遊子と老いぼれ企画屋 ~最終話~
一年後――。
万年アイドリングプランナーだったあたしに、ついに一本のゲームを任せてもらえる時がやってまいりました。それは、なんと! ドラチュウのゲームアプリでした。
実は、以前ドラチュウのポータルアプリ用に考えたあたしのアイデアを、湯深監督にいたく気にいっていただき、もし、ゲームアプリを作るなら御手洗さん以外には考えられないと、強くプッシュしていただいたのです。
でも、相変わらずマイペースで気まぐれなあたし。正直、ゲームアプリのディレクターとしてやってゆけるのかとても不安でした。しかし、あたしが一番信頼しているしおりんや、1年たってちょっとだけ逞しくなった長友君がメンバーに入ってもらえるということで、その不安もどこかへ吹き飛んで行きました。
あたしは、このゲームを必ず面白いものにするために、チームの合言葉を作りました。
――自分が考えたアイデアを、自分自身が子どものように楽しめたら、そのアイデアは評価される――
長友君が、それって自己満のゲームでも良いということですか? と訊いてきたので、あたしはこう答えてあげました。
いいわ。その代わり自分自身が子どものように楽しめないとダメよ――と。
すると彼は「なんか仰ってる意味がよくわかりません……」と不安気な表情で首を傾けます。
長友君。それで良いのです。このゲームアプリを完成させ、世に公開して、ユーザーの評価をいただいた時、その本当の意味がわかると思いますから――。
熱い夏がその日差しを弱め、秋の気配を感じさせる頃になりました――。
梨がおいしい季節です。あたしは、ふと、古田さんにいただいた荒尾梨を思い出しました。あれは大きくてみずみずしくてとても美味しかった……。
またその梨が食べたくなったあたしは、ネットでお取り寄せできないか調べてみることにしました。
荒尾梨のワードで検索するとぞろぞろと販売店名が出てきます。
う~ん、どこがいいんだろ? そう言えば古田さんの弟さんは農園をやってるって仰ってたわ。
あたしは『荒尾梨 古田』で検索してみました。四件ヒットしました。どれだろう? 弟さんの名まえは知らないからなぁ……。
もしかしたら――
あたしは何の根拠もないまま、ただなんとなく『荒尾梨 古田和夫』で検索してみました。
えっ!? これ、もしかして古田さん?
ブラウザに表示された画像に懐かしい笑顔を見つけました。それは農作業服に身をつつみ、大きな梨を両手にもって微笑むまぎれもない古田さんの姿でした。あたしはすかさずその画像をクリックして画像元の場所を探しました。すると『梨梨日記』というタイトルのツイッター画面が現れました。
その中に、その画像が添付された古田さんのつぶやきがあります。日付をみるとつい最近のようです。
『古田・兄@FURUTA・ORCHARD
ついに私が手塩にかけて育てた荒尾梨が実りました。いやあ~嬉しい嬉しい! 一個食べてみましたが、今年は夏の気候がベストだったせいか、甘さ、みずみずしさも最高! 早く皆さんに食べてもらいたいです。これでやっと私も一人前かな? ん? 梨だけに、まだまだ甘いですか(笑)』
わあ~、古田さん、農業に転職されてたんだ。なんかとっても素敵な笑顔。顔も真っ黒。ここにいらっしゃった時とは別人のようです。
あたしはその笑顔を見て、まるで自分のことのように幸せな気持ちになってきました。
通販やってるかしら? あとで古田さんの農園のサイトへ移動してチェックしてみましょう。しおりんや長友君にも是非食べてほしいから。
古田さんに連絡がとりたくなったあたしはダイレクトメールをしようとしました。しかし、残念ながらそのような設定がされてなかったようです。
仕方がないので、とりあえずリプライでコメントしておくことにしました。つぶやき画面をクリックすると、その下に三人のコメントが表示されました。
あれ? この一番最後のやつって……。
『不思議島の住人@arai_gameya
お元気ですか? 以前、データウェスト社でお世話になったA井です。そのせつはいろいろご無礼、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした。古田さんの美味しい梨が日本中の人たちに食べてもらえることを心より祈っております』
え……? このコメントって、もしかして――新井さん?
あたしは、それに対する古田さんのレスに目を通しました。
『おお 新Iくんじゃないですか! 懐かしいなぁ。よくここがわかったね。コメントありがとう。おかげさまで美味しい梨ができました。今度是非(買って)食べてみてくださいね!(通販やってます)
PS:もう昔のことは梨にしましょう。(笑)』
やはり、コメントは新井さんのものでした。まさか、こんなところで二人が仲直りしていたとは、夢にも思いませんでしたわ。
あたしもコメントしとこうかな。
ちょっとした同窓会気分で嬉しくなったあたしはキーボードに手を伸ばそうとしました。
でも――、やめときました。
ここは、二人だけにしておいてあげましょう。それが一番良いと思います。あたしは今のゲームを完成させヒットさせたら、その時に改めて古田さんに連絡を差し上げましょう。
古田さんのアドバイスが正しかったことをお土産にして――。
あたしはコメントを書くかわりに、『いいね』のボタンを、ゆっくりとクリックしました。
~『遊子と老いぼれ企画屋』 おわり~




