53話 Epilogue
こうして、王位継承権争いは幕を閉じた。勝ち残ったのはアキュレス・エイデン。彼が、次期王に決定となった。
エイデン侯爵以外の領主は皆、命を落としてしまった。それ故、彼らの代わりに王とササイが公務を受け持つこととなり、アキュレス達は正式に王族になるとして、エイデン邸からアルヴァディア城へと引っ越したのであった。
【次期王はアキュレス・エイデン氏に決定!!密かに行われていた王位継承権争いの真実とは…!!】
世間には王位継承権争いの事実が公表され、上記のような文言が暫くの間ひっきりなしに飛び交い、国民は皆驚愕した。
しかし新しい王の誕生、しかもそれがエイデン侯爵であれば尚更、大いに喜んだのである。それは普段からのアキュレスの信頼度、そして王になって初めての挨拶が国民の心に響いたのだ。
「……ゴホンッ。国民の皆さん、アキュレス・エイデンです。急にこのような事態に混乱されているかと思います。ですが……。
ああ、だめだ。私にはとてもじゃないけど素晴らしい演説などできないね……。
皆さん、私は決して生半可な気持ちで王になる事を決めたわけではありません。プロメス王にお力を借りながらも、皆さんの生活がより良いものとなるよう頑張って参りますので、どうか、どうかよろしくお願い致します」
ニッコリと笑う新王に、女性は頬を染め、男性は『これでプロメス王のワガママに付き合わなくて済むぞ……』と歓喜した。彼の飾らない素直な気持ちが、国民に伝わったのである。
引っ越してきた彼らは、とても忙しい日々を送っていた。王族への受け入れて続き、公務の引き継ぎ、隣国への挨拶等々、争いを振り返る暇さえなかったのだ。
ひとまず記憶が戻らないナツには全ての事情を説明し、ハルバードは困惑する彼女をパートナーとして懸命に支えていた。
◇
そして二週間程経ったある日、神代ナツが目を覚ましたのは、床の上であった。
横を見るとベッドが佇み、その奥には足を上げている男性が見える。
ナツは蹴られた個所を擦りながら起き上がった。
「痛いですよ"ハルバードさん"……」
「うるさい、いつまで寝ているんだこの愚図」
ハルバードは紅い瞳を光らせながら彼女を鋭く睨んでいる。
何故彼がナツをこのように扱っているのかと言えば、その理由はナツが前日の夜に全てを思い出したからである。
ハルバードがバグリー公爵夫人に殺されそうになり、魔法を全て解放し、気が付いたら記憶をなくし、そして記憶がない間の数日間の出来事まで、ナツは全てを思い出した。
それを見たアキュレス達は、心底安堵した。ハルバードは特に、である。
彼女もまた、心配かけてごめんなさいと彼らに謝り、そしていつもの"エイデン家"に戻ったのであった。
「す、すみません……てか、昨日まであんなに優しかったのに! ひどい!」
「やかましい、とっとと着替えろ。それとも……手伝ってほしいか?」
ハルバードがいつものようにからかうと、ナツの顔は懲りずに赤く染まる。
しかしその瞬間、彼女はある重大なことに気が付いた。
「い、いいです! もうっ、もうっ! ……ハッ!」
(そ、そういえば私……ハルバードさんに告白、したんだったよね……?)
告白だけではなく一方的にキスをしたことまで思い出され、さらに顔は紅潮する。
ナツは、彼女自身が気を失っている時に、ハルバードも同じ事をしたことには気が付いていない。
そんな彼女を見て、ハルバードは『そうだ……』と小さく言ったかと思えば、彼女を強引に抱き寄せ、
キスをした。
「んぅっ……!?」
その数秒間では、ナツには何が起きたか全く理解できていない。
そしてハルバードはナツから唇を離すと、これまた色気全開でこう宣言した。
「……はっ、私の心を掴んだ罪は重いぞナツ。
"覚悟"をしろよ?」
そう言って満足そうな顔をし、ヒラヒラと手を振りながら部屋を出ていくハルバードを、ナツはボケーっと見ていたかと思えば、今されたことについての実感が徐々に湧き、ボフンッ!と真っ赤に爆発した。
パクパクと口を開け閉めさせ、言葉が全く発せられない。
いくらハルバードだからといえど、冗談で唇に軽々しくキスをするような男ではないことは、ナツが一番わかっている。
とどのつまり、両思いという事である。
「ほ、ほん……と? ゆめじゃないの……?」
ナツは熱すぎる頬を両手で押さえ、もう一度ベッドへダイブした。
ジタバタしていたのもつかの間、もう一度ガチャリと扉が開き、ハルバードが顔を覗かせながら彼女を急かす。
「おい、あまり"王"を待たせるなよ?」
「あっ、そうだった……!!」
慌ててベッドから降りたナツを見ると、今度こそハルバードはアキュレスとフユーデルの待つ部屋へと向かって行く。
遠ざかる足音を聞きながら、ナツは急いで支度をし、ハルバードを追いかけるために部屋を飛び出した。
「ハルバードさんっ、待ってください!」
「何だ、早いな。普段からそうやってキビキビと動けノロマ……何が可笑しい」
「え? えへへ〜だって……」
今とっても幸せだからですっ!
大好きです、ハルバードさんっ! えへへっ!
ニッコリと笑って大胆にも『大好き』というナツを見て、ハルバードは暫し固まっていた。
「…………はぁ」
「な、なんでため息つくんですか!!」
「うるさい、さっさと行くぞ」
「ああ、待ってください! 早い!」
スタスタと歩くハルバードの背中を、ナツは嬉しそうに追いかける。
(嗚呼、これは重症だな……私も墜ちたものだ)
ハルバードは口元を手で押さえながら、ナツには決して見えないように、ほんの、ほんの少しだけ頬を染めた。
◇
「おはよう、ナツ、ハル」
「もー、遅いよ二人とも!」
大分豪華になった食堂には、アキュレスとフユーデルが二人を待っていた
「こいつがグズグズしてるから遅くなった」
「も、もう! ひどい!」
「ふふ、やっといつもの朝に戻ったね」
「そうだねー。ナッちゃん、今日デート……」
「ダメだよフユーデル」
「ちぇー」
「ふふっ、あははっ! やっぱり私、この世界に来て良かったです。確かに辛いことや悲しいこともいっぱいあったけど、でも今こうやっていつも通りの朝が迎えられて、私、本当に幸せです……。
だから、これからもよろしくお願いしますねっ!」
ふわりと笑うナツに、三人とも頬を緩め、『よろしく』と、改めて誓い合った。
これからも皆で楽しく生きて行こう、と。
今日からまた、新しいエイデン家の一日が、始まろうとしていた。
ここまでお読みいただき、本当に有難うございました!!
『ほことたて』一旦完結致します。
一応続編は考えてはおりますが、予定は未定です……。しかしながら、再開した際には、是非お読み頂ければ幸いです!
これからも、何卒よろしくお願い申し上げます。




