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スパイの正体

1995年 リムソンシティ 中央東区

 チカーノギャング「ハルマゲドス」の幹部がメンバーの自宅の庭で会議を開いている。

 「奴らは信用できるか?」と一人の幹部が口を開く。それに対して別の幹部が答える。「信用できるか、といったら全く信用できない。奴らは黒人だ。俺らは基本的に黒人を信用することはねえ。だけどなあ、俺の見立てでは今のところ奴らは危害を加えてこないだろう。供給元のサイード・カルテルが制止してるからな。」「だがそのサイード・カルテルだって信用できねえ。奴らも黒人カルテルだ。」「いや、サイード・カルテルのデックは黒人街の他の脳筋どもとは違う。奴は俺らに争いを仕掛けることが無駄だと知っている。」「そうかなあ・・・まあいい、重装備で奴らに会いに行くぞ。」


30分後 中央区

 「おいおい、こんなところで交換するのか?」と愚痴を言うチカーノ幹部。二人の護衛を引き連れている。それに対して「そうだ。ここは中央区だ。堅気が多く、例えば俺がお前を売ったらすぐに通報される。俺らは互いに手出しができねえのさ。」と答えるのは今現在麻薬の交換が行われようとしているモーテルの所有者であるソマリア系ギャング「ブルーライオンズ」のメンバーだ。彼らも三人いる。

 「あんたらのブツを見せてもらおうか?」とその男が言う。「まずはあんたらのブツを見てからだ。そうしたら俺が持っている袋の中身を見せてやろう。」とチカーノ幹部が言い返す。しばしのにらみ合いのあと、ブルーライオンズ側が折れた。「わかった。よしお前、袋をこっちに・・・」そう言って袋を開けるブルーライオンズの男。

 だが袋の中から取り出したのはライフルだ。「あばよ!」ブルーライオンズの男はチカーノ幹部と二人の護衛を瞬殺した。「こいつのブツを見てみよう。」「はいよ!」ソマリア人達は倒れ込むチカーノ幹部の死体の上に乗っている袋を取り上げて中を覗き込み、歓声を上げる。「こりゃいいね!」

 チカーノが取り扱っているヤクが沢山入っていた。


同時刻 チャイナタウン

 麻薬が保管されている倉庫に手りゅう弾が投げ込まれ、直後に爆発した。トライアドの護衛が吹き飛ばされ、麻薬は燃えた。

 「ボス、やったぜ!」猛スピードで走り去る車の中で笑うのはイエローアサシンズのメンバーだ。


同時刻 サウスドリル

 ハイチギャング「レッドスパロウズ」のメンバー8人は公園でバーベキューを行っていた。「ハハハハ、最近ソマリア人どもは斜陽だな!」「そうだなボス!そろそろ奴らと決着を付けねえとな!」

 そのとき、黒いバンが停まって中からピンクの覆面を付けた四人組が出てくる。全員ライフルを持っていた。「おい見ろ!あいつら・・・うわっ!」一人が頭から血を噴き出して倒れた。その隣の男もちを吐いて倒れる。

 全員倒れたのを見届けると襲撃チームのリーダーパッチドは連絡する。「ボス、今レッドスパロウズを8人殺し・・・えっ?ああ・・・分かった。」電話を切ったパッチドは部下達に言う。「すまねえ。俺をボスの家まで送ってくれ。緊急会議があるらしい。」


20分後

 「シルバーウルフの連中が大量虐殺をしてきやがった!」デゥラハンは怒りに燃える目で言う。「モハド、つらいだろうが話してくれ。」「ああ・・・俺のシマの奴らが守っているアパートをハイチ人どもは襲撃してきやがった。護衛全員死んだ。それから住人も一人な。新人の妻グテーレスだ。ソマリア人の堅気を狙った凶悪な犯行だ。」「嘘・・・・だろ・・・」パッチドは言葉を失った。ライアンとの間に子供が生まれていたのに・・・妊娠中のグテーレスを奴らは遅い、無様に惨殺したのだ。どうやライアンが正当防衛で殺害してしまったメンバーに対する怒りで我を失ったシルバーウルフ幹部のミシェルが首謀者であるようだ。「モハドと俺は奴らのシマへと侵攻したい。そして奴らを全員殺した上でミシェルを捉えて拷問する。お前らはこのプランに対して賛成してくれるか?」「無論だ!グテーレスは俺の義理の妹になる予定だった素敵な女性だ!」パッチドは即座に賛成した。他の幹部達も力強く頷く。

 「よし、決まりだ!シルバーウルフと全面戦争だ!!」とデゥラハンは叫ぶ。


1時間後

 「じゃあ・・これで・・・」モハドが雇った死体処理業者が惨殺されたグテーレスの死体を運び出す。

 ライアンは業者に対して頷くとぐったりとソファに座った。

 ライアンは元々グテーレスのためにギャングに入った。ホームレス状態であったグテーレスと中央区の路地で知り合って引き取ったものの、ライアンも貧乏であったのだ。グテーレスは厳しい家計を支えるために夜の仕事を行っていた。中央区にあるストリップクラブで、安月給で働いていたのだ。だがライアンはグテーレスが水商売で働くことが嫌であった。当時既に裏社会に入っていた兄から水商売の闇について聞かされてきたからだ。彼女を水商売で働かせないためには・・・稼ぐしかない。そう思って彼はピンキーライオンズに入った。

 だが心の支えにしていた彼女は死んだ。生きがいを失った。

 だが落ち込む彼の中に悲しみとは別の感情が湧き上がって来た。どす黒い怒り。シルバーウルフのミシェルがグテーレスを殺した。俺は冷徹なギャングとしてミシェルとその仲間を殺す。ライアンはそう決意した。


同日 真夜中

 サイード・カルテルの麻薬倉庫ではデックに雇われたラキア系ギャング「ラキアンラッツ」が護衛をしていた。

 煙草を吸いながら一人の護衛がもう一人の護衛に愚痴をこぼす。「全く・・・あのデックとかいう野郎、本国ではエリート層出身だからか知らねえけどいけ好かないぜ。」「おいおい、あんまり大きな声で言うなよ。」「だってよお、あの野郎明らかに俺たちを見下してるぜ。俺たちはヤクを買うサイード・カルテルの客だぜ。だがデックは俺らをまるで奴隷のように扱いやがる。」「まあ、そうだな・・・だが奴がヤクの保管と護衛の一部を俺らに任せてくれなかったら俺らラキアンラッツは衰退しちまうぜ。」「まあ、そうかもな。サイード・カルテルには何の恨みもねえ。だけどデックって野郎にはどうも我慢できねえぜ。」「俺も奴のことは好きじゃない。だけど本国のカルテルが奴にアメリカでの供給をデックに任せている以上は仕方ねえだろ!」「ああ・・・おい、あいつらは何者だ!」

 護衛の一人が月光の中で捉えたのは重武装で覆面を付けた四つの人影だ。「おい、止まれ!」二人はすぐさま手に持ったライフルを闖入者に対して構える。だがその瞬間、二人はもう頭から血を流して死んでいた。

 「素人だな。」とスペイン語で覆面のうち一人の男が言い、別の男が笑う。「さあ、行くわよ。中にも護衛がいるかもしれないから気を付けて。」とリーダーらしき女が言い、残りの三人は銃を構えながら前進する。

 小屋の中にいた一人の男は慌てて壁に掛けたライフルを手に取り、入り口に向かう。だがその瞬間、扉がけ破られた。

 「止まれ!」ライフルを侵入者のほうに向けて大声を上げた男の勇敢な行動はしかし無意味だった。先頭に立った女が素早く腰からピストルを抜き取ると護衛の頭を撃ち抜いたのだ。「警備三人か・・・全く馬鹿な奴らだ。」と見下すようにいった女の後に三人の男が続く。「あんたら、袋に入れるだけ入れちまいな!」との号令で男達が棚にあるヤクを次々と袋に放り込んでいく。

 「一杯になりやした!」と男達が重そうな袋を抱えると女は「撤収だ!」と言い、男達は外に出る。彼らに続いて外に出た女は「離れてな。」と言い、何と手りゅう弾を取り出した。彼女はピンを抜くとそれを保管倉庫の中に投げ入れた。

 直後、保管倉庫は爆発で倒壊した。

 「我らフアレス・カルテルの時代だな。」と満足気に女は言うのだった。


翌日

 「ミシェルを捕まえるぞライアン!」とモハドが言う。「奴に地獄を味合わせてやるさ。」と答えたライアンは冷たい怒りと共にモハドの運転する車の助手席に乗る。

 車の後ろには二台のピックアップトラックと三台のバイクが続く。バイクのうち二台はパッチドの手下の者達だ。


 同時刻

 「あいつは・・・大丈夫かな、ボス?」とパッチドはデゥラハンに尋ねる。「ライアンのことか?」とデゥラハン。「ああ。あいつが俺らの仲間になったのはグテーレスを支えるためだった。あいつの活動の源泉が彼女なんだ。」「そうか・・・だがあいつなら大丈夫だ。前を向いている。グテーレスの死に対する怒りをギャング活動に向けている。良い傾向だな。」「ああ、そうか。ボスが言うなら大丈夫だ。」

 その時、インターホンが鳴る。「はい。」とデゥラハンの妻カーサが応答する。

 「リムソン市警組織犯罪捜査課のパック警部補です。お聞きしたいことがあるので署に来ていただけませんか?」

 驚いた顔でデゥラハンとパッチドは顔を見合わせた。


30分後 行政特別区 リムソン市警本部

 「さて・・・こちらの部屋へ。」パックはデゥラハンを連れて取調室に入る。

 部屋の中にはもう一人刑事がいた。「レイエス警部です。まあ、お座り下さい。」とその刑事は言う。

 「何の用です?」とぼやいてデゥラハンはどっかりと椅子に腰を下ろす。向かいに座ったレイエス警部はにやりと笑った後に言う。「まずはいくつかの音声を聞いてもらいましょう。」

 そうして彼は机の上にある機器の電源を入れた。そこから流れた音声を聞き、デゥラハンは思わず「あ!」と声を上げてしまった。今までの幹部会議で話された内容。麻薬取引について、敵ギャングをどのようにして血祭に上げるか、ムショ内の仲間について・・・

 「情報提供者に依頼してあなたの家に設置させました。これについて弁明があればどうぞ?」「お、おい・・・情報提供者って誰だ!?」「申し訳ないが・・・守秘義務というものがありましてな・・・教えられんのですよ。」とパック刑事。「それよりこれらの犯罪行為について説明願えますか?」

 デゥラハンはさすがギャングのボスだ。ここで「黙秘する」と言ってのけた。二人の刑事は顔を見合わせる。「俺はあんたらが情報提供者を言うまで黙秘するぞ!」とデゥラハンはテーブルを叩いて叫ぶ。

 「外で話し合おう」とレイエス刑事が言ってパック刑事が頷く。


同時刻

 「パッチドが言ってたが、このレストランのオーナーはミシェルである可能性が高いとさ。」とモハド。「野郎はいつもここで食事をするんだとかな。昼時だ。そろそろ現れるだろうな。」

 そして案の定車が止まる。中からミシェルだ。

 「俺がやる!」と飛び出そうとしたライアンをモハドが止める。「待て、ライアン!」「何でです!?」「あいつは簡単に死なせねえ。俺と手下が捕縛する。アジトに連れて帰ったらお前に拷問させてやろう。お前は店の従業員どもをやってこい!」「・・・ああ、分かった。」ライアンは立ち上がり、「ピンキーライオンズだ!」とドアを蹴り破った。

 「あん?」ライアンの目には誰もいないレストラン店内が映った。「OPEN」となっているにも関わらず客はおろかコックも従業員も用心棒もいない。無人だ。「どういうことだ?」とライアンの後から入って来たバイニーが言う。「と、とりあえず爆破だ。モハドと手下がミシェルを確保した。奴がどうやらこの店はミシェルの父親が創業者らしい。奴に父親から受け継いだこの店が爆発する様子を見せてやろう。」

 外では猿轡を掛けられたミシェルが銃を突き付けられた車の側面に立たされていた。「俺らにやったことの報いさ。」と言ってモハドが手りゅう弾を窓から店内に投げ込んだ。店が爆発音を発生させ、一瞬にして炎に包まれる。

 涙目になって睨みつけてくるミシェルにつかつかと近づき、ライアンは唾を浴びせかけると静かに車に乗り込んだ。


20分後

 ミシェルはピンキーライオンズのシマ内にあるh995年 リムソンシティ 中央東区

 チカーノギャング「ハルマゲドス」の幹部がメンバーの自宅の庭で会議を開いている。

 「奴らは信用できるか?」と一人の幹部が口を開く。それに対して別の幹部が答える。「信用できるか、といったら全く信用できない。奴らは黒人だ。俺らは基本的に黒人を信用することはねえ。だけどなあ、俺の見立てでは今のところ奴らは危害を加えてこないだろう。供給元のサイード・カルテルが制止してるからな。」「だがそのサイード・カルテルだって信用できねえ。奴らも黒人カルテルだ。」「いや、サイード・カルテルのデックは黒人街の他の脳筋どもとは違う。奴は俺らに争いを仕掛けることが無駄だと知っている。」「そうかなあ・・・まあいい、重装備で奴らに会いに行くぞ。」


30分後 中央区

 「おいおい、こんなところで交換するのか?」と愚痴を言うチカーノ幹部。二人の護衛を引き連れている。それに対して「そうだ。ここは中央区だ。堅気が多く、例えば俺がお前を売ったらすぐに通報される。俺らは互いに手出しができねえのさ。」と答えるのは今現在麻薬の交換が行われようとしているモーテルの所有者であるソマリア系ギャング「ブルーライオンズ」のメンバーだ。彼らも三人いる。

 「あんたらのブツを見せてもらおうか?」とその男が言う。「まずはあんたらのブツを見てからだ。そうしたら俺が持っている袋の中身を見せてやろう。」とチカーノ幹部が言い返す。しばしのにらみ合いのあと、ブルーライオンズ側が折れた。「わかった。よしお前、袋をこっちに・・・」そう言って袋を開けるブルーライオンズの男。

 だが袋の中から取り出したのはライフルだ。「あばよ!」ブルーライオンズの男はチカーノ幹部と二人の護衛を瞬殺した。「こいつのブツを改めるぞ。」「はいよ!」ソマリア人達は倒れ込むチカーノ幹部の死体の上に乗っている袋を取り上げて中を覗き込み、歓声を上げる。「こりゃいいね!」

 チカーノが取り扱っているヤクが沢山入っていた。


同時刻 チャイナタウン

 麻薬が保管されている倉庫に手りゅう弾が投げ込まれ、直後に爆発した。トライアドの護衛が吹き飛ばされ、麻薬は燃えた。

 「ボス、やったぜ!」猛スピードで走り去る車の中で笑うのはイエローアサシンズのメンバーだ。


同時刻 サウスドリル

 ハイチギャング「レッドスパロウズ」のメンバー8人は公園でバーベキューを行っていた。「ハハハハ、最近ソマリア人どもは斜陽だな!」「そうだなボス!そろそろ奴らと決着を付けねえとな!」

 そのとき、黒いバンが停まって中からピンクの覆面を付けた四人組が出てくる。全員ライフルを持っていた。「おい見ろ!あいつら・・・うわっ!」一人が頭から血を噴き出して倒れた。その隣の男もちを吐いて倒れる。

 全員倒れたのを見届けると襲撃チームのリーダーパッチドは連絡する。「ボス、今レッドスパロウズを8人殺し・・・えっ?ああ・・・分かった。」電話を切ったパッチドは部下達に言う。「すまねえ。俺をボスの家まで送ってくれ。緊急会議があるらしい。」


20分後

 「シルバーウルフの連中が大量虐殺をしてきやがった!」デゥラハンは怒りに燃える目で言う。「モハド、つらいだろうが話してくれ。」「ああ・・・俺のシマの奴らが守っているアパートをハイチ人どもは襲撃してきやがった。護衛全員死んだ。それから住人も一人な。新人の妻グテーレスだ。ソマリア人の堅気を狙った凶悪な犯行だ。」「嘘・・・・だろ・・・」パッチドは言葉を失った。ライアンとの間に子供が生まれていたのに・・・妊娠中のグテーレスを奴らは遅い、無様に惨殺したのだ。どうやライアンが正当防衛で殺害してしまったメンバーに対する怒りで我を失ったシルバーウルフ幹部のミシェルが首謀者であるようだ。「モハドと俺は奴らのシマへと侵攻したい。そして奴らを全員殺した上でミシェルを捉えて拷問する。お前らはこのプランに対して賛成してくれるか?」「無論だ!グテーレスは俺の義理の妹になる予定だった素敵な女性だ!」パッチドは即座に賛成した。他の幹部達も力強く頷く。

 「よし、決まりだ!シルバーウルフと全面戦争だ!!」とデゥラハンは叫ぶ。


1時間後

 「じゃあ・・これで・・・」モハドが雇った死体処理業者が惨殺されたグテーレスの死体を運び出す。

 ライアンは業者に対して頷くとぐったりとソファに座った。

 ライアンは元々グテーレスのためにギャングに入った。ホームレス状態であったグテーレスと中央区の路地で知り合って引き取ったものの、ライアンも貧乏であったのだ。グテーレスは厳しい家計を支えるために夜の仕事を行っていた。中央区にあるストリップクラブで、安月給で働いていたのだ。だがライアンはグテーレスが水商売で働くことが嫌であった。当時既に裏社会に入っていた兄から水商売の闇について聞かされてきたからだ。彼女を水商売で働かせないためには・・・稼ぐしかない。そう思って彼はピンキーライオンズに入った。

 だが心の支えにしていた彼女は死んだ。生きがいを失った。

 だが落ち込む彼の中に悲しみとは別の感情が湧き上がって来た。どす黒い怒り。シルバーウルフのミシェルがグテーレスを殺した。俺は冷徹なギャングとしてミシェルとその仲間を殺す。ライアンはそう決意した。


同日 真夜中

 サイード・カルテルの麻薬倉庫ではデックに雇われたラキア系ギャング「ラキアンラッツ」が護衛をしていた。

 煙草を吸いながら一人の護衛がもう一人の護衛に愚痴をこぼす。「全く・・・あのデックとかいう野郎、本国ではエリート層出身だからか知らねえけどいけ好かないぜ。」「おいおい、あんまり大きな声で言うなよ。」「だってよお、あの野郎明らかに俺たちを見下してるぜ。俺たちはヤクを買うサイード・カルテルの客だぜ。だがデックは俺らをまるで奴隷のように扱いやがる。」「まあ、そうだな・・・だが奴がヤクの保管と護衛の一部を俺らに任せてくれなかったら俺らラキアンラッツは衰退しちまうぜ。」「まあ、そうかもな。サイード・カルテルには何の恨みもねえ。だけどデックって野郎にはどうも我慢できねえぜ。」「俺も奴のことは好きじゃない。だけど本国のカルテルが奴にアメリカでの供給をデックに任せている以上は仕方ねえだろ!」「ああ・・・おい、あいつらは何者だ!」

 護衛の一人が月光の中で捉えたのは重武装で覆面を付けた四つの人影だ。「おい、止まれ!」二人はすぐさま手に持ったライフルを闖入者に対して構える。だがその瞬間、二人はもう頭から血を流して死んでいた。

 「素人だな。」とスペイン語で覆面のうち一人の男が言い、別の男が笑う。「さあ、行くわよ。中にも護衛がいるかもしれないから気を付けて。」とリーダーらしき女が言い、残りの三人は銃を構えながら前進する。

 小屋の中にいた一人の男は慌てて壁に掛けたライフルを手に取り、入り口に向かう。だがその瞬間、扉がけ破られた。

 「止まれ!」ライフルを侵入者のほうに向けて大声を上げた男の勇敢な行動はしかし無意味だった。先頭に立った女が素早く腰からピストルを抜き取ると護衛の頭を撃ち抜いたのだ。「警備三人か・・・全く馬鹿な奴らだ。」と見下すようにいった女の後に三人の男が続く。「あんたら、袋に入れるだけ入れちまいな!」との号令で男達が棚にあるヤクを次々と袋に放り込んでいく。

 「一杯になりやした!」と男達が重そうな袋を抱えると女は「撤収だ!」と言い、男達は外に出る。彼らに続いて外に出た女は「離れてな。」と言い、何と手りゅう弾を取り出した。彼女はピンを抜くとそれを保管倉庫の中に投げ入れた。

 直後、保管倉庫は爆発で倒壊した。

 「我らフアレス・カルテルの時代だな。」と満足気に女は言うのだった。


翌日

 「ミシェルを捕まえるぞライアン!」とモハドが言う。「奴に地獄を味合わせてやるさ。」と答えたライアンは冷たい怒りと共にモハドの運転する車の助手席に乗る。

 車の後ろには二台のピックアップトラックと三台のバイクが続く。バイクのうち二台はパッチドの手下の者達だ。


 同時刻

 「あいつは・・・大丈夫かな、ボス?」とパッチドはデゥラハンに尋ねる。「ライアンのことか?」とデゥラハン。「ああ。あいつが俺らの仲間になったのはグテーレスを支えるためだった。あいつの活動の源泉が彼女なんだ。」「そうか・・・だがあいつなら大丈夫だ。前を向いている。グテーレスの死に対する怒りをギャング活動に向けている。良い傾向だな。」「ああ、そうか。ボスが言うなら大丈夫だ。」

 その時、インターホンが鳴る。「はい。」とデゥラハンの妻カーサが応答する。

 「リムソン市警組織犯罪捜査課のパック警部補です。お聞きしたいことがあるので署に来ていただけませんか?」

 驚いた顔でデゥラハンとパッチドは顔を見合わせた。


30分後 行政特別区 リムソン市警本部

 「さて・・・こちらの部屋へ。」パックはデゥラハンを連れて取調室に入る。

 部屋の中にはもう一人刑事がいた。「レイエス警部です。まあ、お座り下さい。」とその刑事は言う。

 「何の用です?」とぼやいてデゥラハンはどっかりと椅子に腰を下ろす。向かいに座ったレイエス警部はにやりと笑った後に言う。「まずはいくつかの音声を聞いてもらいましょう。」

 そうして彼は机の上にある機器の電源を入れた。そこから流れた音声を聞き、デゥラハンは思わず「あ!」と声を上げてしまった。今までの幹部会議で話された内容。麻薬取引について、敵ギャングをどのようにして血祭に上げるか、ムショ内の仲間について・・・

 「情報提供者に依頼してあなたの家に設置させました。これについて弁明があればどうぞ?」「お、おい・・・情報提供者って誰だ!?」「申し訳ないが・・・守秘義務というものがありましてな・・・教えられんのですよ。」とパック刑事。「それよりこれらの犯罪行為について説明願えますか?」

 デゥラハンはさすがギャングのボスだ。ここで「黙秘する」と言ってのけた。二人の刑事は顔を見合わせる。「俺はあんたらが情報提供者を言うまで黙秘するぞ!」とデゥラハンはテーブルを叩いて叫ぶ。

 「外で話し合おう」とレイエス刑事が言ってパック刑事が頷く。


同時刻

 「パッチドが言ってたが、このレストランのオーナーはミシェルである可能性が高いとさ。」とモハド。「野郎はいつもここで食事をするんだとかな。昼時だ。そろそろ現れるだろうな。」

 そして案の定車が止まる。中からミシェルだ。

 「俺がやる!」と飛び出そうとしたライアンをモハドが止める。「待て、ライアン!」「何でです!?」「あいつは簡単に死なせねえ。俺と手下が捕縛する。アジトに連れて帰ったらお前に拷問させてやろう。お前は店の従業員どもをやってこい!」「・・・ああ、分かった。」ライアンは立ち上がり、「ピンキーライオンズだ!」とドアを蹴り破った。

 「あん?」ライアンの目には誰もいないレストラン店内が映った。「OPEN」となっているにも関わらず客はおろかコックも従業員も用心棒もいない。無人だ。「どういうことだ?」とライアンの後から入って来たバイニーが言う。「と、とりあえず爆破だ。モハドと手下がミシェルを確保した。奴がどうやらこの店はミシェルの父親が創業者らしい。奴に父親から受け継いだこの店が爆発する様子を見せてやろう。」

 外では猿轡を掛けられたミシェルが銃を突き付けられた車の側面に立たされていた。「俺らにやったことの報いさ。」と言ってモハドが手りゅう弾を窓から店内に投げ込んだ。店が爆発音を発生させ、一瞬にして炎に包まれる。

 涙目になって睨みつけてくるミシェルにつかつかと近づき、ライアンは唾を浴びせかけると静かに車に乗り込んだ。


20分後

 ミシェルはピンキーライオンズのシマ内にある「ラッグ爺さんの修理工場」の倉庫に拉致された。

 ライアンはモハドが指示するままペンチやナイフ、ハンマー、硫酸やガソリンなどを運んできた。倉庫の持ち主である違法改造屋のラッグも手伝う。

 「さてと・・・」モハドは椅子に縛り付けられている男を睨みつけて言う。「落とし前、付けてもらうぜ。」ミシェルは涙目でもがく。「許してくれ!」と言っているように見える。

 モハドはいきなりライアンに向く。「グテーレスの恨みを晴らせ。」「え、俺が?」「当たり前だろ?こいつは俺の仲間も殺したが目的はあくまでもグテーレスだ。それに・・・あんたはもう新人じゃねえ。拷問くらいできるようにしておけよ。」

 ライアンはモハドから強い圧を感じた。「わ、分かった・・・」と言ってハンマーを手に取り、ミシェルの手を砕いた。ミシェルが叫び声を上げた。「俺の・・・妻もそうやって叫んだのかもな。」と泣きながら言ったライアンはさらに腕にハンマーを振り下ろす。

 その後彼は硫酸を手に取り、ミシェルの頭からかけた。ミシェルから臭気が立ち上る。

 そのとき、ラッグが入って来た。「モハド、アブデイから電話だ。緊急の会議だとよ。」


10分後

 会議はデゥラハンの家で行われたが、デゥラハンはいなかった。

 アブデイは開口一番衝撃的なことを口にする。「デゥラハンがサツに捕まった。」「何だと!確かに奴らが連れ去るのを見たが・・・」とパッチド。「ああ。デゥラハンは取り調べでサツに決定的な証拠を突きつけられ・・・今留置場だろうな。」「お、おいどういうことだよ?」とモハド。

 「サツの奴ら・・・ネズミを用意してやがったんだ。幹部の中にな。そいつが盗聴器をこの家に仕掛けていた。デゥラハンは盗聴器を見つけたが、俺らには黙っていた。俺ら全員が容疑者だからな。ライアンに色々調べさせていたようだが・・・サツの口から聞くまでネズミの正体を知らなかったみてえ。」

 一同に緊張が走る。この中の誰かがスパイだということだ。そしてデゥラハンからの連絡でアブデイはそれを知っている。当然、ネズミは粛清だ。

 だがアブデイは衝撃的な内容を口にする。「ネズミは・・・アブデゥライだ。降格される前に盗聴器を仕掛けていたようだ。まあ奴の父親とデゥラハンは生前あまり仲が良くなかったからな。アブデゥライの父親はイタリア人の殺し屋に殺されたことが分かっているが奴はデゥラハンが裏で糸を引いていると思ったらしい。」「それで・・・裏切ったのか?」「ああ。そうらしい。」「で、ボスは全て自供したのか?」「ああ。だが・・・奴は優しい。あいつが全ての罪を被った。サツはとりあえずはボスを逮捕した手柄を上げたから俺らまでは捜査しない見込みだとよ。」そう言うとアブデイは相好を崩して泣いた。

 

 


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