちらほらと生徒の姿があるだけで、美術部同様、盛り上がりに欠けている。文化部は運動部のように、大手を振って自己主張行しないのだから、当然のことだ。入り口にあの文芸誌が「ご自由にお取りください」の紙と共に並べられていたが、パラパラと中身を覗くことはあっても、殆ど誰も持ち帰らずに元に戻していた。
「つまんね。ほか行こうぜ」
先に展示室に入っていた男子集団が、悪態を吐きながら出て行った。いくら好みで無いからと、あのように文句を言わなくても良いと思ったが、誰かの絵の真似だったり、自分の好きなものを紹介しているだけなので、同じ趣向を持つもので無ければ、理解されないのは致し方ないか。僕からすれば、好きな作品の真似をする人も、誰かに好かれようと外見を取り繕う人も同じように思えた。おそらく、それを彼らに言ったなら否定されるのだろう。第一、僕も彼らと変わらないではないか。いや、もっと酷い。目の前にある物体を模写するばかりで、描きたいものが何なのか、忘れてしまった。
膝を抱えて、子どものように泣きたくなった。泣きたいのに、もうそれが恥ずかしいと思う程に大人になって、それでもまだ、感情を切り捨てられるほど大人になれない。
優しい人が、僕を憐れに思ってか、声をかけてくれる。それを手放しで迎えられない、身勝手で傲慢な僕が居る。河合も女子も、友では無いかもしれないが、知人程度になろうとしてくれている。それなのに、受け手の僕は、何をしているのだろう。孤独を感じ、俯いて、殆ど無い選択肢も拒んでいる。僕は、正体を知られるのが怖い。人と違うことを指摘されて、焙りだされ、爪弾きされたくない。周囲と同質では無いと知られれば、たとえ親しくなったとしても、幻滅されるのではないだろうかと、只管に、怖かった。
彼らの様に、僕も恋人が欲しい。彼女が居れば、こんな惨めな思いをせずに、堂々としていられるに違いない。どうすれば、僕に彼女が出来るのだろうか。男であっても彼女の出来な人が居るのなら、男に見えない僕には、彼女など出来やしないだろう。皆が、彼氏や彼女を欲しがる理由は、このような不安定な気持ちから抜け出したいからなのか。
文化祭の間、僕は独りだった。廊下ですれ違った大輝は、隠すことなく堂々と彼女と腕を組み、校舎を歩き回っていた。二人だけの空間が出来上がっており、声を掛ける隙間すら無かった。
彼女が出来たから、僕らは友達では居られなくなった。そう思えば、まだ良い。けど僕には、それが自己弁護に過ぎないと分かっている。大輝は僕を嫌いになったから、友達を止めてしまったのだ。嫌われた僕が、また仲よくして欲しいと望んだ所で柳に風だ。
もう、独りで居ることに慣れてしまった。冬が来れば外気は凍り、ストーブの入った教室で、一日中本を読んでいても違和感が無くなる季節になり、独りであることを先生が指摘することも無くなった。誰からも鼻つまみ者とされているより、誰とも親しくないだけの孤独の方が、幾分か良い。




