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ソラにいるキミに……  作者: コーキ
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46話 空から……

 栞の墓の側に立っていたのは、見覚えのある高校の制服に身を包んだ藤堂さんだった。 久しぶりって…… なんのマネだこれ?


「が、学校に報告に行ったんじゃなかったのか? それにその制服…… 」


 よく見ると、左目元に小さな泣きぼくろ。 


「しーちゃんの墓前で冗談は止めて。 遥 」


 一歩前に出た佳は明らかに怒っている。 そりゃそうだ。 栞の前でほくろまで真似して、俺達の高校の制服を着て、栞がよく着ていたコートを羽織って…… いや待て。 なんで栞の墓がここにあることを知ってるんだ?


「驚かせてごめんね、でも今日しかないと思ったから 」


「今日しかないって…… 何を言ってるのよ! なんでしーちゃんの制服をアンタが着てるのよ!? 」


「止めろって! 」


 掴みかかろうとする佳の肩を押さえて俺は佳と藤堂さんの間に割って入った。 


「…… ちょっと冗談が過ぎるんじゃないか? 」


 睨め付ける俺に、藤堂さんは俺をじっと見て微笑む。 なんか様子が違う…… なんだこの違和感。


「そうだね。 でも孝太ならわかってくれるんじゃないかって思ってるから 」


「…… 栞…… なのか? 」


 ビクッと佳の肩が跳ねた。 藤堂さん…… いや、栞はニッコリと笑って見せる。


「うん。 お別れを言いに来たんだよ 」


「お別れって…… お前! 」


 この言葉に頭に来た。 藤堂さんの胸ぐらを掴み、そのまま目の前まで引き寄せる。


「違う! 俺達の気持ちをかき回して何のつもりだ藤堂。 栞はもうこの世にはいないんだ、もう過去にしなきゃならないんだ! 」


「そう言いながらもずっと私を追いかけてたじゃない! 孝太をこんな風にさせたくなくて私頑張ろうと思ったのに! ……思ってたのに…… 」


 大粒の涙を溜めて藤堂さんは言葉に詰まる。 違う…… この感じ、この雰囲気、この匂い…… この子は藤堂遥じゃない。


「ホントに栞…… なのか? 」


 ニコッと笑った藤堂さんの頬を涙が伝った。


「ごめんね……  頑張れなくてごめんね…… あの時伝えられなくてごめんね…… 」


 あるわけがない…… 目の前のこいつが栞である筈がない。 そう自分に言い聞かせても気持ちが全然ついてこなかった。 スッと頬に冷たい感触が伝う…… 泣いてるのか俺……


「しーちゃん? ホントにしーちゃん? 」


 俺の影から出てきた佳は、ゆっくりと藤堂さんの胸ぐらを掴んでいた俺の手をほどき、彼女の顔をじっと見つめる。 信じられないというような呆けたその表情が、涙を浮かべて徐々に歪んでいく。


「ありがとね佳ちゃん。 佳ちゃんならきっと孝太を支えてくれるって信じてたよ 」


「なんで…… 嘘でしょ? 」


 藤堂…… いや、栞は佳の頬に手を添えてニッコリ微笑んだ。


「でもツラい思いもいっぱいさせちゃったよね。 ごめんね佳ちゃん 」


「しーちゃん…… うわあぁぁ! 」


 佳は栞に抱きついて大声で泣いた。 しーちゃん、しーちゃんと呼び続ける佳に、栞はうんうんと答えて背中をポンポンと叩く。 栞の霊と呼ぶにはあまりに実体感がある体…… きっと藤堂さんなのだろうが、今はそんなことはどうでも良かった。 俺達の目の前にいるのはまぎれもなく伊吹栞…… それだけでいい。


「バカ! アンタを嫌いになれるわけないじゃない! 」


「そうだよね、無駄だとは思ったけど私には時間がなかったから 」


「なんでその時間を自分の為に使わないのよ…… 」


 エヘヘと泣きながら笑う栞。 はにかみながら首を傾げるのは栞のクセだ。


「ちゃんと私の為に使ったよ。 佳ちゃんが幸せになるのは私も嬉しいから 」


「…… バカ…… 」


 ギュッと栞を抱きしめる佳の頭を、栞は優しく撫でていた。


「佳ちゃんゴメンね、私孝太に言わなきゃならないことがあるんだ。 この子の体にもあまり長くはいられないし…… 」


「え…… 」


 栞は佳に抱かれたまま俺に向き直る。 言わなきゃならないこと…… 多分あの時俺に伝えられなかった別れ話なのだろう。 ……ホント、一度決めたら曲げない女だな。


「孝太、ずっと私を愛してくれてありがとう。 私もずっとあなたの傍にいたかった…… でも私はあなたのお荷物にはなりたくない。 あなたの進む道を邪魔したくない。 だから私達もう…… むぐっ! 」


 突然佳が栞の口を塞いだ。 しっかり聞き届けてやろうと身構えていた俺も、涙を浮かべながら話していた栞も唖然と佳を見る。


「アイツはワガママだからね! 私もしーちゃんもどっちも愛さないと気が済まないってさ! 」


 佳のヤツ、この場で何て事言いやがる……


「佳ちゃん…… 」


「栞、悪いがそれは聞けないや 」


「孝太…… 」


 俺は深く深呼吸をして、栞にありのままの気持ちを伝えた。


「俺はお前を今でも愛してる。 でもずっと側で支えてくれた佳も愛してるんだ。 俺はお前も佳も大事にしたい…… お前が佳の幸せを望むのなら…… 」


 俺は栞に酷な事をいってるのかもしれない…… でも……


「空から見守ってくれよ。 俺が佳を、ちゃんと幸せにできるのかを 」


 じっと俺を見ていた栞の目から再び涙が溢れ落ちる。 その顔はとても穏やかで優しくて……


「…… 仕方ないなぁ。 後悔しても知らないよ? 」


 栞は抱いていた佳を離して、代わりに手を繋ぐ。


「しーちゃん? 」


「行こ、佳ちゃん 」


 手を繋いだまま栞は俺に歩み寄り、そのまま俺に軽くキスをした。 


「好きよ孝太。 佳ちゃんをお願いね…… 」

 

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