候補者には亡霊も!?
候補者を正式な人物名まで絞り込む。
管理者室の端末には、王国管理局と王立封印監察局から届いた回答が並んでいた。
どちらも、前回よりは具体的だった。
王国管理局からは、監査担当者の候補として二名の名前が提示されていた。
王立封印監察局からは、封印設備の専門知識を持つ候補者が一名。
そして、最後に届いた補足記録には、八百年前の例外処理に関わった可能性のある人物の名前が記されていた。
「ようやく、名前が出てきたか」
俺は椅子に座り直した。
「ただし、名前があることと、適任であることは別だ。順番に確認しよう」
ミレイが記録用紙を開いた。
「候補者の関与履歴、専門分野、閲覧権限、独立性を一人ずつ確認します」
「それから、候補者本人の申告と、組織側の記録を照合する。どちらか一方だけで決めない」
レオンが頷いた。
「監察局から提示された候補者については、過去のアクセス制限に関する記録も確認します」
セシリアは、封印設備の専門家に求める資格条件を整理し始めた。
ガルドは、候補者が施設へ来る場合の立ち入り手続きを確認している。
俺は候補者名簿を表示した。
第一候補――王国管理局の監査官、マルタ・エインズ
<text color="secondary" size="sm">担当候補:勤務状態・報酬・行政手続きの独立確認</text>
マルタ・エインズ。
王国管理局の監査部門に所属し、過去の支給保留案件や、長期間未処理となっている勤務記録の検証を担当している人物だった。
「報酬の処理と勤務状態の確認には、適任に見えますね」
ミレイが言った。
「だが、今回の案件に関与していないか確認する必要がある」
レオンが管理局の回答を読み上げた。
「マルタ監査官は、今回の例外処理に関する承認記録には名前がありません。現在の報酬審査にも直接関与していないとのことです。ただし、管理局内部での照会経路は確認中です」
「直接関与していないことと、独立性が確保されていることは同じではないな」
「はい。最終的には本人の利害関係申告と、監査権限の範囲を確認する必要があります」
俺は候補欄に記入した。
マルタ・エインズ――第一候補。正式選任は保留。
第二候補――王国管理局の記録監査官、ローデリク・フェイン
<text color="secondary" size="sm">担当候補:原本台帳・権限変更履歴・記録欠落の検証</text>
ローデリク・フェイン。
こちらは記録管理と権限変更履歴の検証を専門としていた。
今回の案件では、承認者の名前がない記録や、実行日時が欠けている処理が複数ある。
そうした欠落を調べる役割としては、マルタよりも適している可能性があった。
「この人物は、前任管理者の時代の記録を調べたことがあるそうです」
ミレイが資料を示した。
「それなら、古い台帳の扱いに慣れているということか」
「ただし、同じ時代の記録を調査した経験があるだけで、今回の案件に関与したとは限りません。過去の担当案件と、今回の例外処理との関係を確認する必要があります」
「そうだな。経験は利点だが、過去の判断を自分で検証する立場になっていないか、そこは慎重に調べよう」
ローデリクについては、過去の調査案件との重複を確認するまで、独立確認者としての適格性を保留した。
ローデリク・フェイン――第二候補。過去の調査関与を確認中。
第三候補――王立封印監察局の魔法設備監査官、イリス・ヴェルナー
<text color="secondary" size="sm">担当候補:補助冷却系統・封印系統・例外処理の技術的影響</text>
イリス・ヴェルナー。
封印施設の設備監査を専門とし、魔力の流れと設備制御の記録を比較する業務を担当している。
「技術面では、この人が最も適していそうですね」
セシリアが言った。
「ただし、監察局の内部に所属している以上、過去のアクセス制限や例外処理に関与していないことを確認しなければなりません」
レオンが資料を確認した。
「イリス監査官は、現在の施設管理チームには所属していません。今回の例外処理の承認記録にも名前はありません。ただ、当時の監察局の記録は一部欠けているため、過去の関与がなかったと完全には証明できていません」
「本人の専門性は申し分ないとしても、独立性の確認は別に必要ということだな」
「そのとおりです」
俺は、イリスを技術面の有力候補として残した。
イリス・ヴェルナー――技術確認の第一候補。過去の関与を追加確認。
そして、第四の名前
ここまでなら、候補者の選定は順調だった。
問題は、四枚目の記録だった。
そこには、現在の候補者とは別の名前が記されていた。
エドガー・ヴァレン。
「……本人が候補者なのか?」
ガルドが尋ねた。
「いや、違う」
俺は記録を拡大した。
表示されていたのは、七百九十九管理年度の例外処理に関する補足情報だった。
『独立確認担当者:指定予定』
『指定対象:管理者補佐』
『氏名:エドガー・ヴァレン』
『指定状態:未確定』
『最終処理:記録なし』
部屋が静かになった。
エドガーは、停止申請を出した当事者だ。
その停止申請は、管理者権限によって保留されていた。
報酬は停止され、退職処理は無効のまま、補佐権限だけが現在まで有効になっている。
そのエドガーが、同じ例外処理の独立確認担当者として指定される予定だった。
「本人が、自分の停止申請を独立して確認することになっていたのか?」
レオンが疑問を口にした。
「記録だけでは、そこまでは分からない」
俺は答えた。
「指定対象が管理者補佐となっているが、担当範囲も、指定が確定したかどうかも不明だ。別の管理者補佐を指していた可能性もあるし、記録の関連付けが間違っている可能性もある」
「しかし、名前がエドガーである以上、無視はできません」
ミレイが言った。
「そうだ。これは候補者として採用する記録ではなく、調査対象として扱う」
俺は第四の欄に、はっきりと書いた。
エドガー・ヴァレン――独立確認者として選任しない。指定予定記録の意味と経緯を調査する。
「本人が今も職務を続けているか分からない以上、候補者として扱うこと自体が適切ではない」
セシリアが頷いた。
「しかも、今回の処理の当事者です。仮に現在も職務を継続していたとしても、自分の停止申請や報酬の保留について独立した確認者を務めるのは、利益相反の問題があります」
「そのとおりだ」
エドガーが本当にどこにいるのか。
補佐権限から届くメッセージが本人のものなのか。
そのどれも、まだ確認できていない。
だから、彼を独立確認者にすることはできない。
同時に、彼の名前が指定予定記録に残っているという事実は、今後の調査にとって重要だった。
候補者の正式な絞り込み
俺たちは、四つの名前を同じ基準で整理した。
人物
主な役割
現在の判断
マルタ・エインズ
勤務状態・報酬の監査
第一候補、利害関係の確認待ち
ローデリク・フェイン
原本台帳・権限履歴の検証
第二候補、過去の調査関与を確認中
イリス・ヴェルナー
封印設備・魔力系統の技術確認
技術面の第一候補、過去の関与を確認中
エドガー・ヴァレン
過去の指定予定記録に登場
候補から除外、記録の経緯を調査
「現時点で、正式に選任できる人物はまだいません」
ミレイがまとめた。
「ただし、分野ごとの有力候補は絞り込めました。管理局の二名には独立性と過去の関与について確認を求め、監察局のイリス監査官には技術確認を依頼できるか照会します」
「それで進めよう」
俺は承認欄を見た。
まだ空欄だった。
マルタが報酬の監査を担当し、イリスが技術的な影響を確認し、ローデリクが記録の欠落を調べる。
この分担が実現すれば、互いの専門分野を補いながら確認を進められるだろう。
しかし、三人とも、まだ正式な独立確認者ではない。
候補者の名前を見つけることと、独立して確認できることを証明することは別なのだ。
俺は王国管理局と監察局に、候補者本人の利害関係申告、過去の担当案件、独立した閲覧権限、作業停止を求める権限について、正式な回答を求めた。
さらに、エドガーの指定予定記録についても照会を追加した。
なぜ管理者補佐が指定対象となっていたのか。
指定予定は誰が登録したのか。
指定は承認されたのか、それとも途中で保留されたのか。
指定予定記録と、停止申請の保留処理に関係はあるのか。
照会を送信すると、端末は受領を表示した。
『回答待ち』
たった四文字だった。
八百年前の仕事は、今日も終わらない。
だが、今回は少なくとも、誰を候補とし、誰を候補から外し、何を追加で確認するべきかが明確になった。
俺は最後に、管理者記録へ書き込んだ。
独立確認者の候補を三名に絞り込んだ。正式選任は、独立性と権限の確認後に行う。エドガー・ヴァレンの指定予定記録は、候補者選定とは別の調査案件として扱う。
これで、候補者名簿は完成した。
ただし、承認欄はまだ空欄のままだ。
空欄というのは、何も書かれていない状態だ。
問題なのは、八百年前の空欄が、これほど多くの仕事を生み出していることである。
おっさんの処世術
候補者の名前が分かったら、次は関与履歴を調べる。 肩書きや評判だけで、独立性を判断しない。
候補者と調査対象者を混同しない。 エドガーの名前は重要な証拠だが、独立確認者に適していることを意味しない。
一人にすべての専門分野を求めない。 報酬、記録、設備の専門家を組み合わせ、それぞれの判断範囲を明確にする。
正式選任には、適格性の確認が必要だ。 候補者名簿ができても、必要な権限や独立性が証明されるまでは承認しない。
不都合な記録も、都合よく解釈しない。 不自然な記録は重要な調査対象だが、理由が分かるまでは事実と推測を分けて扱う。




