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ソラにいるキミに……  作者: コーキ
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37話 新年早々に……

 正月三が日も明けた昼過ぎ、たっくんの厨房も今日が新年初営業日になるが、土曜日の今日は店内もガラガラな状態だった。 孝太や司も暇を持て余し、グラスを磨き直したり包丁を研いだりしている。 瑠依に至ってはカウンター席に座り、左手の薬指に光る指輪を眺めながらずっとニヤニヤしていた。


「瑠依ちゃんの両親に挨拶してきたんだな 」


 孝太はニヤケ顔の瑠衣を見ながら笑顔で司に言う。


「助けてくれ孝太。 もうずっとあんな調子なんだよ…… こっちは恥ずかしくてかなわん 」


 耳打ちしてきた司に孝太は苦笑いになる。


「いいじゃないか。瑠衣ちゃん嬉しいんだろ? 仕事中もあれだと困るけど、そっとしておいてやれよ 」


 孝太は何食わぬ顔でまた包丁を研ぎ始めた。


「でもお前凄いよ。 ちゃんと結婚決めてくるなんて 」


 包丁を見つめる孝太の目は、嬉しいような悲しいような複雑な色をしていた。


「何言ってやがる。 結婚しようと先に動いたのはお前だろ? 俺はお前を見習っただけだ 」


 『そうだったな』と孝太はまた苦笑いになった。 『しまった! 』と司は固まり、思わず磨いていたグラスを落としそうになる。 孝太はそれを見て笑い、『気にするなよ』とフォローしていた。


「孝太君、君のスマホ鳴ってるよ 」


 事務室から琢磨が顔を出す。 ハイと返事をして孝太は事務所に急ぎ、スマホをバッグから取り出すと同時に今度は店の電話が鳴った。


「ありがとうございます、たっくんの厨房です…… あぁ陽子、明けましておめでとう 」


 取り次いだ琢磨は孝太に受話器を差し出す。


「沖野から君に。 新年の挨拶だそうだよ 」


 孝太はスマホの画面を確認しながら受話器を受け取る。 佳からの着信は後回しにして店の受話器を耳に当てた。


「はい新城です。 あけましておめでとうございます 」


 - おめでとう新城君、今年もよろしくね。 早速なんだけど、今月24日って空いてるかしら? -


「24日ですか? どうしたんです? 」


 - デートのお誘い…… なんて言ったら怒られるわね。 藤堂遥ちゃんの審判の日時が決まったのだけれど 」


「え? 随分早いですね、3ヶ月は掛かるかもと言っていたのでビックリです 」


 - 私もびっくりしたわ。 実は裁判所で働く事務処理の子が私の知り合いでね、今回の案件に大分頑張ってくれたみたいなのよ -


 『そうですか』と嬉しい声を受話器に向ける一方、孝太は浮かない表情をしていた。


 - それで、その日に裁判長の立ち合いであなたの署名があればすぐにでも手続きが出来るんだけど、都合悪いかしら? -


「…… 大丈夫です。 何時からですか? 」


 孝太はテーブルの上にあったメモに陽子の言う日時を走り書きする。


「はい、はい…… よろしくお願いします 」


 丁寧に通話を切った孝太に、心配して見に来た司がそのメモを見て孝太の背中に声を掛けた。


「24日ってお前…… いいのか? 」


「…… 重なる時ってこういうものだよな。 いいんだよ、これで 」


 孝太は笑顔で司に返し、佳に折り返しの連絡を入れた。


「24日って? 」


 事務室の入り口から覗いていた瑠依が孝太の様子を感じ取って、司の袖を引っ張って小声で尋ねる。


「栞の命日なんだ。 まぁ裁判所行ってから栞んとこに行けばいいとは思うんだけど…… 」


「…… 遥ちゃんを受け入れるっていう日だもんね。 なんで重なっちゃうかなぁ…… 」


「アイツにも佳にも遥ちゃんにも、変なわだかまりができなきゃいいんだけどな 」


 心配そうに二人は孝太を見つめるが、孝太は気付かずに佳と話を進める。


「うん、今沖野弁護士から聞いた。 うん、うん…… 仕方ないだろ、俺が言い始めたことだから 」


 何やら電話口で佳ともめてるようだ。


「…… わかった。 じゃあ後で 」


 孝太は通話を終えて小さくため息を一つ。


「どうしたよ? 孝太 」


「いや、なんでもないよ。 佳がちょっと興奮してるだけだから 」


 そう言って孝太は厨房に戻って行く。 静かに見送る司だったが、我慢できなかったのは瑠依だった。


「な…… なんでそうやっていつも自分だけで抱え込んじゃうんですか! 」


 孝太は驚いて厨房の入り口で立ち止まる。 驚いたのは司もだった。


「佳さんが怒る気持ち分かります! 孝太さんにとって24日はとても大事な日じゃないんですか!? 」


「お、おい瑠依…… 」


「ツカサ君だってそうだよ! 見守るってこういうことじゃないの? やりたいようにやらせるってことじゃないよ! 」


 唖然とする司に瑠依は怒鳴りつけて孝太に向き直った。


「孝太さんはそれでいいんですか? 孝太さんは何が一番大事なんですか? 孝太さんにとって私達はなんなんですか? 私には全然わかんない! 」


 肩で息をする瑠依に孝太は笑ってみせる。 その表情はとても穏やかだ。


「大事なものに順位なんてあるのかな? 俺はワガママだからどれも大事なんだ。 栞も、佳も、藤堂さんの夢も…… もちろん瑠依ちゃんも司もね 」


「そんなのズルいです。 誰かを捨てなきゃならないことになったらどうするんですか? 」


「誰も捨てないよ。 捨てないし、捨てさせない 」


 孝太の顔が険しくなる。 強い目力に負けないよう瑠依も孝太を睨め付けた。


「無駄だ瑠依。 俺らの中でコイツが一番ワガママだからな 」


 司はポンと瑠依の肩を叩いてなだめる。 納得しない瑠依は眉をひそめて司を見ていた。


「お前が心配してるのは佳のことだろ? 大丈夫、コイツのことだ。 皆が納得するような結果を出すさ 」


 司は孝太を見て歯を見せて笑う。


「随分ハードルを上げてくれるんだな 」


「お前のことだからな。 気に入らなきゃぶん殴るだけだ 」


「お前にはどんだけ殴られたかわかんないけどな 」


 笑い合う孝太と司に、瑠依はやはり納得しない顔でぶすっとふくれていた。


「男ってわかんない…… 」

 

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