第19話 ボナからの手紙
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小男は、首を横に振った。
『わかりません。ですが、王宮にとって、坊ちゃんは存在してはいけない方のはずです』
ボナは、小男の言葉を聞いた途端、背中を電撃が通るような感覚に襲われた。
(つまり、私の母は、命がけで脱出して孤児院に私を置いていった・・・のか?)
院長から聞いたお話とも辻褄が合うことから、ほぼ間違いないと思われた。彼は、院長から渡された布の端に“ボナ”と刺繍がされている布を取り出すと
『この布に見覚えがありますか?』
ボナは小男の前に布を広げて見せた。
・・・
ボナの広げた布を凝視する小男・・・しばらくして、
『ボナ様の布・・・間違いない。あの時、坊ちゃんを包んだ布で間違いない』
小男は、布の端にある刺繍をみながら呟くように言った。
(間違いなさそうだ・・・)
ボナは、突然の出来事に驚きながら、何故か冷静に小男の話を聞けている自分を発見していた。
『坊ちゃん!』
先程入っていた入り口付近から、声が聞こえてきた。ボナと小男が声の方を向くと、そこには、ボナにとって見覚えのある老人がいたのである。
老人は、ボナのすぐ脇まできたところで跪き、
『坊ちゃま。今までのご無礼をお許しください』
と叫んだ。
『ということは、あなたがセベスティンさんですね。冒険者ギルド売店のお爺さん』
ボナは自身でも不思議なほど冷静に話かけた。
『はい。私がセベスティンです。あなたを人目見たときに、ボナ様のお子様だと直感しました。ですが、自身が持てず、あのような態度に出てしまい、申し訳ございませんでした』
そう言ってセベスティンはボナに頭を下げた。
『いや・・・あやまっていただくようなことでは・・・』
ボナは慌てて否定しようとしたが、それを遮るようにして、
『申し訳ございません。事態はひっ迫しております。そちらの小箱をお開けください。あなたが、本物のジュアル=ラィシカーラクセン様であれば、開けられるはずです』
セベスティンはそう言うと、先ほど小男が持ってきた小箱をボナの前に移動させた。
『私が本物のジュアル=ラィシカーラクセンであれば・・・』
首を傾げるボナに
『この小箱は、ボナ様が用意されたもので、特定の血に反応するように出来ています。ジュアル様がお生まれになった時に、その血を登録してありますので、他の方には開けることが出来ないものなのです。なので、中に何があるのか私どもにもわかりません』
そ言った後、新ためて頭を下げるセベスティンに連動するように小男も頭を下げた。
ボナは小男の方を向き
『あなたが保管してくれていたのですか』
『はい。私は、ボナ様の下男をしていたコバーシュと言います。本当は鍛冶師ではありおませんが、実家が鍛冶をしていたので、何となく剣を作ることができました。そのため、冒険者ギルドで販売する剣をここで作っていたのです』
ボナは小男・・・コバーシュの説明を聞きながら
(いや・・・立派な剣でしたよ)
よ内心で叫びつつ
『では、箱を開けさせていただきますね』
ボナは小箱の蓋に手を掛けた。一瞬箱が光ったが、ボナはかまわず蓋を開けた。
・・・
(これは・・・)
中には、小さく折りたたんだ手紙と、1枚のカードと思われるものがあった。
(見たことのないカードだな・・・)
ボナは不思議に思いながら、手紙を開き読み始めた。
信愛なる我が子よ
この手紙をあなたが読んでいる時、私は恐らく生きてはいないでしょう。
あなたは、この手紙が入っていた小箱と共に下男のコバーシュに預けた剣を持って、マトヤの西にある遺跡と呼ばれている飛行場に向かうのです。
飛行場には、滑走路という長い直線の道があります。滑走路に入らないようにして、その北側を西に移動したのち、南に少し行くと、大きな門があります。そこで、この小箱に入っているカードを門にかざしなさい。門は勝手に開くでしょう。中に入ったら、まっすぐ進み、十字路を左に曲がってまっすぐ進んでいくと、エアーターミナルという建物があるので、そこに入りない。そこで、あなたは、必要なものを受け取ることになるでしょう。
あなたのことは、いつまでも見守っています。
ボナ=ラィシカーラクセン
ふと気が付くと、私の読んでいる手紙を覗き込む2人・・・セベスティンとコバーシュが首を傾げている。よく見ると、この国で使われている文字ではないことに気が付いた。
(あれ・・・何で読めるのだろう?)
ボナにとっても見たことがないはずの文字であった。であるが、何故か読める。
(えっ!まさか)
ボナは慌てて1冊の本を取り出した。孤児院の院長から受け取った本である。手紙と本を見比べながら・・・
(似ている・・・多分同じ言語だろう)
文字に一部共通なものがあるのが確認できる。時間が無くて見ていなかったが、この本の文字も読むことが出来る・・・何故かは不明であった。
(顎髭を伸ばした像も滑走路が云々言っていたな・・・)
王都の東の森で出会った出来事を思い出すボナであった。
・・・
『坊ちゃま。先ほど、王都の冒険者ギルドから、黄色い依頼書が公開されました』
セベスティンが思い出したように言った。
『それって・・・』
ボナが話始めた言葉をセベスティンは遮るように
『早くマトヤから脱出しなければなりません』
セベスティンが言い終わったそのとき、建物の奥から、大きな荷物を持ったコバーシュが現れた。
『準備は出来ています』
ただの小男だと思っていたコバーシュは、鎧を着た戦士になっていた。そして、セベスティンに何か渡している。
『『我ら、坊ちゃんについてまいります』』
セベスティンとコバーシュの声が揃った。
・・・
ブラックマウスを狩った草原を西に移動する3人・・・ボナ、セベスティンとコバーシュの3人である。途中現れたブラックマウスをショートソードで薙ぎ払い、時間が勿体ないのでそのまま異次元ポケットに収納して西を目指す。
(手紙に書いてあった門というのは、冒険者ギルドで、結界と言っていたところだろう)
ボナは小箱に入っていたカードを握りしめた。
滑走路を過ぎてから南に向かったところ、手紙に書いてあった門は直ぐに見つかった。見ると、門のところを境に謎の結界のようなものがあり、南に行けないようになっている。
(確かに結界があるな・・・)
3人で門の前まで移動したところ、ボナの左右にいた、セベスティンとコバーシュが、突然倒れた。見ると、頭に矢が刺さっている。ボナは反射的に門にカードをかざした。
・・・
(???一体何が起きた!)
突然、門全体が光出し、強い光が周囲を包んだ。そして気が付くと、ボナは門の中に入っていたのである。慌てて周囲を見渡すが、セベスティンとコバーシュはいない。門を見ると、何故か外が透けて見えた。そこには、マトヤの街で見たことがある上位冒険者たちの姿があった。上位冒険者たちは、セベスティンとコバーシュの死体を確認し、セベスティンとコバーシュが持っていた荷物を漁っている。どうやら、外側からは、内側の様子は見えないらしかった。
上位冒険者たちは、周囲を見渡し、最後に門を何回か叩いた後、セベスティンとコバーシュの死体を持って消えていった。おそらく、冒険者ギルドに報告にいくのだろう。
(後戻り出来ないらしい・・・)
ボナは、ついさっき出来たばかりの仲間を失ってしまった。
やっと実家の支援が得られるかと思いきや・・・。