第一話
なんと寒い星だろうか。
平熱420℃の彼にとって、地球とはまさしく極寒の、死の星であった。
彼はケイ素生命である。ケイ素の溶けたマグマを取り込み、環境に合わせた外骨格を生成し自らに適した星へと旅をする。
良き星の灼熱に身を投じ、新たな仲間を産み育む。
そういう生命だ。
彼にとっての豊かな星とはすなわち、金星のような人類種にとっては地獄に近い環境である。
だというのに、だ。
彼の足元には30℃にも満たない冷水が弾けている。
どうしてこうなったのだろう。
彼が目的としていた星は地表460℃程度の暖かい星である。
その環境に合わせた外骨格は星間移動による希望に溢れた熱量と心にも染みてきそうな冷徹な水の温度差によってミシミシとヒビが入っていった
——このままでは、冷えて、固まり、死ぬ。
絶望に濡れた思考の渦中、彼の感覚が、かすかな、けれど確かな「故郷の熱」を捉えた。
視線の先。冷たい海の向こうに腰据える、猛々しい山の峰。
その頂から立ち上る噴煙と、地下深くに渦巻く熱々ドロドロのマグマ、そして降り注ぐ香ばしいシリカの粉末(火山灰)。
桜島である。
〈あそこに……あそこに熱いごはん(溶岩)とお風呂が(マグマ)ある……!〉
彼は発声器官を持たず、電磁波で会話をする。
その日、桜島周辺地域では無線通信にノイズがはいる事象が観測された。
こうして、金星を目指してたはずのケイ素生命と地球人類によるドタバタ劇は静かに始まった。
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