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定め

1996年 ラキア王国 ダガラバダント

 ライアンが目を覚ますと自分が点滴を打たれ、包帯に包まれていることが分かった。

 「起きたか。痛みはどうだ?」と無精ひげを生やした白衣の初老男が聞いてくる。

 「うっ・・・まだ少し痛む。あんたがサイード・カルテルの医者か?」「そうだよ。君のお兄さんから金を貰ってる。何か申し付けたいものがあれば教えてくれ。」「ああ、兄さんと話がしたい。今兄さんは来てるか?」「ああ、いるよ。どうやら刑務所への潜入任務の継続が難しくなったみたいだからな。」「潜入任務?」「ああ。君のお兄さんは現在サイード・カルテルの準構成員なんだ。彼はこの街で政府組織潜入部隊に配置されたみたいだな。刑務官として君のいる刑務所に偶然入ったらしいぞ。」「そうだったのか・・・ふん。」「どうかしたか?」「兄さんはいつもスパイだな。」「ああ、話には聞いてるよ。アメリカではハイチ人に雇用されてソマリア人組織に潜入していたみたいだな。」「・・・兄さんはいつかここの集中治療室に入ることになるかもしれない。ラディ政権は麻薬組織から作り出された政権だろ?奴らがスパイに対してどんな残酷な制裁を下すか分かったものじゃない・・・」「君の言いたいことは分かる。お兄さんにスパイ業務をやめさせたいんだろ?」「ああ。兄さんを説得したい。俺のことは心配する癖に自分のことは・・・」「ああ、その・・・すまないがお兄さんが潜入部隊から移籍しない限り潜入業務を替えることは難しいな。」「は?」「君のお兄さんには選択権はない。不法移民だが私たちサイードがかくまってる。だからお兄さんには上の決定に従って潜入部隊に配属された。それだけの話だ。」「マジかよ・・・くそ、今でさえピンキーライオンズの連中が追ってきてるってのによ!ラディ政権にも・・・くそ!とりあえず兄さんを呼んでくれ!」「分かった。呼んで来よう。」

 医者はパッチドを連れて戻って来た。「すまねえ、兄さんと二人で話したい。」と言うと医者は「はいよ。」と言って出て行った。

 「ライアン、無事に治療を受けられてよかった!」とパッチドは笑みを浮かべる。だがライアンは無表情でいきなり言う。「兄さん、俺はここにいるから逃げろ!サイードの仕事なんてどうでもいいだろ!?」「ああ、どうでもいい。だけど俺はまだ逃げない。」「は、なんでだよ!?サイードの連中は恐らく兄さんの情報をドリアン達にリークしてるぞ。」「そうだろうな。だがお前が全快するまで俺はここを離れないぞ。」「兄さん・・・」ライアンは感激していた。「嬉しいよ兄さん。だけど・・・兄さんが俺を心配しているように俺も兄さんが心配なんだ!俺のためにわざわざ刑務官潜入を切り上げてまで病院搬送してくれたろ!?もう十分だよ兄さん、逃げてくれ!」「ふん。俺は碌な死に方をしないことは分かっていたぜ。お前にはピンキーライオンズの幹部に出世して無事に引退して家でも買って平和に過ごして欲しかった。だけどお前は逃げてきてしまった。俺の望むところではないがお前も碌な死に方をしないだろうな。」「そうだ、だから兄さんが俺を心配しても意味がねえ!」「だがなライアン、俺は怖いんだよ。」「は?」「知らないサイード・カルテルの連中に見つめられる中で一人で死にたくねえ。死ぬなら・・・・お前と一緒だ。」


 外のベンチに座っている医者のところに院長が来た。「ああ、院長!どうしましたか?」「ロベヌンディから連絡だ。あと3時間程でピンキーライオンズの殺し屋が来る。準備をしておけよ。」「承知しました。あの二人を逃がさないようにしておきます。」


 「おいお前、大丈夫か!?」いきなりライアンが立ち上がったのでパッチドは驚いている。「ふん。俺らはどうせ死ぬんだぜ。ギャングの冷たき定めさ。碌な死に方をしない。」「ハハハ、そうだな。」パッチドは笑い、痛みをこらえながら腕の中に飛び込んで来たライアンを抱きしめた。


二時間前 アメリカ共和国 リムソンシティ サン・ドリル地区

 「あら、お帰り!」家の戸口で出迎える妻にデゥラハンはキスをして家に入る。

 中ではアブデイが待っている。「待っていたぞ!」そう言うとデゥラハンはアブデイと抱き合う。

 「パッチドとライアンについては?」そう彼が言ったとき、奥から「本国から連絡があったよ。今奴らの元にあんたが派遣した二人が向かっているという情報があってな。今日中にはあんたの手下は裏切り者を始末できる見通しだな。」と声がしてデックが歩み出てくる。

 「はあ・・・やはり俺を釈放させたのはあんたか?誰を買収した?」「ハハハ・・・大事なのはそこじゃないよデゥラハン、私があんたを釈放させるために色々と動いたという事実が重要だ。」「分かってる!さっさと要件を言え!」「まあそう焦るな。だが結論を言ってしまおう。」「ああ、言え!そしてはやく帰れ!」「簡単な条件だよ。あんたらは我々との関係を自発的に壊したがそれを元通りにしろ。即ちあんたらの主な仕入れ元はサイード・カルテルだ。ゴラウスとは手を切ってくれ。いいな?」「ふん、そういうことか。仕方ねえ。条件を飲んだ。あんたからヤクを仕入れる。ゴラウスはハイチ人と一緒に潰す。」「そう、それでいい。友情が回復して嬉しいよ。」

 外に出たデックは電話を掛ける。「ああもしもしジョナスン?フアレス・カルテルと縁を切ってくれて感謝する。ソマリア人はあんたらを潰すつもりだ。奴らとの取引?再開したよ。私は以前のスリリングだが安定した情勢が好きなんでね。できれば抗争を小競り合い程度に抑えて欲しいがな。ああ、もちろんだ。ソマリア人との関係をどうするかはあんたら次第だ。だけど私はあんたらを信用できるとみなした。ソマリア人はあんたらを潰す気でいるがジョナスン、賢い君なら奴らより広い視野を持っている筈だ・・・」


5時間後 ラキア王国 ダガラバダント

 「ここか?」とドリアンは運転手に聞く。「そうだ。ここにあんたらの裏切り者がいる。医者が外に出さないようにしているらしい。」

 「くそ・・・」と涙を流して嘆くモハドを「仕方ないさ!俺だってこんなことはしたくないが・・・デゥラハンの命令だ。行くぞ!」と鼓舞してドリアンはピストルを抜き出した。

 「あなた達がピンキーライオンズ?」と病院から出てきた看護師が問う。「ああ、そうだ。裏切り者を死刑に処す。」「ええ、分かったわ。彼らは同じ場所にいる。こっちよ。」そう言って彼女は階段を上り始める。その後ろから二人のピンキーライオンズが付いていく。


 ライアンはベッドの上に座っており、その隣にパッチドが腰かけている。二人は黙って座っていたが、どこかリラックスしているようだ。

 そのとき、バタンとドアが空いた。

 「パッチド・・・」涙を浮かべたモハドがピストルを構えている。その後ろからアブデイも入って来た。彼もピストルを握っている。

 「久しぶりだな。」とパッチドが言い、ライアンも「やあ!」と言う。そして二人は抱き合った。

 「くそ・・・いくぞモハド!」涙を流しながらアブデイは引き金を引き、数発ピストルを発射した。モハドも乱射する。

 銃弾は二人の裏切り者を捉えていた。二人の胸に次々と穴が開き、二人はゆっくりベッドから滑り落ちた。

 ピストルの乱射で二人は即死だ。だがその死に顔は笑顔であり、腕はお互いの体に絡みついていたのである。


                                            完

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