2-92 神秘の森ダンジョン 1
8月9日火曜日。
とうとうダンジョン攻略日の当日になった。
気がそぞろになるといけないので、午前中の間にリアルの用事はガッツリ済ませておく。
そしてファルディアの用事は午後に1回ログインして済ませる予定だ。
まず、予めレティナさんとティラ君にはテントを片付けるので昼までに別の場所でログアウトするようにお願いしてある。ダンジョンが無くなっちゃったら安全地帯じゃなくなるだろうし、多分もうここは使えないだろう。ただ、かまどだけは一応そのままにしてある。片付けるのはそう大変じゃないしね。休憩くらいできたほうがいいかもしれない。
その後は、アルシオンまで出向く。大体ダンジョンから20分ほどの意外と近い場所だ。
足りなくなったポーションを買い足したり、今までのドロップを売り払ったり、武器を手入れしてもらったりして自分の準備をする。
装備も何かないかな~と見に行ったけれど、これと言ってピンとくるものがない。ただ、良さそうなブーツがあったので、それだけ買い替えた。前使ってたのって一番安いのだったしね。
これで荷物整理も荷物の補充も終わったし、後は念のために走込みと素振り筋トレもしておく。レベルが上がる可能性が高いし、珍しく・・・いや初めてか。フルパーティーだからステータスが上がり切らない可能性が高い。
あとは念のためにステータスをチェックしているけれど・・・、何かすごく調子がいい気がするんですよね?
昨日勢いに任せて月光属性回復を取得しちゃったけど・・・まさかのまさかでPNTも対象になるとか言わないですよね?まさかね?それがセレネーツァ様の加護と相まってブーストされてるとか言わないですよね?まさかね・・・ハハハハ・・・
何も気づかなかった事にしておこう。
本当だったらちょっとまずいというか、こんな序盤でつくようなスキルじゃない気する。
何も気づかなかった。いいね?
しかし、月光操作は遣いどころが今の所ないしなーと思いスキル取得可能リストを見ている。昨日26SPも使ったから、残りが16SPしかない。
すると、また昨日なかったスキルが増えてる事に気づく。
技の欄にある項目。結構眩しめに光っている。こんなのあったら絶対昨日気づいたはずだ。
「一夜:夜見」
・・・一夜ってなんだ一夜って。夜見ってことだから見る技だとは思うんだけれども・・・。と、思いポップアップを開ける。
【スキル一夜:夜見 月属性の基本技第一階位。夜目を鍛え、魔力を良く捉える。】
ああ、うん。ええと?
・・・考えられるのは月光操作ですかね?遣いどころが無いと言ったリベンジでしょうか?操作する技が無いと思ったら操作を取ったことにより使う技が芋ずる式に出てきたってことですかね???
これってあれですよね、道場に入って学ぶって奴。
なんか自分はズルをしてしまったんだろうか・・・?
・・・。
よし、これも何も見なかった。気づかなかったことにしよう。
ポチィと2SPを払い、夜見を取得して、何も考えない事にした。
機能が被ってる気がするけれど、技とかだったら初めから順番に取らないと駄目だと思うし、魔力感知を取ったら重複して闇視が強くなったから、そういう事だと思っておく。
きっと誰もとったことが無いから分からないしねぇこればっかりは・・・。
いや、意外と全国に月都の人が散ってるんだから覚えてるプレイヤーが居るのかもしれない。
まぁいっか。影族でならきっと自分がはじめてだろうし。
―――――――――――――――――
そして、リアル夜19時半程。待ち合わせは20時丁度だ。
ファルディアでは大体15時前位だ。
待ち合わせの西門の外で皆を待っている。
レティナさんとティラ君は比較的早く来て、せっせとなんか作ってる・・・と思ったら自分用のポーションでした。すまぬすまぬ・・・。
「どうせそんな事だろうと思った。」
と、昨日ティラ君にもらったポーションを全部使い切った事を白状させられました。
どうしてわかったんだろう?
きっと精神とかにもDEXの補正がかかっているのだろう、とそう思う。
なんにしてもポーションはスタックできるので少しは買い足してあるけれど、沢山ある方がありがたい。
レティナさんと言えば
「いいな~私もレベラゲしたかった~。あ、でも薬ゴリゴリも楽しかったです!」
と、あくまで前向きだ。いい事である。
「イベントに向けて準備はできたんですか?」
と、二人に聞いてみたところ
「「ばっちり」」
という返事だった。
それはそれは。急な展開で準備が追い付かなかったら、ちょっと申し訳ないなと思ってたんですよね。レベラゲとかレベラゲとかいっぱい予定にいれちゃったからね。間に合ってよかった。
ていうか、レティナさんとティラ君はずいぶんと仲良くなった気がする。ティラ君はおひとり様も好きみたいだからどうでもいいんだけど、レティナさんの場合、元社交的が拗らせてる感じがするので、普通の友達っぽい人が増えてくれた方が安心できる。まぁ、ティラ君が普通かは微妙だが、人を裏切るような人ではないと思うので比較的安心して見ていられる。
とりあえずイベントの準備で一番間に合ってないのは自分だろう。
ここ数日、レベルとスキルは沢山上がったが、儲けと言えば薬代と装備代などに使ってしまったため、+3万Fいくかどうかってところ。
こればっかりは仕様がないですよね。
そんな感じで雑談をしていると、10分前にセイさんと一人の人族の男性が一緒に歩いてきた。
「お 待 た せ~!」
セイさんは超ご機嫌だ。
体中でルンルンと喜びを表している。
そんなに洞窟探検したかったんですかね?
一方でセイさんが連れてきた男性は落ち着いた感じの、ティラ君よりも表情が読めなそうなローブの男性だ。
セイさんとは対照的で、落ち着いて目端が利くような感じに見える。
「これ!私の従弟!フィーデルね。よろしく!!!」
「・・・今日はよろしく。」
ぺこりと頭を下げられる。
無口な人なのかもしれないな。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
と頭を下げておく。
ティラ君やレティナさんも紹介している間に、待ち合わせ時間5分前に厳つい重装備のガンツさんが到着した。何処から見ても、伝統的な髭族戦士である。頼もしい。
「よぉ。」
ガンツさんも相変わらず無口な方である。
「ガンツさん!お久しぶりです!」
「そんな時間たってないだろう。」
ツッコミを頂いたところで、簡単な自己紹介を再度していると、西門に来た別の影族の人たちがこちらを見ていることに気づく。
「あー!あれって最初の影の人じゃない~!?」
「バーカちげーだろ~『本体』がいねーよ。」
そう言いながら草原の北の方に向かって行ってしまう。
プレイヤーの人って外では初めて見たなぁ・・・。影族増えてきたんだーと感慨深い。
しかし、『本体』ってなんだ?
首を捻ってると、セイさんとティラ君が吹き出す。
「やだ!サク君ってば、自分の事なのに知らないの?おっかしぃ~!」
ヒーヒー笑っているセイさん。
何だろう?
そして、無表情でティラ君がのたまう。
「最近影族の板では、サクの本体は兎君って事になってる。」
「は?」
そして無表情で再び吹き出すティラ君。
凄く器用ですね・・・。
「良かったな、有名人!」
「は???」
全然よくねぇよ。何だよその噂。
「兎君が本体ってどういうことなんです?」
真面目っ子レティナさんは真剣に分かってない模様。
それを聞いてセイさんがさらに爆笑している。
一方、男衆は笑うに笑えず困惑といったところ。
なんか、ごめんなさい?
「兎君が実はサクの『本体』で、陰で体を操っているというのが世間での通説だ。」
と言う全然説明になっていない様なことを、さも当たり前の様に言う。
「うわぁ、そうなんですか~。知らなかったです。」
「自分も知らなかったですよ・・・。」
誰だよそんな事言い出したやつ。
他の人たちも絶対嘘だってわかって言ってるよね?・・・わかってるよね?
レティナさんの様子を見ていると不安になるが・・・。
バカばかりやってる暇はない。
「じゃあ・・・時間も勿体ないですし歩きながら説明しますので、とっとと向かいましょうか。」
なんかダンジョンに行く前に、ドッと疲れた。
・・・でも、おかげで戻り切らなかったテンションが、いつもに戻ってきた気がする。
自分が落ち込み気味だってティラ君は見抜いた?まさかねぇ・・・?
とはいえ、事前に説明しておくべき事は特段あまりなかった。が、念のため一通りの説明を始める。
とりあえず、背景から説明するか。
今回3人でレベル上げをしていて洞窟を見つけた事。
ここから歩いて20分ほどの距離であること。
中の入り口のモンスターが40レベル前後あって挫折した事などを説明していく。
イベントがあるので攻略を諦めるか迷ったが、人数が居れば行けそうなので今回この企画をしたこと。
あとは、中は殆ど見ていないがとりあえず入り口はやや安全な事と、火玉に蝙蝠が食いついてきたので、あまり火魔法は序盤は使わない方がいい事を伝えておく。
後は何があるかな?
信頼性を重視したので、PT構成が悪い事を詫びるとともに、無理せず可能な限り洞窟を見て、予定時間の半分くらい過ぎたら折り返して戻る予定の事。また採掘や採集ができそうならする事。
全て見れなかった場合、攻略をどうするかその後決める事などを伝えておく。
「攻略をどうするか?」
そこでフィーデルさんが不思議そうに聞き返すが、「まあ中に入れば、きっとわかります。」と伝えておく。ダンジョンって言ってもいいんだけど実物見たほうが信じられるしね。攻略が無理そうだった場合、自分たちとしてはギルドに通報かな?って感じにはなっているけれど、実際見てみないと分からないので見てから考えようという結論になったのだ。
中は真っ暗で光玉を用意したのでとりあえず光源は大丈夫だと思うけれど、不測の事態があるかもしれないし、気づいたことがあったら安全のためにもどんどん言ってくださいと伝える。
PT構成は・・・やってみないと分からないので適宜変えていくけれど、レティナさんとセイさんが回復魔法使えると思うので、悪いですが回復や補助をメインにお願いします、と伝える。何かあってマラソンが必要ならティラ君にお願いしますと言うと「まかせろ」という男前な返答を頂く。自分が回避盾の1枚を担うので、ガンツさんも様子を見て大丈夫そうだったらどんどん前に出てくださいとお願いしておく。フィーデルさんは初めてご一緒するのでよくわからないんですが・・・、と言うと横からセイさんが
「大丈夫よ、この人は!私で慣れてるから応用力が高いの!適当に穴を上手く埋めてくれるわ!」
と、自慢げに高らかに宣言する。
「自慢する事じゃないだろ!」
すかさずフィーゼルさんにツッコまれていたのが面白い。二人とも息がぴったりみたいなので、きっと大丈夫だろう。あのセイさんが言うんだから信頼感がある。
「よろしくおねがいします。」と言っておく。
仲がいい人たちを見るのは気分がいい。
あ、それと中で何かはぐれたりするといけないし、とりあえずフィーデルさんにフレンド交換をお願いする。フィーデルさんは初めちょっと戸惑ったみたいだけれども、ゲームは慣れてるみたいで「よろしく。」と言いながら、すぐ連絡先を交換してくれた。
その後、今日の薬と食事セットなどを配ってFを回収したりしていたりすると、現場が見えてくる。
岩肌にもわ~っとした黒いものを目視でとらえて、初見の3人は反応がバラバラだ。
「なにかしらあれ?」
「ん?洞窟?」
黒いもわもわをみて首をかしげるフィーデルさん。
「・・・洞窟じゃねぇだろ。あれは。」
ガンツさんはすぐに見抜いた模様。
そして、目的地の黒いもわもわにたどり着く。
「えっとですね、これの中にあるんですよ。中入ったらグルグルするんで、気をしっかり持ってくださいね?一回気絶した事あるんで。」
「え?え?」
意味が分かってない様子のセイさん。後ろでレティナさんが苦笑して、ティラ君は相変わらず真顔のままだ。
とりあえず、こんな得体のしれないのに入ろうとはまず思わないだろうし、自分が先に入る事にする。
「先に入って安全確保しておくので、後から来てくださいね。」
そう言い残し、入口にズボッと入って、グルグルして、到着。
相変わらず、このグルグルにはあまり慣れない。
周囲を索敵。気配察知、魔力感知、第六感共に異常なしっと。
次にティラ君が入ってくる。
すかさず光玉を付けている。
意識を前方に持っていく。しかし、この光玉には蝙蝠は反応していない模様。
この光玉。不思議な物体で、ふわふわと風船みたいに浮かんでいる。ティラ君はそれを自分の服に括り付けている。
「大丈夫そうですね。」
「よかった。」
敵も、もはや少し格上程度。
レベルも前より正確にわかる。
一番近い蝙蝠で41レベルといったところかな。十分やれる範囲だ。
ダンジョンを安定してクリアするには、ここからどれくらいレベルを上げて行けるかによるだろう。
周囲を索敵していると、しばらくしてガンツさん、フィーデルさん、その後にセイさんとレティナさんがくる。
ガンツさんはダンジョンに入る早々、周りの岩に夢中で
「これはアルシオンの周囲の地質とはまた全然違うな。赤みはあるが・・・。これは鉛か?」
などとブツブツ言ってる。
「地下水・・・マグマだまり・・・。」などと漏れ聞こえてくる。
フィーデルさんは頭を抱えてて「やられた・・・。」と言っていてる。
うーん騙されたって事かな?ダンジョンとは言ってなかったけど、ちゃんと洞窟じゃないですかねぇ?
むしろ、ダンジョンだとだめな理由ってありますかね・・・?あ、ガンツさんとかだったら継続した地質的な仕組みとかの方が興味あったとかになるのかな?悪いことしちゃったかな???でも、見る限りガンツさんは黙々と洞窟の壁の筋とか見てるし、問題なさそうな気もするけれども。あれは何かの後とかなのかなぁ。本人が楽しそうで何よりです。
セイさんは爆笑しそうなんだけど、ここで笑ったら敵が来ると思って必死に耐えてそう。
腹を抱えて下を向いて痙攣してる。
「個性的。」
とティラ君が一言。自分もそうは思ったけどさぁ。
「それ、ティラ君が言うんです?」
ついツッコんでしまう。
「ひどい。」
レティナさんはどうしていいのか分からないのだろう。自由な大人たちの間でキョロキョロしている。一番普通っぽくて安心する。見た目が幼女だけど。
「あ、PT組むの忘れてた。よろしくお願いします。」
と個性的なメンバーの反応は無視し、ポンポンとフレンドリストからPT勧誘を飛ばしていく。
どんどんと組まれていくPT。レベルをちゃんと見ていなかったけれど、各レベルが高い順番に、
セイLv.45 フィーデルLv.41 自分Lv.39 ガンツLv.38 ティラLv.37 レティナLv.36 だった。
セイさんはレベルが高いと思ってたけど、ホント高いな。
ていうかガンツさんも思っていたより高いですね!?ってなってる。ティラ君とレティナさんも1上げたのか。勤勉だなぁ。
「セイさんレベル高っ。」
と思わず口に出して言ってしまう。
最前線って話題になってる人たちよりも高いよね?だから隠遁してるのか?隠遁してるから最前線と認識されていないのか?
「趣味がレベル上げで、レベルが高いだけだよ~。装備揃ってないしね~。」
とのこと。確かに装備は大事ですよね・・・。
一方フィーデルさんは漸く復帰してきて、今までヘルプなども読み込んでた模様。
「つまり、ダンジョンを見つけてクリアしたいって事だな?そして、クリアできない場合はギルドに通報したりしないと危ない場所だという事だな?」
とフィーデルさんに肩を掴まれギラギラと確認される。ちょっと怖い。
「初めてダンジョン見たら探検したくないですか?危ないかはちょっと分からないですね。」
と言うとガックリとされる。
あれ?なんかおかしなこと言ったかな?
「とはいえ、自分繋がってないんで死んだらアバターロストかもしれないので、安全マージン取って進みますんで、よろしくおねがいします。」
あらかじめ伝えておく。
ごり押し特攻?
そんなの無理ですよ。まだ死にたくないんで極限まで頭を使いますからね?
「あら?サク君も?」
「えっ?」
意外な事を言い出したのはセイさんだ。
「私もね、死んだらロストするかもしれないから死ねないのよね。良かった。同じ人がいて。」
安心ね~頑張りましょう、と両手を合わせて朗らかに言う。
いやいや、そんな重大な事今更・・・。
そりゃ、フィーデルさんが過敏な反応をするわけですね?
本人よりも従弟の方が必死ってなんか可哀想な気がするんですが、いいんですかね?
「・・・とりあえず、危なかったら逃げてくださいね?」
「バッチ逃げるわ~」
「・・・はい。」
うーん何か自分がロストするなら後悔しなければいいやと思うところなんだと。人がロストするかもと聞くとドキドキするなぁ。
「ブーメラン奴。」
「うっ。」
ティラ君にとどめを刺された。
自分が思ってるほど、他人がロストするというのは気持ちがいいものではないという事が、嫌というほどわかった。
なんか、こう。
・・・・ごめんなさい。
死んだらアウトの縛りプレイ。今開幕。




