橙子の提案
金曜日の夕方、夕食を橙子と一緒に食べている時のこと。橙子がこんな提案をしてきた。
「勉強会?」
「うん。明日の朝から、まひると一緒にうちで。で、そのままお泊まりしたいんだけど、だめ?」
勉強会はともかく、お泊まりか。これはどうしたものか。
まひるさんと言えば、俺にとっては少し苦い思い出がある人物。別に嫌っているわけではないが、会うのは少し気まずいのだが。
というのもだ。
「まひるもいい加減、お礼がしたいって」
「お礼、ね」
あの一件以来のことだ。まひるさんは折を見て、俺に対してコンタクトを取ろうとしている。要件はもちろん謝罪だ。俺が頑なに謝罪としては受け取らないと悟ってからは、お礼と言葉を言い換えてきているのだが。
(お礼されてもなぁ)
ぶっちゃけ、本当に気にしないで欲しいのだ。というか、年下のしかも中学生に、しかも父親と面識がある状態で謝らせるなんて、一体どんな罰ゲームだ。
そう思って先延ばし先延ばしにした結果、とうとう逃げられなさそうなイベントが発生したわけだ。
「遠山家ではだめなのか?」
「それがね?お父さんの遠縁のおばあちゃんが死んじゃって、お母さんもお父さんもいないんだって。まひるは面識ないし、すごく遠いからお留守番だって」
なるほど。筋は通っているな。実際事実なんだろうけど。むしろいい機会と提案してきたと見るべきだろう。
だけど、中学生なんだよな。
「お父さんは、オッケーって?」
「むしろ助かるって。信也なら安心って言ってたらしいよ」
おかしいな。つい最近まで虐待を疑われるぐらいだったはずなんだが?その辺は、橙子がフォローしてくれていそうではあるけれど。
「まぁ、そういうことなら」
「ほんと!?やったー!」
橙子の勉強だって、一人よりも進むだろう。女子二人集まれば騒がしくなりそうではあるが、土日は俺も休みだし、そのぐらいはいいだろう。
最近は特にいい子にしてるしな。
「まひるも分からないところあるって言ってたから、一緒に教えてね」
「あ、家庭教師も必要なのね」
「当たり前!何のためにうちでやると思ってるの!」
そのためだったのかい。ま、別にいいけどね?暇だし。
「てか、今日のご飯もおいしい。納豆パスタってこんなおいしいんだ」
「だろ。意外と好きなんだよね、これ」
安くて簡単だからね。パスタ系は大体網羅している。
「じゃあ、明日の晩御飯は出前でも取るか?」
まひるさんも来るなら、たまにはお寿司でもとったら楽しいかもしれない。俺も普段出前のお寿司なんて食べないから、せっかくの機会ってやつだ。
「だめ!作って欲しい!てか、まひるにそう言っちゃってる!」
「あえ、そうなのか?でもどうして」
「いや、その、前お弁当作ってくれたでしょ?その時に、ご飯の話になって、その流れでって言うか……」
なるほどな。お望みなら別に構わないが、こりゃ下手なものは出せないな。
これもせっかくの機会か。明日の料理はより凝ったものを作るのもいいな。
「ごちそうさま!」
綺麗に完食した橙子に対して、少し楽しみに思っている自分のことは棚にあげて、やれやれなんて思いながらも、明日のことを考えながら、橙子の家庭教師を再開した。




