9話 イルムの手先
僕は魔法陣をもう一つ作ると、ドラゴンを召喚した。
光り輝く魔法陣からドラゴンが現れた。今回は最強のブラックドラゴンだ。
「……」
3人とフェンリルは呆気に取られたようである。
「おお、本当にドラゴンを召喚してくれたんだな」
アイリスはドラゴンに近寄って頬擦りしていた。
「初めまして我が主」
「ああ、これからもよろしくな」
アイリスが頬擦りを堪能した後、私はブラックドラゴンに命じて魔法陣に帰ってもらった。
「今回はアイリスの要望もあったからドラゴンを出してみた」
「凄いわね、ニコル。あなたこの国最高の魔法使いじゃない? 」
「そんな事はないよ。僕はただの冒険者だよ」
そして僕達は小さくなったフェンリルを連れて宿屋に戻ることにした。
「ねえ、このフェンリルにも名前が必要じゃない」
「そうかもね。何かいい名前はある? 」
「そうね、ガルなんてどうかしら」
「どうだ? ガルでいいか? 」
「我はそれで構わない」
こうしてフェンリルの名前はガルに決まった。
そして僕達はトリムの街を拠点として依頼を受けることにした。
僕達はいくつかの依頼をこなしていった。
そしてある依頼を受けることになった。
その依頼は教会からで、地下水路に物音がする調査だった。
僕達は依頼を受けると、地下水路の入り口に向かった。
「レオン、こんなところに入るの? ネズミもいるよ」
シャルが言った。
「まあ、依頼だからしょうがないだろ」
そして地下水路に入っていった。
『ライト』の魔法で明るくはなったが、地下水路は不気味である。
時折ネズミが現れてはシャルが悲鳴をあげた。
コツコツと足音を立てて僕達は地下水路の奥へと入っていった。
地下水路を進んでいき、随分奥に入ったところで僕は異変を感じた。
「こんなところに魔法陣が描かれている」
「不思議ね」
クレアが言った。
さらに奥に進んでいくと、なんと街の中だと言うのにスケルトンが現れた。
僕は、ファイアボールの魔法でスケルトンを退治していく。
「なんで、こんなところにスケルトンが? 」
不思議だ。魔法陣といい、スケルトンといい。
そして、さらに進んでいくと、地下水路には不自然な大きな部屋があった。
扉を開けて中に入ると、そこにはスケルトンの大群がいた。
クレアが壁になってみんなを守る一方で、アイリスは次々とスケルトンを倒していく。
僕も皆に『鉄壁』『疾風』をかけた後、ファイアボールで援護する。シャルは棍棒でスケルトンを叩き潰していた。ガルも少し大きくなってスケルトンに噛み付いた。
そして10分もたった頃、あたりのスケルトンは全て倒すことができた。
「いい連携だったな」
アイリスが言う。
確かにいい連携だった。これならばかなりの強敵でも倒せるだろう。
スケルトンがいなくなった部屋の奥から異様な魔力が満ちて来た。
「これはようこそ、皆さん。ここまでたどり着くとはなかなかやりますね」
声の方を見ると、ローブを着た魔物がいた。
「何者だ? 」
「私の名はイルム様に生命を与えられたリッチ。この地下水路を拠点にしてトリムの街を滅ぼすつもりだったのですよ」
イルム! それは大魔法使いドリスの記憶の中にある人物だ。
「イルムがこの世界にいるのか! 」
「左様。イルム様はドリスというかつての師によって、無限の次元の狭間に落とされた後、数万年の間苦しまれました。そしてやっとの思いで、この世界にやってくることができたのです。全てはドリスを殺すため、いや、今度は彼に無限の次元の間の地獄を味わってもらうことがイルム様の目的でございます」
「僕が大魔法使いドリスの生まれかわりだったとしたら」
「ほう、確かにその魔力量、只者ではありませんね」
リッチは僕を警戒しはじめた。
「まずは小手調べです」
リッチは片手をあげると『ファイアストーム』の魔法を唱えはじめた。
僕の中で警戒の信号が鳴り始めた。
すぐさま僕はみんなの周りに『魔法障壁』を三重に唱え『ファイアストーム』に備えた。
リッチの唱えた『ファイアストーム』はすざましい威力で、僕の『魔法障壁』は三重のうち2つまでが破られたが、なんとか皆に怪我を負わす事はなかった。
「ほう、なかなかやるな。ならばこれはどうだ? 」
リッチは魔法陣を展開し、両手をあげて魔法を唱えようとした。
これは『エクスプロージョン』の魔法を唱えようとしている。これは防げない。禁断のドリスを解放するべきなのか?
しかし、リッチが魔法を唱え終わる前に、『疾風』の効果が効いていたアイリスがリッチの首をはねた。
「ふん、ニコル一人ではないんでな」
首のなくなったリッチはよろよろと歩くと、自分の首を探して自分の首を元に戻した。
「どうやらダメージを受けすぎたようです。私はもうすぐ消えるでしょう。しかし、イルム様の恨みは深い。必ずやドリス、貴様をイルム様は倒すでしょう」
リッチはそう言うと、体が砂のようになり、消えていった。