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おっさんの処世術は異世界でも有効だった。  作者: 畑酪 砂竹
おっさん大地で立つ
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知ってるようで知らない天井

はじめてみた。なんとなく小説。

「お疲れ様でした。お先に失礼しますー。」

誰もいないオフィスに向かって、後藤圭45歳は頭を下げた。今日も残業、オフィスを出るのは最後となるのが日課となっていた。

大学を卒業してから中小企業を転々とし、行き着いた会社も10年続いており、管理職となっていた。生活費以外はローンの支払いと保険に消えて毎日職場と自宅とを行き来するだけだった。

「人生って、こんなもんか。」

スーパーで半額になった惣菜で缶チューハイをあおりながらテレビをボーっと見る。明日の労働に向けた時間潰しである。

『新しい世界で第二の人生を送りませんか!?』

旅行のCMだろうか、それとも住宅?変なウサギが画面の中で踊りながら話している。

「羨ましいな、できることならやってみたいよ」

そして重くなってきた瞼に身を任せて意識を手放した。


「。。。。朝、か?」

部屋の明るさから朝だろうか、

目が覚めるといつもと違う匂いがするベッド

「天井が違う??」

いつもの自宅じゃない、見覚えのない天井

いや、見た気もする。

知ってるようで知らない天井。

あれ?昨日 大きな黒い怪物と戦ったか?


ぼんやりとしていた意識がだんだんとクリアになってくる。昨日 仕事をして帰宅してテレビを見ながら寝落ちして…ここどこ!?

床で寝落ちしたはずなのにベッドで寝てるだと!?

……

……まぁ飲みすぎて分からなくなったのだろう。


諦めが早いのは、40年以上生きた経験のおかげだった。


家の家具もいつもと違う、いや自分の家だと認識できる。あれ、夢?…今までと違う人生を送る夢かコレ。


「ステータス!」

どこかで見た知識を試す。

何も出ない。そりゃそうだ。

「とりあえず情報収集かね。」

中年になると抗ったりはしない、流れに身を任せながら生きるしかない。なぜなら疲れるから。


仕事に行くか、仕事?

俺 何してたっけ?流れに身を任せるか。

家を出て自然と足が進んでいく、慣れた道だから当たり前か。慣れた道?

夢の中の自分が慣れた生活リズムがあるのだろう

少し大きな建物が見えてきた。あれが職場なのだろう。


「おはようございます。ゴトーさん」

受付嬢に呼ばれる。入ってすぐ受付がある、なんかハロワみたいだなココ。職を転々とした時にお世話になったなぁ…よし、『ハロワ(仮)』としておこう。

「今日はどんな依頼を受けますか?」

にこやかに話してくれる受付嬢、やはりハロワで合っていたか。

「おはようございます、どんな仕事がありますか?」

社会人になっても大切なのは笑顔と挨拶。

スマイル0円を見習えと昔は言われたもんだなぁ…

「え、あのゴトーさんが丁寧に挨拶なんて…いつもはダルそうに疲れた顔で頷くだけなのに」

何してんの夢の中の俺、マナーもできてない人間なの?とりあえず謝っておくか、

「すみません、礼儀は大切であると思い直しまして、これからは気をつけますね。ところで、受けられる仕事はどんなものがありますか?」

笑顔で過去を無かったものにはしてくれまいか、

受付嬢は「あたまでも打ったのかしら…」なんて小声で言っているがいくつかの用紙を出してきた。


・近くの山で薬草採取

・村の畑の害獣退治

・酒場の掃除


「Fランクのゴトーさんが受けれる依頼はこのあたりですがいかがでしょうか?」

え、俺Fランクなの?依頼とかランクとかで少しワクワクして『腕利きの冒険者』とか『引退した勇者』とかだと期待したのに、まぁ仕方ないか。

ここでも諦めの早さが発動。むしろ目立たない方が幸せではないかとさえ思えてくる。

「酒場の掃除をお願いします。具体的な内容と手続きをお願いします。」

一瞬だけ受付嬢の表情が固まったがすぐに元通りになり依頼の処理をこなしてくれた。

「では、依頼達成の時にこの書類に依頼主のサインを貰ってこちらにご提出ください。」

なるほど、派遣や短期バイト方式なのね夢の中。

依頼者を受け取りハロワ(仮)を出る。

酒場を思い出そうとすると浮かんでくる、そんな遠くないところにあるらしい。日雇い達の溜まり場であり情報収集などにも使える場所、飲みニケーションは夢の世界でもあるわけね。開店時間は午後からだからすぐに待ってみるか。


その日、後藤圭ことゴトーは受付嬢達のなかで

『根暗雑用のゴトーが丁寧になった』と話されていた。本人だけは夢の中で生きていると思っているが第二の人生がすでに始まっていた。


昼前、酒場のオープンまではまだまだ遠い時間、人気のない店内に足音が響く。


まずは挨拶からだな、


心地よい仕事は心地よい挨拶から、なんつって


「こんにちわー、依頼を受けて掃除に来たのですがー」


「ん?なんだ、いつものおっさんか…皿洗いと床、テーブルを綺麗にしてからトイレ掃除を頼む、書類のサインはそのあとするから声掛けてくれ。」


中から出てきた髭面のダンディーな店主はダルそうに答えるとまた店の奥へと行ってしまった。




いつものおっさん?夢の中の俺は掃除の仕事もよく引き受けていたのだろうか、飲食店でバイトも経験してるからいけるっしょ。気合いを入れてまずはキッチンへと向かう。


皿やジョッキが山積みに、とりあえずやれば終わるんだからさっさとやってしまおう。




俺は中年 酒場の掃除係。


勇者でも冒険者でもない。


皿を洗って床を磨き、テーブルを拭き、昨夜の酔っ払いが割ったジョッキを片付ける。


魔王討伐に燃える若者の心は俺の仕事にかかっている!てかこの世界魔王いるの?


ゴトーはスポンジを動かしながら呟いた。


「この夢 長くね?」


誰も返事はしない。自分の声しか響かない。


酒場はまだ静かだ。




床を掃除した後はテーブルを丁寧に磨く。


一度拭き。二度拭き。最後に乾いた布で艶を出す。


「今日は仕事がえらく丁寧だな」


店主が驚く、


「お客様の幸せのためなら頑張れます。」


俺の返事にますます店主は怪訝な顔をした。


「お前 頭打ったか?」


その言葉に苦笑いをするしかなかった。


トイレ掃除を終えて書類へのサインを貰う。


これで初仕事終了、なんか気持ちいいかも。




「綺麗で丁寧だが賃金は変えられないのは勘弁してくれ、ここ最近で一番良かったわ、また頼むよ。」


強面の店主だが、そう言われると悪い気はしない。




書類を持ってハロワ(仮)に行かねば!


まだ時間も昼前だから午後も何か仕事ができるはず。


受付は…さっきの受付嬢のとこだと話が早いだろう。




「依頼完了しました。確認お願いします。」


「あぁ、さっきの方ですね。確認しますので少々お待ちください。」


少しは驚かれるかと思ったら妥当な時間であったかスムーズに処理をされる。とりあえず次の仕事もさっきの中から選ぶのが良いだろうか、


「お待たせしました。報酬の銀貨3枚です。次の依頼も受けますか?」


やはり次も受けるのが通常の流れらしい。


「ありがとうございます。では次は薬草のやつでお願いします。」


「かしこまりました。この依頼は薬草の数によって変わりますが少なくとも20本から納品が可能となりますので宜しくお願いします。」


あぁノルマあったのね。どんな草だったか思い出そうとすると珍しくはない草みたい。いけるっしょ。




とりあえず外で持ち歩ける食べ物でも買って薬草採取を片付けちゃいますか。そんな事を考えていると


「ギルドの受付は日没までとなっているので、それまでに終わらなかった場合は明日にまたお待ちください。」


ここ、ハロワじゃなくてギルドって言うのね、そうだよね。なんかワクワクするかも異世界感あるじゃん。


夢なのに。




「あ、はい。分かりました。」


そんなやり取りをしてギルドを後にする。




「あれ?今のは、今朝変だったって話してたゴトーさん?」


「ええ、次は薬草採集を受けてくれるみたいです。」


「大丈夫かしら…最近 竜の目撃情報があったみたいだけど…」


「あの人なら大丈夫よ、そんな深くまで行かないだろうし、元々雑用で生活してる人なんだから」


「そうだと良いのだけれど…」




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