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ダンジョンから愛をこめて  作者: 葉山 友貴
第一章 出会い
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第27話 休息

ロキ視点に戻ります。


 ロキは中層の魔物相手に、剣を振っていた。左手には馴染みのルーン短剣、そして右手には見慣れない漆黒の短刀。ナイトメアの一角を素材に使った新しい武器。東洋の島国に伝わる刀を参考に、カインが作った。暗器に近い形状をしている。


 敵はケンタウロス。馬の下半身に、人型の上半身を持ち、凶暴性と知性を兼ね備えた草原の覇者だ。その知性により、ケンタウロスは武器を使う。削り出した木に、先の尖った石をくくり付けている。また、稀に弓を使う上位個体もいる。僕はケンタウロス・アーチャーと呼んでいた。


 槍を携えた二体のケンタウロスがロキを挟み込むように迫る。ロキは逆手に構えた武器を正眼に構え、動かない。槍が迫る。それでもまだ、止まったまま。


 衝突の瞬間、最小限の動きで穂先を短剣でいなす。無傷のままやり過ごした。ケンタウロス達は方向を変え、もう一度、戻ってくる。それを三度、続け様にやってのけた。ケンタウロスの苛立ちは増していく。そこへ弓を担いだ上位個体ケンタウロス・アーチャーまで加わった。


 両隣からの牙突に加え、遠距離からの弓での狙撃。矢は寸分違わずロキを捉える。しかし、何度射ってもロキには当たらない。空中で体を回転させて、矢を躱し、その遠心力で槍を弾く。曲芸師のような動きだ。



 ロキの体から汗が滲み出てきた頃、声をかけた。


「リュウ、ケン、お疲れさま。ゴウも、ありがとうね」


「もういいのか?これから面白くなりそうだったのだが」


 リュウは槍を地面に突いて両腕を組んでいた。遠くでゴウは弓をたたみ始めていた。


「もう三人の目が本気になってきたから、これ以上やったら怪我しそうだったからね」


 兄リュウと弟ゴウはケンタウロスの兄弟だ。弓を持っているのは、二人の父ゴウだ。ゴウはケンタウロスを率いる族長の地位にいる。


「ゴウ!これ約束の品。重いから気をつけ、てッ」


 僕のもとへ走り込んできたゴウに向かって、麻袋を放り投げた。カチャカチャと金属音を立てているその中身を開ける。


「かたじけない。…おお!!正しく!! リュウ、ケン、見てみろ。鉄製の穂先と矢尻だ」


「俺にも見せてくれ! おお!これが鉄か?! 石よりも尖ってて痛そうだ」


「大量だ…! 部族全員に行き渡りそうだなっ!」


 二人とも嬉しそうだ。子供が新しいおもちゃを手に入れた時のような喜びようだ。


「また鉄鉱石を持ち込んでくれたら、今度は防具も作れるってカインが言ってたよ」


「何という魅力的な提案だ。すぐに収集を始めようぞ。かの英雄ベガが率いた伝説の一族のように武装を揃えるのも夢じゃないな!ワハハ」


 ゴウは高らかに笑う。何と言ったっけ、昔の人の言葉に"取らぬ狸の皮算用"というものがあった。手に入るか分からないのに計画に織り込む、まさにこの状況だ。


「失敗するかもしれないから、あんまり期待しないようにね!」


 後でカインに聞かれたら怒られそうだけど、保険をかけておくのは大事だ。武具に拘りがあるケンタウロスとの約束を破ってしまったら、戦争になりかねない。


「またね! 新武器の慣らしに付き合ってくれてありがとう!助かったよ」


 右手に握られた短刀。この武器に慣れるために、ケンタウロス一族の族長ゴウに頼んだのだった。


 このケンタウロスの親子とは"同盟"を組んでいる。何か不測の事態や困ったことがあれば互いに助け合う約束だ。この中層である草原エリアでは人型の魔物はほとんど出現しない。そのため、人型との訓練を積むために依頼したのだった。


 今では気心しれた仲であるが、出会った時は敵同士だった。何度も剣を交わし、研鑽された技の応酬に、ケンタウロスから声をかけられたのだった。僕が魔物と行動を共にしているのは中層では有名な話だったらしい。そこで魔物の言葉が分かると思ってのことだった。このとき、魔物の間でも細々とした伝達網はあると聞いた。



「いい感じ」


 短刀は、不思議と手に馴染んだ。ツバがないその形状は、正面からの力比べのような鍔迫り合いを想定していない。一撃必殺、背面攻撃、不意打ち。瞬間的な攻撃に特化していた。




「ワンワンッ!」


 双頭の小犬のような魔物が飛び込んできた。


「オルト!迎えに来てくれたの?ありがとう、くすぐったいよ」


 オルトと呼ばれた魔物はそれぞれの頭から伸びる舌でロキの顔を舐め回していた。


「まさか、あの卵からオルトロスが生まれるとは…意図せずして、ケルベロスとオルトロスの関係を証明してしまいました」


 エリンは頭を抱えながら、その光景を見つめていた。ケルベロスの卵からオルトロスが生まれる。ウンディーネに続き、またもや大発見だ。


 ケルベロスは主に下層で生息しており、オルトロスは中層で見かけることが多い。その時、ケルベロスとセットで出現するが、下層から中層に出てきた異常事態(イレギュラー)として片付けられていた。


「どうやって報告したらいいんでしょうか…」


 まともに報告したら、虚偽を疑われる可能性がある。それに、もし真実と信じてもらえたなら学者達から質問攻めにあって長い間、拘束されるかもしれない。それなら内緒にしておこうか…いや、聖職者として、人類の発展に協力しないのは許されない。


「うーん、せっかく地上に帰れるのに、喜べない自分がいる…」


 エリンの悩みは尽きない。





 カーン、カーン。


 一定の間隔で、鉄を打つ音が鳴り響く。その音の出所は、美しい湖の畔に建てられた小屋。


「今日も絶好調じゃー!!」


「ゴゴゴー!」


 深夜のテンションのゴブリンと子供くらいの大きさのゴーレム。小屋の中は汗が滴るくらいに暑い。理由は、部屋の中心に置かれた特製炉のせいだ。これはマグマゴーレムの心臓部にあった宝石を原動力にして、金属を溶かすほどの熱量を発する。


 この特別製の炉を作る時も、カイン、コウケイ、ウンディーネの三人組にゴーレムを加えた四人組で成し遂げた。最もゴーレムは応援担当ではあったが。


 この暑さのおかげかは分からない。生まれる気配はあるものの、カインのカバンの中に入っていた卵。炉が完成した翌日、殻を破って可愛らしい双頭の小犬が生まれたのだ。僕が名付けをしようとすると、みんなから全力で止められた。ワン太郎、と頭に浮かんだのに…。とにかく人懐っこい犬のような魔物が生まれた。今ではみんなのペットとして、可愛がっている。


 どうしてまだ中層に留まっているかと言っと…、マグマゴーレムとの戦いには勝利したものの、僕、スコル、ハティの消耗は激しかった。転職したエリンの回復魔法のおかげで、表面上の怪我は完治した。ギリギリ状況での命のやり取り、精神的な負担は大きかったんだと思う。拠点に戻ってきた後、僕は熱を出して二日ほど寝込んでしまった。


 スコルは口では、「軟弱者」と言っていたけど、毎朝様子を見にきてくれてたし、気にかけていたんだと思う。やっぱり見かけによらず優しいところがある。


 ハティはいつにも増してボーッとする時間が増えていた。ハティにも負担が大きい戦いだったからね。仕方ないよ。


 新武器のテストを兼ねた準備運動も終わったし、いよいよ地上に向けて出発だ。早くエリンをお家に帰してあげないとかわいそうだからね。



 出発の前に、職業について整理したい。ついに僕は中級職になった。かなり短期間で、ここまで来た気がするけど、それだけ死線を彷徨う戦いだったと思う。


 中級職【義賊(ぎぞく)】。


 僕はもちろん聞いたことはないし、エリンも初めて見たと言っていた。どんなスキルを覚えるかは分からない全くの未知数。変な職業じゃないといいんだけど。ただし、中級職としての恩恵はあった。全てのステータスが実感できるほどに軒並み上がったと思う。中でも素早さの上昇は凄い。短時間なら、スコルとハティに難なく着いていけるようになった。


 エリンの話だと、職業には一般的な職と、ある条件を満たした場合に転職が可能になる特殊派生が存在するらしい。僕の【義賊(ぎぞく)】は、恐らく特殊派生だと言っていたが、条件を達成した心当たりはない。変な職業じゃないといいな。


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