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5 変身!

 翌々日の昼、招集が掛かった。たかしは大学の地下にある秘密基地とやらを訪れる。古びた長机とパイプ椅子しかなかった部屋の奥に、大型モニターが設置されていた。これを使って作戦の説明をするのだろう。


 部屋には赤沢と青松しかいなかった。白鳥は例によって遅刻しているらしく、ナマポンが迎えに行っている。部屋に入るなり、赤沢が声を掛けてくる。


「この間は世話になったな。また一緒にどこか行こう」


「おう。行けたら行くよ」


 赤沢はなぜかウキウキと上機嫌だが、たかしとしては二度とごめんである。本当に誘われたら適当な理由をつけて断ろう。


 たかしが着席すると、ようやく白鳥が現れた。


「ごめ~ん! 遅れちゃった!」


「全く白鳥には困ったものだな……。始めよう。ナマポン、頼む」


「はい、任されましたァ! これから皆さんには敵の行動を阻止してもらいまァァァァァす!」


 ナマポンが叫ぶと同時に、モニターに市内の地図が映る。とあるマンションの一角が、赤く点滅していた。


「マスクの情報をハッキングして、敵がこの地点を攻撃するという情報を掴んだのでェす! 待ち伏せして、一気に殲滅するチャンスですよォ!」


「質問してもいいかな?」


 青松が手を挙げた。


「なんですかァ、青松君」


「こっちに来てるマスクっていくつあるの?」


「四つですねェ。それがどうかしたんですかァ?」


 バランスを取るため、変身アイテムの腕時計も送られたのは四つということだった。青松はさらに問う。


「じゃあ、今日出てくる相手が何体かってわかるかい?」


 ようやく青松が何を訊きたいのか、たかしも理解した。敵の戦力を分析しているのだ。ナマポンは答える。


「稼働が確認されているマスクは二つなので、おそらく二体ですねェ。ただ、暴走状態にあると考えられるので、皆さんより強いと思いますよォ!」


 たかしたちの変身システムはニート撲滅マスクを改造して作成されているが、敵と同等ではない。たかしたちは連携して、確実に一体ずつ敵を倒さなければならない。


「今さら四の五の言っても仕方ない。現れた敵は全て倒す。それしかないだろう」


 赤沢は一刻も早く現場に向かいたいようで、議論を深めることなく打ち切った。まぁいいだろう。これ以上は、現場でやってみなければわかるまい。




 現場へは車で向かうことになった。ナマポンが支給してくれたわけではない。白鳥の私車で、真っ白に磨かれたランボルギーニだ。ウン千万の代物ではないだろうか。


 助手席に座りながら、たかしは尋ねる。


「……ひょっとして白鳥の家って、金持ちなのか?」


「普通だと思うけど? ママが車好きだったから、いいのに乗ってるだけだよ。私が自分で買うときは、普通の軽かなあ?」


 白鳥は皆が乗り込んだのを確認してから車を発進させ、運転しながらたかしとの話を続ける。


「……ちなみに親はどんな仕事してるんだ?」


「二人ともお医者さんだったよ」


 聞けば白鳥は新しく建った駅前のマンションに住んでいるという。どう考えてももの凄いお金持ちだった。しかし過去形なのはどういうことだ。


「うちのパパもママも、死んじゃったから」


「えっ、そうなのか!? わ、悪い……」


「ううん。二人ともよくがんばったと思うけど、限界だったから。きっとあの世で仲良くしてるよ」


 白鳥の両親は三年前、相次いでガンと脳卒中で倒れ、闘病生活を送ることとなった。一人娘の白鳥は大学を辞めて両親を介護したが、その甲斐なく去年二人ともこの世を去った。


「ほんと、辛かったなぁ……。一緒にいて、ちょっとずつ死に向かって進んでくのがわかっちゃうの。もうすぐ定年で、やっとやりたいことができるようになりそうだったのにさ……」


 白鳥は努めて明るい声で言う。


「だから今、私はやりたいことをやってるの! 舞台関係の仕事をするために、今は勉強中! ライブや舞台も、そのために行ってるんだからね!」


 親の遺産で資金はたっぷりあった。しばらくは好きなことをしていても生きていける。ゆっくりと白鳥は、自分の道を捜しているのだった。


 たかしは声に出さず言う。おい、赤沢。聞いているか? おまえより白鳥の方が百万倍偉いと思うぞ。


 サイドミラーに映っている赤沢は、不機嫌そうに外の風景を眺めているばかりだった。




 やがて車は現地に到着する。白鳥は目標のマンションの駐車場に無断駐車し、四人はマンションの前に集合した。昼間ということでマンション前は閑散としており、敵どころかネコ一匹歩いていない。


「ナマポン、敵はどこにいるのだ?」


 赤沢の呼びかけに応じてナマポンが現れ、その場で360°回転し、敵を捜す。


「敵は……もうすでにマンションに侵入していまァす!」


 ナマポンが叫んだ瞬間、マンション最上階の窓ガラスが割れた。たかしたちは慌ててマンションから離れ、落ちてくるガラスを避ける。


 見上げれば、バルコニーには二体の怪人がいた。


 一体目は、それこそ戦隊シリーズに出てきそうな、怪人らしい怪人だ。ずんぐりむっくりしたマンモス型の怪人で、大きな顔からは長い鼻と牙を伸ばしている。腕や足はレスラーや相撲取りのように太く、いかにもパワーがありそうだ。毛皮の服を着ているが、胸は膨らんでいるのでどうやらメスマンモスらしい。


 二体目は、戦隊シリーズで最近あまり見ないセクシー系女幹部が、顔を隠すヘルメットをかぶったような怪人だ。大きな胸を強調するような黒基調のピチピチのスーツを着て背中にマントを流し、前面に蝶の意匠を施したフルフェイスヘルメットをかぶっている。ヘルメットの隙間からは銀色の長髪がこぼれていた。


 ちなみにセクシー系女幹部が戦隊であまり出てこなくなったのは、アメリカで放送するパワーレンジャーの方に流用できないからだ。着ぐるみなら流用できるので、最近は着ぐるみ幹部が多いというわけである。


 赤沢が声を張り上げ、二人の怪人に尋ねる。


「貴様らが私たちの敵か!」


 マンモス型怪人と女幹部型怪人は答えた。


「いかにも、我こそがニート撲滅団行動隊長、ムダメシン」


「私は作戦隊長、ニジヨメン。私たちの邪魔をするというなら、消えてもらおう!」


 女幹部型怪人、ニジヨメンは犬のぬいぐるみをバルコニーから大量にばらまく。ぬいぐるみは犬のかぶり物をした戦闘員、ハロワーンとなる。ハロワーンは簡単に呼び出せるらしい。


「みんな! 変身するぞ!」


「おう!」


 赤沢の声に応えたのはたかしだけだった。四人は並んで腕時計の針を逆向きに回し、変身する。




「「「「変身!」」」」




 四人の体にスーツと涙ラインのついたヘルメットが装着される。四人は次々とポーズを決めながら名乗りを上げた。




「終わらないたった一人の受験戦争! 私が受からないのは在日が悪い! ルサンチマンの戦士、ネトウヨレッド!」


「リアルなんて知ったことか! 俺の居場所はファンタジー! 現実逃避の戦士、ネトゲブルー!」


「親に迷惑なんのその! 就活はとうの昔に捨てた! モラトリアムの戦士、留年イエロー!」


「遊び歩くのは自分への投資! 世界は私に絶対優しい! 堕落と怠惰の戦士、すねかじりホワイト!」


「「「「四人揃って、ニート戦隊みんな死ぬンジャー!」」」」

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