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ソラにいるキミに……  作者: コーキ
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5話 二人のバランス……

 昨日の夜からの雨が今日になっても止まず、たっくんの厨房は珍しく昼時でもガラガラだった。


「この時間でも暇なんて拍子抜けですねぇ 」


 カウンターに頬杖をついて、瑠依は足をプラプラさせている。


「まあこんな日もあるよ 」


 いつものように、孝太が厨房の入り口の柱に寄りかかり、店長特性ブレンドを堪能していた時だった。 


  カラン カラン


「いらっしゃいませー 」


 店のドアのベルに瑠依は即座に返事をする。


「いやー、凄い雨ー! 」


 入ってきたのは、頭も肩もずぶ濡れになった佳だった。


「お前、傘も差さないで来たのか? 」


「今日夜勤明けだもん、昨日の夕方は降ってなかったんだからしょうがないじゃん 」


 瑠依から乾いたタオルを受け取って、佳は乱暴に濡れた髪を拭う。 


「あーあ…… 佳、ちょっと来てみ 」


 佳はパタパタと駆け足でカウンターの端の席に座り、孝太の方を向いて頭を差し出した。 タオルを受け取った孝太は佳の髪を優しく擦っていく。


「せっかくロングにしてんだから気を遣えよ。 お前の髪はグシャグシャやるとすぐ絡まるんだから 」


「わかってるけどさー、夜勤明けって眠いし 」


 『ハイハイ』と孝太は空返事をして佳に後ろを向かせ、引き続き髪の水分を吸い取っていく。 佳はショルダーバッグからヘアブラシを取り出し、無言で頭の上に持ち上げる。 と、孝太はそのブラシを待っていたかのように無言で受け取って髪をとかし始めた。


「…… 」


「ん? どしたの瑠依ちゃん 」


 気持ち良さそうに目を細めていた佳が呆けている瑠依に気付いた。


「いや、阿吽の呼吸ってこういうのを言うんだなーって思って 」


 佳は何のことやらとパチパチと瞬きをする。 ブラッシングの事かと孝太に振り返ろうとすると、すかさず孝太は佳の頭を鷲掴みにした。


「こっち向かんでいいよ 」 


 孝太はグリっと佳の頭を前に戻して、後ろ髪をタオルに挟みパンパンと叩く。


「…… 普通じゃないの? 」


「じゃないですよ 」


 瑠依は呆れてため息を一つ。 佳は少し考えて気付いたようで苦笑いになった。


「おーい瑠依ー! 手伝ってくれー 」


 厨房の奥から司が呼ぶ。 『ハーイ』と返事をして瑠依はパタパタと厨房に消えていった。


「…… 」


 佳はチラッと孝太を覗き見る。 気付いているのかいないのか、孝太は無言で佳の髪を梳かしていた。


「孝太、今日の晩御飯はなに? 」


「晩御飯? 昨日の残りのチャーハンだけど 」


「それで我慢してあげる。 どうせなら餃子も付けようよ 」


 孝太は髪を梳かしながら苦笑いだ。


「我慢してあげるってなんだよ。 餃子は皮がないぞ 」


 ブーっと口を尖らせて、佳はブツブツ文句を呟いていた。


「孝太君、今日はもう上がって大丈夫だよ。 丸ノ内さんをちゃんと送って行ってね 」


 会話を聞いていたのか、琢磨が紙袋を片手に厨房から顔を出していた。 時刻は午後1時。 この時間で客がいないとなると、この後も来店客は少ないと琢磨は判断したようだ。


「はい、餃子の皮 」


 孝太は琢磨から紙袋を受け取ってため息を一つ。 そのまま紙袋を佳の頭に乗せた。


「良かったな、皮の廃棄分(・・・)を貰って。 それじゃ、あがりまーす 」


 孝太はそう言うとレジ裏の休憩室兼事務室に消えていく。 佳はエヘヘとショルダーバッグに紙袋をしまい込み、私服に着替えてきた孝太の後に続いて店を出ていった。


「あれは言っちゃダメだよ 」


 司はワイングラスを磨きながら留依を優しくたしなめる。


「だってあの二人、見ててもどかしいんだもん 」


 磨きあげたグラスを司から受け取った瑠依は、司の背中に寄りかかって蛍光灯の明かりにグラスを透かして見上げていた。


「留依の気持ちは分かるけどな、そう簡単なものじゃないんだよ。 あの二人の場合は…… 」





 孝太の家のバスルームから聞こえるシャワーの音。 佳は孝太の家に上がり込むなり、濡れた服が気持ち悪いとバスルームに直行してシャワーを浴びていた。 


「バスタオル、ここに置いておくからなー! 」


 孝太は脱衣所にバスタオルと着替えのスウェットの上下を洗濯乾燥機の上に置き、シャワーの音にかき消されないように大きな声で佳に呼びかける。


「わかったー! 下着見るなよー! 発情するなよー! 」


 ドアの前に置いてあるバスケットには、無造作に入れられたピンク色の下着とストッキング。 服はそのまま洗濯機に放り込んでスイッチを入れたらしく、静かに洗濯機が回っている。


「…… ウオォォォォン! 」


 オオカミの遠吠えを真似して立ち去る孝太に、佳はバスルームの中でアハハと笑っていた。 


 孝太はそのままキッチンに行き、冷凍庫から挽肉を取り出して電子レンジに放り込み解凍メニューをタップする。 佳がシャワーを浴びている間、長ネギやキャベツをを刻んだりと餃子のタネ作りを淡々と進めていた。 


「お風呂ありがとね 」


 早々と上がってきた佳は洗いたての髪をタオルドライだけで済ませ、ヘアゴムでポニーテールにまとめ始めた。


 「早く乾かせよ。 変なクセついて帰る時泣くのお前だぞ? 」


 「そうなんだけどね、今はいいや 」


 佳は後ろ手で部屋の中を徘徊し、パソコンデスクの上の天体写真を手に取って見たりしていた。


「…… 」


 ふと佳は、白い天体望遠鏡のケースに目を留める。 じっと見つめるその目は、昔を思い出すように切ない色をしていた。 孝太はタネを混ぜ合わせながら佳の姿を見守る。


「ほら、餃子作るんだろ? 」


「うん 」 


 何事もなかったように佳はパタパタとキッチンに行き、腕まくりをして孝太が準備していた餃子のタネを皮に包み始めた。


「最近いい写真撮れた? 」


「…… どうかな。 これからが空気が澄んでくる時期だから 」


「そか 」


 そのやり取りの後は餃子のタネが入ったガラスのボウルと、タネをすくうステンレス製のスプーンのぶつかる音だけが静かなキッチンに響いていた。

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