総会2──ご飯〜ユンとは〜転移魔法?〜スキンケアの基本 #7
◆あらすじ
ほぼ全員が会すこととなった食事会。知識人の賢者様、水を司るユンさん、風を司るシル、造詣が深いサリナちゃん、世界の可愛いを集めたミツキ、そして私──茶柱立花。
ビュッフェスタイルで生パスタ食べ放題のお店に来て、通された個室。目の前の魔法スクリーンに映し出されるVTuber。私は詳しくないけど、精霊王様らしい──。
◆本編
「あ……精霊王さま──!」
そうサリナちゃんが、今までにない声量で言った。ちょっとビックリした。心臓が跳ね出たらどうするのさ。受け止めてくれるの?──まさに胸キュンだね。
丁度、その映像主である精霊王様(仮)が、私たちをモニタリングしてるんじゃないか、というレベルで話している──。
『シル、ユン。元気にしていますか?
はじめましての方は、はじめまして。わたしは精霊王。妖精たち、精霊たちを統べる者です。
──That’s the spirit.』
「「ザザスピ〜」」
おうおう。なぜ皆んなして、オリジナルっぽさ全開の挨拶を知っているのだね? 当たり前だけど、私は知らないからね、それ。──ザザスピってなんだよ!
ちなみに、今レスポンスしたのは──賢者様、ユンさん、サリナちゃん、ミツキ──の4名である。ゆえに、私とシルは知らなかったとわかる。名探偵リンの名は伊達じゃないのさ。
『さて今回は、雑談回とタイトルにあるように、皆さまのコメントを拾っていこうと思います。
はい──ではまず、「お前陰謀論者だろ!」と。違いますね。そんなこと言うと、開示請求しちゃいますよぉ。わたし、精霊王なので、手続きとかすっ飛ばして、身元特定できちゃうんですよぉ』
席についてメニューを見ていた私たちの耳に、なにやら不穏な言葉が聞こえてくる気がするが、今はそれどころではない。ただ、サリナちゃんだけは見入っているので、それはそれでアリだと割り切ることにする。
そしたら、サリナちゃんが徐に口を開いた──。
「sそういえばこの前、ユンちゃんのこと言ってたね……精霊王さま」
「え?──どうゆうことですの?」
「なんか……ユンちゃんのBL好きを公言してたよ」
「それはマ、ですの?──まぁ、特に隠し立てしているわけではないので、よいのですけれど……」
「ユンは、そっち趣味なわけッ?」
「そうですわよ。コミケで出展もしていますの」
「それって、この前やってたやつですかー?」
「はい。年末に、サリナさまと一緒に出展してきましたわ」
「ユンちゃんの作品は……sすごく人気で、sすぐに売り切れちゃうんです」
「ほう。それはすごいのう!」
「サリナさまだって、お昼過ぎには完売してらしたじゃないの」
それはすごいね──知らんけど。私が幹事のはずだけど、まさかハブられてる?
俺TUEEE系って、主人公がなんらかの能力で無双するよね?──私だけ、スキル無さすぎない?
さて、そんなことと、あんなことは置いておいて──みんなしてメニュー選びに夢中になってる。そういう私も何を食べようか……。
和風も魅力的だよね。でも、この期間限定になってるカニとモッツァレラも捨てがたい……。だけどさ、まずはこう、あっさりしたものからはじめて、だんだん濃厚なものに移っていったほうが美味しいが持続するのではないか、と……むむむ。
「リンー。シェアしよー?」
「ミツキ、それめっちゃいい! する」
「ワシも入れてくれ」
「ぁ……わたしもいいですか?」
「じゃあ、みんなで少しずつ食べよー」
「ワタクシたちはどうしましょう?」
「ワタシたちはいくらでも食べれるし、適当に頼んで適当に食べればいいんじゃないッ?」
「そうしましょう。では、シルさま──お選びいただいてもよろしくって」
「アンタの好み分からないけどいいのッ?」
「はい。ワタクシは特に好き嫌いはございませんわ」
「そぅ……」
『ワイは、納豆とオクラと……。
あと、クソリプ送ってくるやつと……』
なんか、いろいろ聞こえるが無視することにした。そんなことより、食欲が大事!
結局のところ、みんなで好きなものを頼んで、それをシェアするかたちでまとまったので、そうする。あとは同じく、目の前にある触媒からアラカルトを注文できるから──と。
ざっと見渡した感じ、みんなも好きなものを選んでいるようだ。シルとユンさんも一緒に仲良く? 選んでいる。
賢者様が少しニヤついているように見えるのは何故だろうか?
「それにしても──賢者様、美肌ー!」
「ぁ……sそれわたしも思いました」
「そうかのう?」
「お母様のお肌はスベスベつるつるなんだからッ」
「「お母様……?」」
(あぁ、またその件やるのね)
そう、横目で見ておくことにした。
そんなことより気になるのは、ユンさんのおしとやかさだ──。
「ユンさんは、普段どこで生活されてるんですか? シルはウチにいるんですけど」
「そうですのね。ワタクシはマンション──いわゆるタワマンに住んでいますわ」
「タワマンというと、都会ですね!」
「そうでもないんですのよ。だいたいこちらから、30分ほどでしょうか」
「30分なら圏内──ではないですよね?」
「ですわね。転移魔法を活用していますから……」
「転移魔法ですか?」
なに⁉︎ 転移魔法とかいう甘美な響きは!
転送魔法は、物を送るための魔法で、個人が送っていい大きさと重さが決められている。それを超えるようなら、業者に出さないと違法だ。まぁ、そもそも、触媒に上限が設定されてるから、送ろうとしても送れないんだけどね。
で、転移魔法が使えるなんて、聞いたことがない。完全に夢物語だと思っていたが? ん?──そういえば、賢者様とか私が使ってる霧みたいのもそうか──?
「はい。およそコップ1杯分くらいの水があれば、それ以上の水量のところへ転移できますわ」
「めちゃくちゃ便利じゃないですか! それって、私もできます?」
「どうでしょう? やってみたらよろしいのではないですか?」
「やってみます。どうやればいいですか?」
「水を触媒にして、転移魔法を使うと、行き先を選べますので、そしたら勝手にシュパッという感じで移動しますわ」
(えーっと……ほっ──)
「あのー。行き先が出ないんですけどぉ……?」
「……それだと出来ませんわね」
「ですよね……」
「ですわね……」
シュパッ──といわんばかりに料理が転送されてきた。私がやりたかったのは、それな。
思い思いの料理が一旦、自分の前に並ぶ。それぞれの個性が詰まっていると言ってもいいだろう。
さて、私のドヤる時間がきたか──。
「そういえば昨日、賢者様に教えてもらったんだけど──」
という茶番を披露したことに満足したので、少し見守ることにしよう。
そして、食べよう。
「sそれにしても……賢者さまは、何でも知っているんですね」
「いやいや、知ってることだけじゃよ」
「あわわわ。名ゼリフですわぁぁあああ」
「リアクションがすごいわねッ」
「さすが、ユンさまー」と柏手を打つミツキ。
ミツキの太鼓持ちによって、パチパチと拍手の輪が広がっていくわけだが、私の時はなかったよね?──なんてゆう器の小さいことは言わない。
「それでー。さっきの話に戻るんですけど、どんなスキンケアがおすすめですかー?」
「そうじゃのう。基本は、保湿が最も大事じゃが、朝と夜でも違うし、個人の肌質でもケア方法は異なるでのぅ。
まず、一般的なものじゃと──ワセリンや、ヘパリン類似物質なんかは、副作用がほとんどなくて、いろんな肌タイプの人が使えるし、よいな。ベタつかないものもあるから、状態や好みで使い分けるとよいじゃろう。なぜこの2つかと言えば、『エモリエント』という──水分を逃さないための蓋みたいな働きをするもの。それと、『モイスチャライザー』という──水分を与えるもの。の2つに大きく分けられるからじゃ」
「へー。あたし、化粧水をびちゃびちゃにつけるのがいいって聞いてやってるんですけど、本当にいいんですかー?」
「あ、それ私も聞いたことある!」
「それ、あたしが言ったんじゃない?」
「そうだっけ?」
「さー?」
「アンタたち、そればっかやってるわねッ」
「そこに関しては難しいんじゃが──今のところ、根拠はないの。
場合によっては、《化粧水は無意味だ》という結果すらある[1]。もちろん、すべての化粧水が無意味だという証拠になるわけではないがな。しかしこれはおそらく、一般的な化粧水はほとんどが“水”で、有効成分が十分に入っていないことだったり、すぐに蒸発してしまうことなんかが影響してると思われる。
無論、水分は大事なんじゃが、そのためには保水効果が高い成分を、必要量含有しているものでなくては意味がないからの。
あと大事なポイントとしては──」
「え、あれー?」「ぅわ……?」
同時に声を上げたミツキとサリナちゃん。うんうん。わかるよ、その反応。ビックリするよね、ね。ブン──って感じで出てくるやつね。
いつもながら、賢者様の説明は入ったが、スキンケアについての知識無双は続く──。
「──話を戻して、大事なことは──オーガニックなどの化粧品は安全で良いものだ、という思い込みに気をつけることじゃな」
「そうなんですか? なんか、もの凄く良い感じしますけど?」
「だねー。いいもの使ってる感あるー」
「sそうですよね。わたし……sそうゆうのばかり選んでました……」
「まぁ、すべてが全てダメとは言わんが、特定のタンパク質なんかが入っていたりすると、皮膚トラブルを起こすことがあるんじゃ。『経皮感作』というんじゃがな[2, 3, 4]。当たり前のことじゃが、食べて安全なものと、肌につけて安全なものは、全くの別物であることを忘れてはいかんな」
「「なるほど」」
みんなで声が揃ってしまった。うまく3度ハモリ出来てた? もちろん、主旋律は私よね?
ところで、あえて言うことでもないんだけど──私たちは基本的に、地魔法の触媒を使って保湿してる。触媒には様々な効果が設定されていて、それによって肌に馴染むようになっているわけね。だから、賢者様が言っているようなものも普通に売ってる。第○類治療品、なんてのもある。だけど中には、それじゃ事足らず、食べ物を使ったり、オーガニックにこだわる人もいるのが実情。私はそれの方がいいんだと思ってたけど、賢者様いわく違うみたい。
と盛り上がってた最中、テーブル上で巻き起こる争いが目に入る──。
「ちょっとッ! ユン、それワタシが取っておいたのよッ!」
「あら、そうでしたの? ずっと残っていたので、ワタクシにいただけるものかと思っておりましたわ」
「……まぁ、いいわッ。あげるッ」
「あげるもなにも、もう食べてしまいましたの。戻せませんわ。欲しければ、また頼めばよろしいんじゃなくて?」
「もういいわッ! まだリンのがあるしッ」
(おい! それは聞き捨てならないな⁉︎)
──などと言うほど、私の器は小さくないのだ。たまたま口から出なかっただけ、ということもない。完全に制御できていた。ユンさんが言うように、食べたければまた頼めばいいのだ。そんなに同じものばかり食べたくない、そう思うのは簡単ではあるが、私はこの気持ちを発散する術すべを知らない──ぴえん。
なので、無視して、賢者様のありがたい話に耳を傾けることにする──。
◇ ◇ ◇
なんだかんだ盛り上がった食事会も終わり。精霊王様を名乗るVTuberも、いつの間にか消えてた。消したんじゃなくて、消・え・て・た、ね。
なんとなく名残惜しさもあってか、みんなで軽くショッピングに回ることとなったわけだけど、それほど興味があってウインドーショッピングをしているというよりは、会話に夢中だった。
知っての通り、シルはデニム好きだけど、ユンさんはモード系が好みらしい。たしかに、モノトーンコーデだった。私はあんまり知らないんだけど、《コムデレイジョウ》が好きなんだって。また詳しく教えてもらおうと思ってる。
サリナちゃんは想像と違って、量産系ではなかった。が、清楚っぽい地雷系で、思ってたよりも主張してくる印象だったのは秘密である。口ごもるから足並み揃える感じだと邪推してたため、ちょっとビックリした。ついでのついでに、ビジュは良かった。──クソ。
ミツキといい、私の周囲はどうしてこうも容姿がいいのかはわからないが、私もその一員であると願おう。──といえば、エリーゼ理事長はトップオブトップだな。
今は帰宅中の自動運転タクシーの中。シルが賢者様にベッタリくっついている以外に触れるべき事柄はないのだが──。
「すまん。英里──エリーゼからじゃ」
そう言って、賢者様は消音になった。
賢者様にゼロ距離で密接するシルと目が合ったが、まぁ一旦スルーでいいと思う──。
「お母様が話し始めちゃったから、リッカと話してあげるわッ」
「いや、別にいいよ。話さなくて」
「なんか冷めてるわねッ」
「……じゃあ、ユンさんと初めて会ったんでしょ? どうだった?」
「そうね……いい子だと思うわッ。リッカはどうだったのッ?」
「そうだなぁ……ユンさんは、かっこいいお姉様って感じ。サリナちゃんは、思ってたより自分の意見をしっかり言えるんだなぁ、と思ったかな」
「そうねッ。サリナとユンは、いいペアのようねッ」
たしかに、あれだけのマッチングはそうそうないだろう。まぁそんなことを言えば、賢者様とシルはどうなんだって感じだけど……それはそれ、これはこれ。
「そういえば、ユンさんは、普通に暮らしてるんだね。みんなそうなのかな?」
「さあ? ワタシは、リッカと暮らし始めただけだからわからないわッ」
「だよねぇ……。にしても、意外と自然に馴染めるもんなんだね」
「どうゆうことッ?」
「いやね──なんかもっと、シルたちを見た人って驚いたり、なんかあるのかと思ってたからさ」
「そうなのッ? 今までそんなことはなかったわよッ」
「阻害魔法とか、そうゆうのも関係してるのかな?
「まぁ、それはあるかもしれないわねッ」
騒ぎにならないなら何よりだ。最近では、盗撮をしてSNSに無断でアップしている投稿をよく見る。バズ狙いなのはわかるが、あまり気持ちのいいものでもないからね……。
そう思って、SNSのWを立ち上げる。すると、プチバズってる投稿にはこうあった──。
『サインくださいって言いづら!
[写真]』
その写真には、見切れた私と、見たことない美女が映っていた! どうゆうことなのかは分からないが、サリナちゃんやミツキも映り込んでいる。勘のいいガキなら気づくだろうが、ユンさん……。
(まぁたしかに、どう変えるかは自由だもんね)
もちろん私はダイバーシティを座右の銘に掲げるほど、多様性に寛容なので、このことを受容することは容易いが、長女でなければ危なかった……。
スクロールしていくと──精霊王様を引リツしている投稿を発見。うん、サリナちゃんだ。元ポスには──。
『本日は、多くの民草たちとお話しすることができました。皆様のご健勝とご多幸を、ワイに捧げよ!叶えてやる!!!』
──と。強すぎるやろ……。ここ最近、バズりまくってるらしいし、フォローしておくことにした。ただ、ラブリツはまだしない……これが私の流儀である。
そんなことをしているうちに自宅に到着。今日はたくさん食べたので、まったく夕食は食べれる気がしない。かと言って、すぐに寝るということなく、これからのことをボンヤリと考えていると──。
「時間も早いし、ワシのところに来るか?」
と、賢者様が何かを察したのか誘ってくれる。1度断ってみても面白いかもしれない……などと考える間もなく──。
「もちろん行くわよね、リッカッ⁈」
「はーい! いきまーす」
「そうかそうか。丁度、英里も来るそうじゃから」
「……って、理事長ですか?」
「そうじゃ」
理事長を間近で拝めるとかヤバ! 途中で心臓止まったらどうしよう……。
賢者様と仲がいいのは知ってたけど、家に招くほどだったんだ──ビックリ。てか、こんな格好でいいのだろうか。もっとキッチリした服とメイクにした方がいいのか、どうしたもんか……などと思案する時間すらなく──。
「じゃあ行くぞ!」
私の霞になってしまう魔法に比べて、賢者様の魔法では霧に、一瞬にして変わる景色。さすが、の言葉は喉につっかえさせる。私にもいつかできるだろうさ。
そもそも、この魔法はなんなんだろう──?
続く▶︎
◆参考文献
[1]Yuanxi, L., Wei, H., Lidan, X., & Li, L. (2016). Comparison of skin hydration in combination and single use of common moisturizers (cream, toner, and spray water). Journal of cosmetic science, 67(3), 175-183.
[2]峠岡理沙. (2021). 2. 化粧品と経皮感作型アレルギー. 日本皮膚科学会雑誌, 131(3), 499-504.
[3]千貫祐子. (2019). 経皮感作から始まる成人食物アレルギーの予後. アレルギー, 68(1), 24-28.
[4]Young, P. A., Gui, H., & Bae, G. H. (2022). Prevalence of Contact Allergens in Natural Skin Care Products From US Commercial Retailers. JAMA dermatology, 158(11), 1323–1325. Advance online publication.




