19話 友達……
朝6時、私はいつものように家を出て公園のベンチに腰を下ろす。 新城さんが毎晩この公園に天体撮影に来るように、私は両親が起きる前に家を出て、ここでちょうどいい時間まで過ごすのが最近の日課になっていた。
「さむ…… 」
流石に12月に入ると朝の冷え込みは厳しくなってきた。 特にすることもなく、ただボーッとベンチに座っているのはちょっとツラい。
新城さん起きてるかな……
何気に新城さんの家の方に目線を向け、そんなことを考えてみる。
彼のおかげで私は救われた。 一言でこう言ってしまえば簡単に聞こえてしまうけど、こんな人に出会えたのは奇跡だと思う。 亡くなった栞さんが引き合わせてくれたのかな…… なんて自分勝手な事まで考えてしまった。
「そんなワケないよね 」
寒さもあっていつもより早くベンチから立ち上がる。 普段は公園の正面から出て行くところを、今日は階段のある裏口から降りて新城さんの家の前を通ってみることにした。
新城さんの家の前を通り過ぎる時に少しゆっくり目に歩く。
「なんかストーカーみたい…… やめよう 」
近所の人に怪しまれて、変な女が毎朝この辺りを彷徨いている…… なんて事が新城さんの耳に入って引かれてもイヤだ。 そそくさとその場を後にして、通学にはまだ早いけど地下鉄の駅に向かった。
「おはよ遥、珍しく早いじゃん 」
いつもより20分も早く教室に入ってしまい、 やることもなく机に頬杖を突いて外を眺めていた私に声を掛けてきたのは、そこそこ仲の良いクラスメイトの矢作 沙弥花だ。
「おはよ。 寒くて目が覚めちゃった 」
「わかるわかる! 今日寒いよねー。 最高気温6度だって。 あたしカイロ買っちゃった 」
ブレザーのポケットから小さなカイロを取り出し、シャカシャカと振りながらニコニコしている。 沙弥花、カイロは振らない方がいいんだよ……
「あれ? 今日ファンデ付けてるの? 」
バレた。 昨日母親に投げ付けられた灰皿が頬に当たって、青アザになった部分をコンシーラーで隠しただけなんだけど…… ちょっと塗りすぎたかな。
「気を付けなよー、生活指導の吉田にバレたらうるさいよ? 」
沙弥花は笑顔で私から離れ、次々と教室に入ってくるクラスメイトに挨拶をしに行った。 八方美人というか、誰とでも仲良く出来る彼女の性格は羨ましいと思うけど、噂好きなのが難点なのよね。 勘ぐられてDVを受けているなんて噂が広まったら、それこそどうなるか分からない。
「遥ー、風邪良くなった? 」
沙弥花を目で追っていた私に声を掛けてきたのは、一番の友達とも言える佐々木 日向と成瀬 香織。
「おはよ。 うん、もう大丈夫 」
風邪なんてここ最近ひいたことないけど、殴られた頬を隠すのにマスクをしていたのを心配してくれたのだ。
「ハルちゃん風邪引きやすいんだから気を付けてね。 ちゃんとご飯食べてる? 」
少しだけぽっちゃり体型の香織が笑いながら言ってくれるけど、そこは少し遠慮気味に返事をしておく。
「そういえばね遥、電車通りに安くて美味しいっていうレストランがあるんだって。 昨日<札幌レスナビ>ってサイトで見つけたんだー 」
嬉しそうに香織がスマホを取り出して画面をいじっている。
「ふーん、何ていうお店? 」
水戸黄門の印籠を見せるように香織が画面を見せてくる。 あまり興味はないけど…… 何気に画面にチラ見して私は固まってしまった。
レストラン<たっくんの厨房> 評価 ☆☆☆☆★
新城さんのお店だ…… しかも星4つって高評価だし。
「今日行ってみようよ。 このハンバーグ美味しそう! 」
「いっ! いや…… 今日はちょっと…… 」
沖野弁護士と待ち合わせも今日の放課後だし正にこのお店だ。 日向や香織に弁護士と話している所をあまり見られたくはない。
「えー!? 遥、今日用事あるの? 」
「う、うん…… 親がちょっとね 」
二人は苦笑いになる。 彼女達は私の家庭事情を少なからず知っている数少ない友達だ。
「ん、じゃあ仕方ないね、また今度にしよっか。 でも次は付き合ってよね 」
おとなしく引き下がってくれて助かった。 とりあえず今日は大事な話をするのだから皆に迷惑もかけたくない。
キーン コーン カーン コーン
ちょうどいいタイミングで予鈴が鳴った。 今日は逃げるように学校を出なきゃ……
終業のベルが鳴り終わると同時に私は急いで教室から飛び出す。 今が3時半で、沖野弁護士との待ち合わせが4時。 学校からたっくんの厨房まで地下鉄で4駅…… 急げば30分で間に合う筈。 少し遅れてもいいとは言ってくれたが、初対面で依頼主が遅れるのも失礼だと思う。 慣れた手つきで改札をくぐり抜け、タイミングよく到着した地下鉄の車両に乗り込む。
沖野弁護士、どんな人なんだろう……
椅子には座らず手摺にもたれ、地下鉄の力強い加速感を感じながら私は新城さんのお店に急いだ。




