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第五十四章:雲隠
俺の人生において、こんなにも静かな日々が訪れるとは思わなかった。
かつては恋に生き、栄華を極め、宮廷の中心にいたはずの俺が——今はただ、一人静かに佇んでいる。
◇◆◇
紫の上がいなくなってから、俺はますます宮中から距離を置くようになった。
世の中の移り変わりも、政の動きも、もはやどうでもよくなっていた。
若いころの俺ならば、権力争いや人間関係の機微に気を配り、巧みに立ち回っていただろう。
だが、今の俺には、そんな気力はなかった。
◇◆◇
「光の君……」
久しぶりに訪ねてきたのは、かつての仲間の一人だった。
「そなたのことを皆が案じております」
「……俺は、もう何も望んでいない」
そう答えた俺に、彼は寂しそうな顔をした。
「本当に、それでよろしいのですか?」
「……ああ」
俺は、もう俗世に未練はない。
◇◆◇
そして、ある夜——
静かに月を見上げた俺は、そっと決意する。
もう、この世のしがらみから離れよう。
◇◆◇
こうして、俺は人々の前から姿を消した——。




