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さよならを言うのは -義妹と過ごす5年間の軌跡-  作者: 枕元


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14/22

お泊まり会と二人の暮らし 1

 テストが月末に控えている中、私は橙子ちゃんのお家に向かっていた。


 手にはひとつの紙袋。いわゆる菓子折りというやつだ。私は今日、とうとうお礼という形でお兄さんに謝るのだ。


 『これ以上橙子ちゃんに酷いことをしないで』


 初対面で深く事情もしらずトンデモ発言をかましたのにもかかわらず、今日に至るまで一言もお兄さんに謝ることができていない。


 避けられていたのは明白だが、押しかけてでも謝るべきだったか?なんて考えても後の祭りだ。今日、これから、どうするかが大事なのだから。


 (やばいやばいやばい。緊張してきた)


 「緊張してる?」

 「してるよ!だって、私結構やばいこと言っちゃってるもん!」

 

 隣を歩くのは橙子ちゃん。まだお家に遊びに行ったことがないので、近くまで迎えにきてもらったのだ。


 「大丈夫だよ。あいつ、なんだかんだで優しいし」

 「そうは言っても」


 最近だと、橙子ちゃんはお兄さんの話ばっかりだ。橙子ちゃんが普段話している様子だと、なんだかんだとかじゃなくて半端なく優しい人って印象だけど、それでも緊張はする。


 なんて言っているうちに到着。二階建てのアパートの、一階の角が二人の暮らしている部屋だ


 「さ、覚悟を決めて!開けるよー」

 「わっ!ちょっと待って!早っーー!!」


 覚悟のできていないうちに、橙子ちゃんは扉を開けた。


 「ただいまー」

 「ん、おかえり。それと、いらっしゃい」


 「あ、あ、その、いらっしゃいまし、た?」

 「ぷっ、何言ってんのまひる」


 まずい!このままだと、お邪魔しますも言えない子だと思われる!


 「お、お邪魔しました!」

 「いや、帰るな帰るな。まひる?一旦落ち着こ?別に信也も、殴ったりはしないと思うから」


 「いや、それ以外も別にしないからな?」


 そうだ!菓子折り!これを渡せば!


 私は取手を両手で握りしめ、腰を90度に曲げて前に差し出す。


 「これ!受け取ってください!」

 「いや、バレンタインじゃないんだから。……えっと、違うよね?まひる?違うよね?今六月だよ?違うよね!?」


 「違うに決まってるだろ」


 ごめんなさいお兄さん。こんな私を許してください。



ーーーー


 「ねぇ。違うよね?まひるってば。そういう意味じゃないよね???」

 「いつまで言ってんだ。困ってるからやめてあげろ」


 (うぅ、恥ずかしい……)


 橙子ちゃんは鬼気迫る顔で言及してくるし、お兄さんには優しくて温かい目で見られてる。


 一応あれからなんとか落ち着きを取り戻した私は、改めて謝罪と共にお礼として菓子折りを渡せた。お兄さんとしてはこれで精算終了としたいようで、一応はそういう形で落ち着いた。


 「ほら、勉強するんだろ?俺はお茶とか用意するから、そっち行ってなさい」

 「あ!変な敬語使ってる。おもろ」


 「お前なぁ」

 「分かったって!まひる、とりあえずゆっくりしよ?」


 橙子ちゃんの案内で、リビングのソファに腰をかける。ベッドがあることから、お兄さんの寝室兼リビングということだろうか。


 「ね?大丈夫だったでしょ?」

 「え、あー、うん。確かに、緊張しすぎだったかも」


 優しい人って分かっていたのだから、もっとちゃんとした受け答えができたはず。ちょっと後悔だけど、結果オーライってことで。


 (でも、本当にこれでいいのかな?)


 自分のしたことを考えると、あっさりしすぎだとも思うのだ。いや、まともに菓子折りも渡せない自分が言うのもあれだけど。


 「信也的には、多分ちょうど良かったと思うよ」

 「え?」


 私の考えを見透かしたように、橙子ちゃんは続ける。


 「前ね、信也が言ってたの。家族以外で、損得関係なく味方になってくれる人は大切にしろって」

 「お兄さんが?」


 「うん。私、嬉しかったよ?危ないことはしないで欲しいけど、まひるが私の知らないところで、ああやって私の心配をしてくれたの。もちろん、心配させちゃった私も悪いんだけど」

 「そんな、橙子ちゃんは悪くなんか」


 先走った私が悪いのだから、そんな風には言ってほしくない。


 「じゃあ、お互い様だね。お互い悪く思ってるならいいじゃん。信也が許してくれたんだから、もうお互い変に気にするのはやめよ?」

 「それで、いいのかな」


 「もちろん。というか、信也にそう言われてるからね。お茶だしするまでにフォローしてあげてって」

 「それ、言っちゃダメなんじゃ」


 あ、そっか。なんて言いながらとぼける橙子ちゃん。本当に優しい親友。先程のやりとりだって、最初からこのオチに持ってくるつもりだったのだろう。


 「ありがとね、橙子ちゃん」

 「ん、どういたしまして。お互い様だけどね」


 お兄さんそっちのけで納得するのは申し訳ないけど、橙子ちゃんに甘えちゃうことにする。というよりはあれだ。お兄さんと仲良くなる方が早いかなって思うから。


 「二人とも、お昼ご飯はどうする?」


 そんな当人であるお兄さんが、お盆にお茶を乗せてリビングに入ってきた。お礼を言って、お茶を一口。冷えてて美味しい。


 時間はちょうど12時。お腹も空いてきた。


 「もう食べたーい。まひるも大丈夫?」

 「うん。私もお腹すいたかな」


 「りょーかい。えーと、まひるさんは苦手なものとか、アレルギーはある?」

 「ないです。あ、あとこれを!」


 私はお父さんに渡されていた封筒を手渡す。簡単に言えば宿泊代だ。事前にご飯も用意してくれると言う話だったので、お父さんが持たしてくれたのだ。


 「拒否されても、絶対渡せって言われてるので!」

 「あー、そう言う感じね。なんとなく想像つくね。じゃあ、ありがたく受け取っておくかな。ありがとうね」


 「は、はい!」

 

 無事任務も達成である。優しい人で本当によかった。


 「今日のお昼何?」

 「質問は受け付けるけど、どうしてついてくるんだ?」


 「手伝おうかなって」

 「気にしなくていいぞ。というか気にしないでくれるか?今日は失敗できないの。お分かり?分かったら大人しく、まひるさんと勉強していなさい」

 

 なんだとー!なんて言いながらお兄さんに絡む橙子ちゃん。あの様子だと、橙子ちゃんが料理を絶望的にできないのは、お兄さんも周知のようだ。


 「橙子ちゃん。やめよ?お邪魔してる身だけど、私もやめた方がいいかなって」

 「まひるまで!?」


 二人が想像以上に仲良しで私は安心である。


 「ほんと、仲良いんだね」

 「んー、どうなんだろ。他の兄妹を知らないし、私がちょっと変っていうか」


 お兄さんがキッチンで調理中、私の言葉にそんな風に返す橙子ちゃん。


 「仲が良いっていうか、私が甘えているだけだし」

 「甘えてるだけ?」


 「うん。だって私、信也に大っ嫌いって言っちゃったし。その、もちろんそれだけじゃないけど、今だって思うところはあるし」


 それはきっと、両親が死んだ日のことだろう。橙子ちゃんの処遇について揉めたことではなくて、お兄さんが両親の死に対して泣かなかったこと。


 「それを棚に上げて、信也の優しさに甘えてるだけ。自分は信也のことを嫌いとか言いながら、多分あいつに嫌われたら耐えられないし、絶対に嫌って思ってる」

 「それは、なんというか」


 「わがままだなーって、自分でも分かってるんだけどね」


 確かに橙子ちゃんの言う通り、わがままなことだとは思う。だけどそれと同時に仕方ないとも思う。


 「だって優しいんだもん。そんなの、しょうがないじゃん。嫌いになりきれなかったんだもん」

 「そっか……うん。それは仕方ないよ」


 好きなものは好きだし、嫌いなものは嫌いなのだ。そんなのどっちかなんて選べないし、甘えたくだってなるだろう。


 「それにさ、多分まひるもびっくりするよ」

 「え?何に?」


 「信也の作るご飯、本当に美味しいから」


 そう言って誇らしく笑う橙子ちゃんに釣られて、つい私も笑ってしまう。最近の橙子ちゃんは、お兄さんの話ばっかりだし、その内訳の7割はご飯の話だ。そりゃ私だって気になってしまう。


 「ほい、できたぞー」


 なんて話をしていると、まさにベストタイミングだ。お兄さんがお昼ご飯を運んできた。


 「お、これはトマトパスタ?」

 「正解。かなり暑くなってきたし、冷製トマトパスタだ」


 (わ、オシャレ!)


 テーブルに置かれたのは、彩り鮮やかなトマトパスタだ。具材もトマトだけでなく、玉ねぎやベーコン、パセリなどが使われていて、一目見てかなり凝ったものなのがわかる。


 「ほら、はやく信也も座って、食べよ!」

 「はいはい」


 最初はベッドに腰掛けようとしたお兄さんだったが、橙子ちゃんの意見(駄々とも言う)で、少し狭いが3人並んでソファに座る。


 「「「いただきます」」」


 先んじて橙子ちゃんが一口。


 「んー!?おいしい!ランキング更新かも!めっちゃ好み!」

 「ん。ま、今日のは結構、気合い入れて作ったからな」


 味の感想に好みという言葉を使うあたり、橙子ちゃんらしいななんて思いながら、私もパスタを一口。


 こ、これは!?

 

 (いや、味に文句を言うつもりなんか全くなかったけどね?)


 正直にだ。語弊を恐れずに言わせてもらうと、橙子ちゃんの言葉は少々大袈裟なものだと思っていたのだ。いくら美味しいと言っても、身内贔屓の加点があるだろうと。


 だけど、これは。


 「お、おいしい……これ、おいしすぎない!?」

 「でしょ!?私の言ってたこと嘘じゃなかったでしょ!」


 嘘どころか、高く上がったハードルを易々と飛び越えているのだが!?


 「まひるさんまで、大袈裟だよ」

 「いや、これ、え?お兄さん本気で言ってます?」


 「いや、えと、美味しくできたとは思うけど」

 

 お兄さんの謙遜に、つい語気が強まってしまう。これは仕方ないだろう。だって本当においしいんだもん。


 「心の前に、胃袋を掴まれてたんだね」

 「ちょ、そんな食いしん坊みたいな風に言わないで!」

 

 「ま、まぁ、喜んでもらえて何よりです」


 すっかり萎縮してしまったお兄さんを尻目に、私は一口、二口とフォークを動かす。手が止まらない。


 「おかわり!」

 「そ、その、私も……!」


 「ん、今持ってくるから待っててな」


 欲張りなんて思われたらどうしようとか、そんなことを思う暇もなくおかわりを求めてしまった。


 そんな風に始まったお泊まり会。早くも夕食が楽しみになってしまうのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  そんなレベルなら飲食関係で仕事してみても良いのでは。
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